いつもと違う景色
「お兄ちゃん、早く起きないと遅刻するよ」
「……ん、ああ」
文化祭が終わって一週間が立った。
期末テストまであと五日。
昨日少し夜更かししたせいか、体がやけに重かった。
「顔色悪いけど、大丈夫?」
「多分な」
「無理しないで休めば?」
「いや、今休むほうがまずいだろ。もうすぐテストだし」
「でも、ここで無理して悪化したら意味ないよ?」
「平気だって。風邪って感じでもないし」
「……お兄ちゃんがそう言うならいいけど」
「悪かったな、心配かけて。それと、起こしてくれてサンキュー」
「う、うん」
「よし、準備するか」
「私はもうほとんど終わってるよ」
「マジか。急がないとやばいな」
ピンポーン。
朝早くから家のチャイムが鳴った。
「あ、はーい」
可織が対応してくれる。
ガチャ。
「おはよう、可織ちゃん」
「な、直美さんに麻衣子先輩」
直美と麻衣子?
「いつもの時間になっても来ないから、ちょっと様子見に来たの」
そういうことか。
「お兄ちゃんが寝坊してて……」
急いで準備を終わらせる。
「悪い、寝坊した」
「大丈夫だよ。たまにはそんなこともあるし」
「……光ちゃん、顔色悪くない?」
「そうか?」
「言われてみれば、ちょっと」
二人から見ても、今日の俺は体調が悪く見えるようだ。
「気のせいだろ。それより急がないと遅刻するぞ」
「ほんとだ」
「急ごう」
「早歩きだな」
「そうだね」
急足で学校へ向かう。
「そういえば、成美は先に行ったのかな?」
「この時間なら行ってるかもな」
「あれ、前歩いてるのって……」
「……成美っぽいな」
「なんかゆっくり歩いてない?」
「成美ー!」
「え? あ、おはよう。今日は遅かったね」
「悪い、俺が寝坊した」
「大丈夫だよ。私も寝坊してたし」
「マジで?」
「うん。いつもの時間に来てもらっても間に合わなかったかも」
「今日は寝坊デーだな」
「そんな日ないでしょ」
こんなときでも直美はしっかり拾ってくれる。
「でも、寝坊する人って多いよね」
「……間に合うかな」
「大丈夫だろ」
「だといいけど」
こうして俺たちは急いで学校へ向かうこととなった。
夜更かしなんてするもんじゃないな……
⸻
「やっと終わったね」
「うん、長かった……」
四時間目が終わり、昼休み。
けど正直、今日の授業はほとんど頭に入っていない。
朝からずっと、意識がぼんやりしていた。
「今日はお弁当?」
「私は持ってきてるよ」
「私も」
「光司君は?」
「……え?」
「お弁当、ある?」
「あ、ああ……ある」
「じゃあさ、どこかで集まって食べよ」
「私の席の近くどう?窓際で暖かいし」
成美が提案する。
「いいね、そこにしよ」
「――ねえ、光ちゃん?」
「……え?」
「大丈夫?」
「さっきから全然話聞いてないよ?」
「授業中もぼーっとしてたし……」
「あー……ちょっと、きついかも……」
立ち上がろうとした瞬間、
ぐらっ――
視界が、大きく揺れる。
足に力が入らない。
そのまま――
ドサッ。
「光ちゃん!?」
「ちょっと、しっかりして!」
「顔色やばいよ!」
「……え、あ……」
声は聞こえるのに、うまく返せない。
「私、先生呼んでくる!」
周りの音が、少しずつ遠くなる。
⸻
「……ん」
「光ちゃん!」
「……直美?」
「大丈夫?」
「ここ……」
「保健室だよ」
状況をなんとなく理解する。
「今、何時だ?」
「五時」
昼からの授業全て保健室で寝てたのか……。
「……結構寝てたな」
「うん。ぐっすりだったよ」
「みんなは?」
「麻衣子と成美と高橋君は先に帰った」
「沙樹は部活、可織ちゃんはご飯の準備で帰ったよ」
「……そっか」
「熱、測る?」
「ああ」
ぐっすり寝ていたようだが、体調は相変わらず良くない。
「先生は?」
「五時から会議だって」
「なるほどな」
道理で保健室に直美しかいないわけだ。
「……まだ顔色悪いね」
「まぁ、多分風邪だな」
「最近ちゃんと寝てた?」
「いや……ちょっと夜更かししてた」
「勉強?」
「半分くらい」
「残りは?」
「テレビと漫画」
「それはダメでしょ」
「だよな……」
ピピピッ
「何度?」
「……三十八度」
普通に熱あるのか……朝から熱あったのかもな。
「帰れる?」
「歩くくらいなら問題ない」
「家まで大丈夫?」
「ああ」
昔はよく熱をだしていたこともあってか、三十八度ぐらいでは歩くぐらいは問題ない。
「無理しないでね」
「悪いな、こんな時間まで付き合わせて」
「いいの。保健委員だし」
「いや、そういう問題じゃないだろ……」
「……幼なじみを心配するの、普通でしょ?」
「……まぁ、そうだけど」
「だから気にしなくていいよ」
「直美がそう言うなら、助かるけど」
「可織ちゃん、絶対心配してるよ」
「だろうな……」
「朝、止められてたんじゃないの?」
「……まぁな」
「言うこと聞けばよかったのに」
「今思えば……な」
「ほら、立てる?」
直美が手を差し伸べてくる。
「……大丈夫だって」
「強がらないの」
ぐっと腕を取られる。
思ったより、近い距離。
「……」
「ほら、帰ろ」
「ああ」
直美に支えられながら、俺たちは学校を後にした。
⸻
「……こんなときに倒れてる場合じゃないのにな」
「え?」
「もうすぐテストだし」
家までゆっくり歩きながら、俺は自分の行動を反省した。
「倒れるまで無理する方がダメだと思うよ」
「……正論だな」
「体調悪いときは休むのも大事」
「ああ……」
「無理して来て倒れたら意味ないでしょ」
「……なぁ」
「ん?」
「なんか直美、保護者みたいだな」
「心配してるだけ」
「……分かってるよ」
「だから、無理しないで」
「ああ。ほどほどにな」
「今日はちゃんと寝てね」
「そのつもり」
そんな会話をしているうちに、直美の家の前に着いた。
「ここでいいぞ」
「ほんとに?送らなくて大丈夫?」
「大丈夫だって」
「……そっか」
直美は不安そうに俺を見ていたが、さすがに送ってもらうわけにはいかない。
「じゃあ、また明日」
「来れたらでいいからね」
「ああ」
直美に見送られながら一人で帰る。
……あいつ、あんなに世話焼くタイプだったか?
いや、前からか。
ただ――
気づいてなかっただけかもしれない。
⸻
「ただいま」
「あ、お兄ちゃん!」
可織が玄関まで走ってくる。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃなかったら帰ってきてないって」
「直美さんは?」
「心配してくれてたけど、直美の家の前で別れた」
「そう……」
「心配すんな、大丈夫だ」
可織は心配性だから、空元気でもいい、元気そうにしておかないとな。
「ご飯、どうする?」
今食欲はない……。
「ちょっと後でいい」
「分かった」
「悪かったな、心配かけて」
「ううん。お兄ちゃんが無事ならいいよ」
「……朝、言うこと聞いとけばよかったな」
「でしょ?」
「食べれそうになったら降りてくる」
「うん」
俺は自分の部屋へ行き、布団に倒れ込んだ。
とりあえず、さっさと治さないとなぁ……。




