気づき始めた想い
「おはよう、可織」
「あ、お兄ちゃん!もう大丈夫なの?」
「ああ、すっかりな」
「一日で治るとか、回復早いね」
「寝まくったからな」
結局、風邪で学校は一日だけ休んだ。
そのほとんどを寝て過ごしたおかげで、体調はほぼ元通りだ。
「どっか行くの?」
「直美のとこ。ノート写させてもらいに」
「昨日の分?」
「そう」
「私も出かけるから、鍵持っていってね」
「了解」
「いってらっしゃい」
「いってきます」
テスト前に休むのは正直きつい。
ノート提出もあるし、さっさと取り戻さないとな。
「あ、来た来た」
直美の家に行くと、何故か直美が家の前で待っていた。
「……家の前で待つ必要あったか?」
「たまたまだよ?」
「ほんとか?」
心配して出てきていたのかと思ったが、玄関には何故か麻衣子がいた。
「どうしたんだ、麻衣子?」
「テスト勉強しに来たの」
「なるほど」
「直美って頭いいしね」
「それは否定しない」
「光司君は?」
「俺はノート写し」
「光ちゃん、ほんとに大丈夫?」
直美も心配性だなぁ……
「大丈夫じゃなきゃ来てないって」
「でも強がりそうじゃん」
「それはあるね」
強がりなのは認めるが……
「いやいや、さすがに風邪のまま来ないって。うつしたら最悪だしな」
「それは困る」
「私も嫌だなぁ」
「だからそこはちゃんと考えてるって」
「じゃあ信じよっか」
「そうだね」
「……俺って普段信用ない?」
「どうでしょう?」
麻衣子が悪戯っぽく笑う。
「おい」
「まぁまぁ、上がって」
「お邪魔します」
こうして俺と麻衣子は直美の部屋へ。
直美の部屋に来るのはいつ以来だろ?
「久しぶりだな、ここ来るの」
「だね。中学以来じゃない?」
思い出した。
「受験のときだな」
「二年ぶりだね」
「私は初めて」
「そりゃそうだ」
麻衣子は転校してまだ一年も経ってないから、そりゃ初めてだ。
「じゃあ始めよっか」
「私は古典」
「俺は現代文」
「了解」
直美が教科書やノートを準備する。
こうして、三人での勉強が始まった。
……が。
「直美、辞書ある?」
「これ使っていいよ」
「このプリント見せて」
「いいよ」
「ねえねえ、冬休みどうするの?」
「まだ決めてないかな」
開始から僅か三分。
すでに一人、集中力が崩壊していた。
「……麻衣子」
「ん?」
「そろそろちゃんとやらないか?」
「え?」
「直美の勉強、止まってるぞ」
「あっ……ごめん直美!」
「いいよ、全然気にしてないし」
「……直美ってほんといい人だね」
「ありがとう」
「いや、そこ褒めるとこじゃないだろ」
「じゃあ、今度こそ集中ね!」
俺たちは各々自分たちのやることを進めた。
時々麻衣子の手は止まっていたが、最初よりは集中していた。
「そろそろ帰ろうかな」
気づけばもう五時過ぎ。
外はすっかり暗くなり始めていた。
「暗くなるの早いよね」
「冬だしな」
俺と麻衣子は帰る用意し、玄関へ移動した。
「今日はありがとな」
「うん」
「お世話になりました」
普段そんなキャラじゃないだろって突っ込みたくなるぐらい、麻衣子は綺麗にお辞儀した。
「そんなにかしこまらなくていいよ」
「なんて言えばいいか分かんなくてさ」
「また明日でいいんじゃね?」
「それもそうだね」
「うん。気をつけて帰ってね」
「ああ」
「バイバイ、直美」
「麻衣子も気をつけてね」
「ありがと」
直美に見送られながら、俺と麻衣子は外に出た。
「じゃあ、行こうか」
「……え?」
麻衣子は意外そうな顔をした。
「どうした?」
「光司君、家あっちでしょ?」
「暗いし、送ってく」
「いや、大丈夫だよ。そこまで暗くないし」
「そういう問題じゃないだろ」
「……ありがと」
並んで歩く帰り道。
昼間とは違って、少し静かだ。
「テスト、大丈夫そうか?」
「うん、たぶん」
「火曜からだな」
「そうだね」
「俺も、無理しない程度にやらないとな」
「赤点は避けたいもんね」
「それは絶対な」
自然と笑みがこぼれる。
「ここでいいよ」
桜マンションの近くで、麻衣子が突然足を止める。
「いや、マンションまで送るけど」
「ここでいいの」
「……なんで?」
「病み上がりでしょ?」
「……」
「あんまり無理したらダメだよ」
「……そっちかよ」
「当たり前でしょ」
「……サンキュー」
「うん」
「じゃあな」
「バイバイ」
背を向けて歩き出す。
……送るつもりが、気遣われてたのはこっちか。
あいつ、こんな気遣い出来るやつだったっけな。
いや――
前から、そうだったのかもしれない。
ただ、気づいてなかっただけで。
……まぁいいか。
今はとりあえず――
テストのこと考えないとな。




