文化祭、なにをする?
「そろそろかな?」
「だね」
「え?」
「何が?」
帰り道。
この会話だけで分かるやつには分かる。
「文化祭」
「ああ、去年と同じ時期だしな」
「そうなんだ」
「どんなことするの?」
興味津々の麻衣子と成美。
「定番なら喫茶店とかだな」
「でも普通すぎると他のクラスと被るんじゃないの?」
もっともな意見を言う麻衣子。
「それはあるね」
「同じじゃダメなの?」
成美の言う通り、同じでもいいと楽なんだけどなぁ……。
「同じだとジャンケンで決められるんだ」
「運ゲーじゃん……」
ため息混じりに成美が言った。
「被らないように“違い”出さないとな」
「例えば?」
麻衣子の目が輝く。
「喫茶店とお化け屋敷の融合とか」
「絶対落ち着けないでしょ」
直美の的確な指摘。
「決めるのは明日?」
「たぶん六時間目のホームルームだな」
「じゃあ案考えとかないと」
成美も結構乗り気のようだ。
「何がいいんだろう?」
みんなで少し考える。
「とにかく、他のクラスがやらなさそうなやつだな」
「じゃあ、私はこっちだから」
「ああ、また明日」
「バイバイ」
成美は小さく手を振った。
「いい案かぁ……」
「難しいね」
まだ悩んでいる麻衣子。
「派手すぎると怒られるし」
「そういえば麻衣子の前の学校って何やってたの?」
「模擬店が多かったよ」
「なるほど、料理系はありかもな」
「じゃあ一応候補に入れとこう」
「じゃあ、私はこっちだから」
「ああ、また明日」
「また明日ね、光司君、直美」
笑顔で麻衣子が手を振る。
「……でもさ」
「ん?」
「第一候補、あえて喫茶店ってのもアリじゃね?」
「え?」
俺の提案に少し驚く直美。
「他が避けるなら逆に狙える」
「なるほどね」
「勝負するならそこかもな」
「じゃあ後は中身だね」
「メニューとかで差つけるか」
「メニューとかは喫茶店って決まってから考えよ」
「だな」
「じゃあ光ちゃん、また明日ね」
「ああ、またな」
直美が手を振りながら家に入っていく。
他と被らないためにも、とりあえず可織が何をやろうと思ってるか聞いてみるか。
⸻
「ただいま」
「おかえり」
家に帰ると可織はすでに帰って来ていた。
「なぁ可織」
「何?」
「文化祭、何やるか決めたか?」
「え、まだだけど?」
「明日決めると思うぞ」
「そうなんだ……」
少し考える可織。
「休憩所ってどうかな?」
「休憩所?」
「冷蔵庫かクーラーボックス置いて、ジュース売って、ベンチ並べるの」
「なるほど」
「人少なくて済むし、その分回れるし」
「確かに合理的だな」
「年に一回なんだから、楽しまないと損でしょ?」
「まぁな。ただ……却下される可能性は高いぞ」
「やっぱり?」
「“みんなで作る感”が薄いからな」
「そっか……」
可織は少し残念がった。
「まぁ、そのときは別案出せばいい」
「うん、そうする」
しかし、可織はなかなか奇抜な案を思いつくんだなぁ。
「おはよう」
「おはよう」
――文化祭の案決め当日。
たった一日しか経ってないのに、妙にそわそわする。
「いよいよ今日だね」
「ああ」
「私たちの案、通るかな?」
「多数決だからな。なんとも言えない」
「だよね……」
「それでさ、喫茶店のことなんだけど」
「?」
「昨日、名前考えたんだけど……」
「名前決めたの?」
「喫茶Twenty Three」
「二十三?」
「二年三組だから」
「……シンプルだね」
直美は苦笑いを浮かべた。
「悪く言えば安直だな」
「でも覚えやすいよ」
「そうか?」
「でも、それだけじゃ弱いと思う」
「そこは考えてある」
「どんなこと?」
「“軽食もデザートも安さもナンバー1、喫茶Twenty Threeへようこそ”」
「……CM?」
的確なツッコミだ。
「文化祭だし、CMみたいでいいだろこれ」
「ちょっと面白いけど、ノリで終わりそう」
さっきまでの苦笑いではなく、いつもの笑顔になる直美。
「やっぱりか……」
「でも、言ってみる価値はあるよ」
「そうか?」
「うん。通るかもしれないし」
「おっはよう!」
朝からとても元気な麻衣子。
「おはよう」
「朝から元気だな」
「昨日めっちゃ寝たから!」
自慢げに言う麻衣子。
「何時間?」
「十一時間!」
「寝すぎだろ」
「まるで赤ちゃんだね……」
「テレビ見てて途中で寝落ちしたの」
寝過ぎた理由はあまり笑えない内容だった……。
「あるあるだけど、風邪引くなよ」
「うん、ありがとう。で、文化祭どうするの?」
さらっと本題に入る。
「喫茶店案でいく予定」
「シンプルな案にしたんだね」
少し驚く麻衣子。
「なんか他に案あったのか?」
「メイド喫茶とか?」
「それは……」
戸惑う直美。
「速攻却下されるだろ」
「そりゃそうか……」
思いつきにしても、さすがに文化祭でそれは無理がある。
「おはよう」
「おはよう、成美」
成美はいつも通りのテンション。
「文化祭の案決まった?」
「喫茶店かな」
「名前は?」
「Twenty Three」
「二年三組?」
成美はさらっと答えた。
「正解」
「分かりやすいね」
成美は苦笑いを浮かべた。
やっぱ微妙なのか?
「問題は場所だな」
「家庭科室使えたら楽なんだけど」
「でも他のクラスも狙うでしょ」
「だよな……」
「教室でやるしかないか」
「三分の一を調理スペースにするとか?」
「それならいけそうだな」
「ちょっと狭くなるけど」
「まぁ許容範囲だろ」
「後は――」
「通るのを祈るだけだな」
「大丈夫だよ」
麻衣子が微笑む。
「……根拠は?」
「ないけど」
「おい」
「でもさ」
少しだけ、笑って。
「こういうのって、意外と通るときは通るよ」
「……そうかもな」
麻衣子のこの言葉で、俺は自信を持てた。
根拠はないけど――
⸻
「今日は文化祭で何をするか決めます」
六時間目。
教室の空気が少しだけざわつく。
「いよいよだな」
「だね」
小声で話す。
「意見のある人は?」
一瞬、静かになる。
――来るか?
「はい!」
「坂本さん」
「喫茶店はどうですか?」
「喫茶店か……」
「腹減るし普通に行きたい」
「でも他と被るんじゃ……」
「逆に穴場じゃね?」
教室がざわつく。
「先生、どうですか?」
「いいと思うぞ。他のクラスは避ける可能性が高いからな」
「他に意見のある人いますか?」
けれど、誰も手を挙げなかった。
「それじゃあ――」
「今年は喫茶店で希望で提出します」
「やったね!」
喜ぶ麻衣子。
「決まった!」
成美は少し驚いていた。
「ナイス、直美」
「……ありがとう」
直美は小さく息を吐いた。
どうやら、案が通るまでかなり緊張していたらしい。
「名前は決まってる?」
「一応……」
直美がちらっとこっちを見る。
「田辺君が考えてくれてます」
「おい、マジでその名前でいくのか?」
「なんて名前?」
「……喫茶Twenty Three」
「二十三?」
「二年三組だから」
「シンプルだな」
「覚えやすくていいんじゃない?」
「悪くない」
思ったより反応がいい。
正直、少し笑われるかと思ってたのに。
「他に案ある人いる?」
……誰も何も言わない。
「じゃあ名前もそれで決定」
「おお……本当に決まったな」
まさかこれが通るとは……言ってみるもんだな。
「まだ仮決定だけど、役割分担は決めておきます。責任者は誰にしますか?」
「田辺でいいんじゃね?」
どこからとも無く指名される。
「は?」
「ちょっと待て」
「無理だろ俺」
速攻で否定する。
「大丈夫だよ」
「面倒見良さそうだしね」
直美と麻衣子が同調する。
「……強引すぎないか?」
「大丈夫。光司は人をまとめる力あるから」
成美まで……。
「じゃあ責任者は田辺君で」
「……マジかよ」
さらっと責任者になった。
「補佐は誰がやりますか?」
……沈黙。
誰も手を挙げようとしない。
これは俺が決める流れか?
「直美でいいんじゃね?」
「え、でも……」
戸惑う直美。
「俺にやらせるなら支えてくれ。お前なら安心できる」
「え……」
少し驚いた後、嬉しそうに笑う直美。
直美で決定かと思った瞬間――
「じゃあ、私やるよ」
「麻衣子?」
驚く直美。
「やってみたいし」
「他に立候補いますか?」
……教室は静まり返った。
そりゃ、誰もやりたがらないか。
「……じゃあ補佐は高木さんで決定」
「よろしくな、麻衣子」
「うん」
「私も立候補すればよかったかな……」
「なんか言ったか?成美」
「う、ううん。なんでもない」
成美は視線を逸らした。その頬は赤くなっていた。
(なんで私あんなこと言っちゃったんだろ……)
――ふと見ると。
直美が少しだけ視線を落としていた。
「……直美?」
「え?」
呼びかけるとすぐに顔を上げる直美。
「どうした?」
「ううん。何でもない」
そう言って笑う直美。
いつもの直美と変わらない――はずなのに。
麻衣子が補佐に立候補してから。
その笑顔がぎこちなく見えた――。




