変わらない関係、揺れ始める距離
「おはよう」
「おはよう」
今日は、成美の家に遊びに行くことになっている。可織は七海ちゃんを迎えに行く約束をしているため、俺たちは桜マンションで待ち合わせすることになっていた。
「可織、準備できたか?」
「うん。大丈夫だよ」
「そろそろ行くぞ」
「うん。あっ、ちょっと待って」
「早くしろよ」
「ちょっとぐらいいいでしょ?」
「そろそろ行かないとまずいんじゃないのか?」
「今何時?」
「十時五分」
「え?もうそんな時間なの!」
「十時二〇分に桜マンションなんだから、急がないと間に合わないぞ」
「うん」
「行くぞ!」
「わっ、お待たせ」
軽く走り出しながら、俺はため息をつく。
「もう少し早くから準備しろよ」
「ご、ごめん」
「直美が心配するぞ」
「直美さん、心配性だからね」
「……とはいえ、全力で走るほどでもないか」
「そうだね」
「二〇分に桜マンションだから、五分後には直美の家に着かないといけない」
「走る?」
「だな。このままだと間に合わない」
「しょうがないか」
「可織のミスだもんな」
「うぅ……」
少しだけペースを上げる。だが一分ほど走ったところで、自然と足を緩めた。
「これなら、あとは歩いても間に合うな」
「うん。それにそんなに遠くないもんね」
「五分ちょっとだしな」
「それにしても、南さんの家ってそんなに大きいの?」
「当たり前だろ。桜公園があった場所なんだから」
「あれ一帯が家?」
「ああ、ほぼな」
「大きすぎでしょ……」
「普通じゃないレベルだぞ」
「あっ、光ちゃん!」
顔を上げると、家の前で直美が手を振っていた。
「あ、直美さんだ」
時間通り、きっちり待っているあたりが直美らしい。
「少し遅かったね」
「可織の準備が長くてな」
「そうなの?」
「はい……」
「まぁ、女の子は時間かかるもんね」
「それは分かるけど、遅れていい理由にはならないだろ」
「それはそうだね」
「信夫たち、もう来てるかもな」
「そこまで早くないでしょ」
「でも、着くころには来てると思うぞ」
「来てなかったら遅刻だよ?」
「それもそうか」
「いつも光ちゃんか私が一番だもんね」
「早すぎなんですよ」
「時間ぴったりよりはマシだろ」
「たまたまだよ」
「はいはい」
「ねぇ、前歩いてるのって高橋先輩じゃない?」
前方に見覚えのある背中があった。信夫だ。
あいつの家は逆方向のはずなのに、なぜか俺たちの前を歩いている。
「あ、ほんとだ」
「おーい信夫!」
「ん?光司たちか」
「なんでこっちにいるんだ?」
「本屋に行ってた」
「何も持ってないけど?」
「今日は立ち読み」
「なるほどな」
「おはようございます」
「おはよう」
「そろそろ着くな」
「ああ」
桜マンションの前には、すでに麻衣子と七海ちゃんの姿があった。
「あ、もう来てる」
「七海!」
「あ、可織。おはよう」
「おはよう」
「沙樹が来たら全員揃うね」
「麻衣子、後ろ」
振り返ると、紗樹が静かに歩いてきていた。
「遅くなりました」
「後ろから来てたんだ」
「そういうこと」
「おはよう」
「おはよう、直美」
「それじゃ、行こうか」
「ああ」
こうして無事に全員集合した。
そして、俺たちは成美の家へと向かった。
「それにしても、大きい家なんだろうな」
「信夫も気になるか?」
「俺もって?」
「朝から可織が同じこと言ってた」
「なるほどな」
「でも、ほんとにそんなに大きいのか?」
「かなりな。もう豪邸ってレベルだ」
「そこまでかよ」
「もうすぐ着くぞ」
「そんなに近いの?」
「そうよ。私、さっき見てきたから」
紗樹がさらっと言う。どうやら下見済みらしい。
「どうだった?」
「……想像以上。かなり大きいわよ」
「楽しみだな」
前方に視線を向ける。
すでに目的地は見えているはずなのに、誰も気づいていない。
「もう見えてるぞ」
「え?」
「あれだよ」
俺が指さすと、全員の視線がそちらに集まった。
「あ、あれ……?」
「ああ。あの家だ」
一瞬、誰も言葉を失った。
「……デカすぎるだろ」
「想像の倍はあるな」
「いや、倍どころじゃないでしょ……」
「普通じゃ考えられない大きさだよ」
「何人住んでるの?」
「三人らしい」
「三人でこれ!?広すぎだろ……」
俺も思わず苦笑する。
三階建てのあの広さを三人で使うなんて、正直スケールが違いすぎる。
――まぁ、本人にとってはこれが普通なのかもしれないが。
「さて、と」
門の前に立ち、インターホンに手を伸ばした――そのとき。
「いらっしゃい」
先に扉が開いた。
「おっと、押す前だったか」
「来るの見えてたから」
どうやら、到着を待っていてくれたらしい。
「南さんの家って、本当に大きいんだね」
「ありがとう。でも、そんなに大きくないよ」
「え?これで?」
思わず聞き返す。
「前に住んでた家はこれより小さかったけど、もっと大きい家は近くにあったから」
「なるほど……感覚が違うわけか」
「そういうこと」
そこでふと思い出す。
「そういえば、まだ自己紹介してないのは可織と七海ちゃんだな」
「そうだね。他のみんなは一度会ってるし」
「えっと、こっちが妹の可織。で、その隣がクラスメイトの七海ちゃん」
「よろしくね」
「よろしくお願いします」
これで全員の顔合わせは完了だ。
「それじゃあ、入って」
少しだけ緊張した様子で、成美が中へと促す。
「お邪魔します」
中に足を踏み入れた瞬間、思わず息を呑んだ。
――やっぱり、広すぎる。
一度来たことがあるはずなのに、慣れる気がしない。
「ほんとに広いな……」
信夫も圧倒されているようだ。
「中も広いし、部屋も多いよね」
「この前数えたら、二十八部屋あったよ」
「そんなに!?」
普通の家では考えられない数だ。これだけあれば、どの部屋が何用か分からなくなりそうだ。
「そんなにあるなら、使ってない部屋もあるんじゃないか?」
「うん。何部屋かは空いてるよ。お客様用だから」
「なるほどな」
「とりあえず、お客様用の部屋に行こうか」
「ああ」
「二階でいい?」
「あ、ああ。どこでもいいよ」
「じゃあ二階で」
「お客様用って何部屋あるんだ?」
「たしか十部屋くらい」
「多いな……」
「そんなに人来るのか?」
「パパのお友達とか、いろんな人が来るから」
「それなら必要か」
「全部使うこともあるの?」
「何回かはあるよ」
「どうぞ」
「うわ、ここも広い」
「しかもキレイ」
「ソファーまであるし……」
「完全にお金持ちの家だな」
「ありがとう。飲み物入れてくるけど、何がいい?」
「俺は紅茶」
「俺も」
俺と信夫はいつもの紅茶。
「私はコーヒー」
「私も」
「私もコーヒー」
直美、紗樹、麻衣子はコーヒー派。
「私は紅茶で」
「私も」
可織と七海ちゃんも紅茶。
「分かった」
「あ、私も手伝うよ」
「私も」
「ありがとう。それじゃ、ちょっと待っててね」
直美と沙樹と成美の三人はキッチンへ向かった。
「それにしても、広いな」
「それしか言えないよな」
「せいぜい“キレイ”が追加されるくらいだ」
「だな」
「私も行けばよかったかな……」
麻衣子が少し申し訳なさそうに言う。
「大丈夫だろ。二人も行ってるし」
「そうですよ。私たちも残ってますし」
「だね」
「それにしても……この家、いくらくらいするんだろうな」
信夫がぽつりとつぶやく。
「新築なら五千万くらい?」
「いや、一億はいくんじゃないか?」
「そこまではいかないだろ」
気づけば全員が値段の話に乗っていた。
「成美、知ってるのかな?」
「さあな」
「聞いてみる?」
「どうせならクイズにしようぜ」
「いいね、それ」
「賛成!」
いつの間にか、値段当てクイズが始まっていた。
「いくらくらいだろうな……」
「七千万くらいかな」
「その辺だろうな」
「お待たせ」
「……」
「どうしたの?」
三人が戻ってきたことに、誰も気づいていなかった。
「成美、この家の値段って分かるか?」
「えっと、だいたい――」
「ストップ!」
「え?」
「値段は言わなくていい。分かるかどうかだけ教えてくれ」
「だいたいなら分かるよ」
「よし、OKだな」
「何が?」
三人は状況が飲み込めていない。
「題して、南家値段当てクイズ」
「値段?」
「この家の?」
直美と紗樹は少し呆れ気味だ。
「何かに書く?」
「携帯でいいんじゃないか?」
「そうだね」
「……って、直美って携帯持ってなかったよな?」
「うん。もうすぐ買う予定だけど」
「マジか。珍しいな」
「ついにデビューだね」
「そういうこと」
「じゃあ、直美は紙で」
「ありがとう」
「それじゃあ、シンキングタイム!」
「最低でも五千万は超えるよな……」
「八千万くらい?」
「いや、一億もありえるな……」
それぞれが小さくつぶやきながら考え込む。
――数分後。
「そろそろ決まったか?」
「うん」
「OK」
「決まった」
どうやら全員、答えは出たようだ。
「みんな決まったか?」
「うん」
「OK」
「決まった」
「はい」
どうやら全員、答えは出たようだ。
「よし、順番に発表していくか」
「光司から時計回りな」
「つまり俺、直美、沙樹、可織、七海ちゃん、麻衣子――」
「おい、俺を忘れるな」
「言わなくても最後って分かるだろ?」
「そういう問題じゃないだろ」
「まぁまぁ」
「光ちゃんもだけど、高橋君も落ち着いて」
「そうだよ」
小さな言い合いは、あっさり収まった。
「じゃあ、光司から」
「ああ。俺は――八五〇〇万」
広さを考えれば、妥当なラインだろう。端数の五〇〇万は、なんとなくだ。
「微妙な額だな」
「そうか?」
「私は七八〇〇万」
直美はさらっと答える。
「私は八一〇〇万」
沙樹はさらに細かく刻んできた。
「私は七〇〇〇万」
可織はシンプルに。
「私は七五〇〇万」
七海ちゃんも中間を狙う。
「私は一億」
麻衣子は思い切って大台に乗せた。
「俺は九〇〇〇万」
最後に信夫。
これで全員出そろった。
「で、成美。誰が一番近い?」
全員の視線が集まる。
「……近いどころか、正解者がいるよ」
「マジで!?」
「え?」
「うそでしょ」
場が一気にざわついた。
まさか“ニアピン”どころか、ドンピシャが出るとは。
「いきなり答え言うのも面白くないな。まずは何千万台かだけ教えてくれ」
「そうだね」
成美は少し考えてから、
「八〇〇〇万台」
と答えた。
「ってことは……俺か沙樹か」
「そうなるな」
「だね」
どちらか一人に絞られた。
「でも、正解は田辺君だと思う」
沙樹が言う。
「なんで?」
「細かくないから」
「単純だな」
「でも、そういうのって当たる気がする」
確かに一理ある。とはいえ、こういうのは逆に細かいほうが当たる気もする。
……まあ、正直なところ、俺は深く考えてないんだけど。
「じゃあ、成美。どっちだ?」
「芦田さん――」
一瞬、間があって。
「……以外」
「え?」
全員が固まる。
「――っていうのは嘘で、光司だよ」
「なんだそれ!」
「やっぱりね」
「そうなると思った」
見事に振り回された。
「でも、なんで分かったの?」
「この広さなら、これくらいかなって思っただけ」
「適当かよ」
「だから、まぐれだよ」
「まぁ、そんなもんだよな」
「家の値段なんて普通当てられないし」
こうして、南家値段当てクイズは幕を閉じた。
――と、そのとき。
「ねえ、前に光司が言ってたやつ、やる?」
「やつ?」
「かくれんぼ」
「ああ……そんなこと言ったな」
前に来た時、あまりの広さに思わず言った。
この広さなら、確かに面白そうだ。
「やるやる!」
「いいね、それ」
「絶対楽しいでしょ」
予想以上に食いつきがいい。
どうやら、次のイベントは決まりらしい。
「人数も多いし、結構楽しめると思ってさ。ちょっと子供っぽいけど」
「たまにはいいと思うよ」
「うん、楽しそう」
「でも、この広さだと探しきれないんじゃないですか?」
もっともな意見だ。
「じゃあ、この階だけにするか、一階と二階に限定しよう」
「それならいけそうだね」
「賛成!」
「じゃあ鬼決め――」
「その前に!」
成美が手を挙げた。
「どうした?」
「入っていい部屋、決めさせて」
「ああ、なるほど」
「確かに」
「お父さんとお母さんの部屋はなしね。基本はお客様用の部屋だけで」
「了解」
「それで何部屋くらいあるんだ?」
「ここを除いて十一部屋」
「ほとんど使えるな」
「うん」
「じゃあ、始めるか!」
「おー!」
「最初はグー、じゃんけんぽん!」
数回のあいこのあと――
「……結局、俺か」
「光ちゃん、弱いね」
「また負けたのか」
「え?」
成美だけが首をかしげる。
「前も負けてるんだよ、こいつ」
「へえ、そうなんだ」
……放っとけ。
「じゃあ俺が鬼な。三十秒数えるぞ」
「え、短くない?」
「いいから」
「一、二、三――」
「もう数えてる!?」
「早いって!」
「一〇、一一、一二……」
「急げ急げ!」
「どこにする!?」
慌ただしく足音が散っていく。
「二七、二八、二九、三〇……よし」
さて、開始だ。
まずは一番近い部屋から。
(最後に声が聞こえたのは可織だったな……)
ドアを開ける前に、なんとなく分かった。
「ここだな。可織、クローゼットだろ」
「え!?ちょっ――」
ガチャ。
「はい、見っけ」
「なんで分かるの!?」
不満そうな顔。
「兄の勘」
「そんなのあるの?」
「あるある」
本当は、昔から同じ場所に隠れる癖を知ってるだけだけど。
「じゃあ次は私が鬼?」
「そうなるな」
「え~……」
「怒るなって。一番分かりやすかっただけだ」
――さて。
(可織がこの部屋ってことは……)
「この辺りか?」
「あっ」
「やっぱり。七海ちゃんもいた」
「バレましたか……」
カーテンの後ろ。定番だ。
「だいたい一緒にいるから、同じ部屋かなって」
「なるほど」
「じゃあ次は直美だな」
次の部屋へ。
(直美は昔から……)
ガラッ。
「押し入れだな」
「えっ、なんで!?」
「幼なじみなめるな」
「何それ……」
本当は“布団はさすがに入らない”って消去法だけど。
(でもこの反応……)
「……この部屋、もう一人いるな」
「え!?いないよ!?」
分かりやすい。
「ここだろ」
「きゃっ」
「やっぱり沙樹か」
「完敗ね……」
「残りは三人か」
部屋をいくつか回る。
そして――
「信夫、いるのバレてるぞ」
「……」
「テーブルの下、丸見えだ」
「ちぇ、見つかったか」
「お前は隠れる気あるのか」
「あと二人……」
そのとき。
「麻衣子いるじゃん」
「え!?」
「マジかよ!」
部屋の奥、体育座り。
「見えてるって」
「高橋君が来たから安心してたのに……」
「残念だったな」
「ラスト一人……成美か」
「強敵だね」
「ラスボスだな」
少し考える。
(全員二階……ってことは)
「一階か」
一階を回っていくと、ひとつだけ異質な部屋。
「なんだここ……」
物が山積みだ。
「……ここだな」
「え?」
「いた」
「どうして分かったの?」
「隠れやすい場所は限られる。で、その中で一番いいのが――そこ」
タンスの裏。
「通れる場所をたどれば、自然とここに来る」
「すごいね……」
「まぁな」
「よし、全員発見」
「お疲れ~」
「早かったね」
「次は可織が鬼だな」
「えぇ……」
「頑張れよ」
「うん……」
「今日は来てくれてありがとう」
「ああ。楽しかったよ」
「私も」
結局あの後は、可織が鬼になってかくれんぼを再開し、その後は直美、沙樹、信夫と順番に鬼を回していった。隠れる場所が多い分、探すのに時間がかかり、鬼は五人で終了となった。
「それじゃあ、また明日」
「またね、成美」
「失礼します」
「バイバイ」
気がつけば、時計の針は午後六時を指していた。かくれんぼというのは、思っている以上に時間が過ぎるのが早い。
「それじゃあ、行くか」
「結構長くいたね」
「もう六時だもんな」
「でも、まだ明るいね」
「九月なのにね」
「でも、暗くなるのは早いし、さっさと帰ったほうがいいな」
「それじゃあ、私はこっちだから」
「俺も」
成美の家の前で、信夫と沙樹とは別れることになった。
「それじゃあ、また明日」
「バイバイ、沙樹、高橋君」
「失礼します」
「さようなら」
「また明日」
「うん。バイバイ」
二人を見送り、俺たちも家路につく。
「それにしても、あれだけ隠れる場所がある家ってすごいな」
「探すの大変だったもん」
「広かったですからね」
「七海は鬼にならなかったからラッキーだね」
「私も鬼にならなかったよ」
「麻衣子もずっと隠れる側だったし、楽しかったでしょ?」
「うん。でも、一回くらい鬼もやってみたかったな」
「そうなの?」
「うん。見つける側もやりたかった」
「まあ、そればっかりは運だからな」
「最初に見つかった人が鬼になるもんね」
「だから今回鬼にならなかったのは、運が良かったってことだな」
「そうなるね」
「今度はもう少し狭い場所でやるのも面白そうだな」
「次はいつだろうね」
「まあ、近いうちにできたらいいほうだろ」
「とりあえず、テスト終わってからだね」
九月に入って一週間。テストまで、あと二週間ほどだ。
「もうすぐテストだもんな」
「勉強しなきゃ」
「赤点はごめんだからな」
「テストっていつからだっけ?」
「九月二十八、二十九、三十」
「ってことは、もう二週間前か」
「めんどくさいなぁ」
「それでもやらなきゃね」
「やらないと自分に返ってくるし」
「光ちゃんもちゃんとやるんだよ」
「ああ」
テスト前か。学生の本分とはいえ、やっぱり勉強は面倒だ。だが、サボれば赤点というもっと面倒な結果が待っている。結局、やるしかない。
「私もしっかりやらなきゃ」
「次に集まるのは、テスト最終日くらいかな」
「それくらいだね」
「それじゃあ、私たちはこっちだから」
気づけば桜マンションの前まで来ていた。
「ああ、また明日」
「また明日ね、光司君、直美、可織ちゃん」
「はい。また明日」
「田辺先輩、坂本先輩、失礼します」
「それじゃあね、七海」
「うん。また明日」
元気よく手を振って帰る麻衣子と、丁寧にお辞儀をしてから帰る七海ちゃん。対照的な二人だが、一緒に帰っていく姿を見る限り、仲は良さそうだ。
「早く帰らないと真っ暗になるね」
「って言っても、もうすぐ家に着くけどな」
「十分くらいだね」
「そんなもんだろ」
「つまり、急いでもあまり変わらないってことだね」
「そういうことだな」
「でも、今日は楽しかった」
「久しぶりにかくれんぼしたしね」
「この年になると、普通やらないからな」
「高校生だもんね」
「せいぜい中学までだろ」
「でも、あの家なら楽しいよね」
「ああ。久しぶりだったのもあって、余計にな」
「光ちゃんが一番早かったんじゃない?」
「そうか?」
「そうだよ。私なんて結構時間かかったし」
「可織は遅かったな」
「でも、光ちゃんって昔からかくれんぼ得意だったよね」
「そうだったか?」
「見つけられずに終わったこと、ないでしょ?」
「……確かにないな」
「それに、ほとんど迷わず来るし」
「隠れそうな場所を先に考えてるだけだ」
「普通そこまで考えないと思うよ?」
「そうか?」
「そうだね。あんまりしないかな」
「そんなもんか」
「そんなもんです」
そんな話をしているうちに、直美の家に着いた。
「それじゃあ光ちゃん、可織ちゃん。また明日ね」
「ああ。また明日」
「さよなら、直美さん」
「バイバイ」
直美を見送ると、辺りはすっかり暗くなっていた。
「いつの間にか暗くなってるな」
「ほんとだね」
「日が暮れ始めると早いな」
「もう秋だもんね」
「そうだな」
「もう高校生になって半年くらいか」
「可織が入学したのが四月だからな」
「あっという間だったね」
「それだけ楽しいことが多かったってことだろ」
「そうだね」
そうして、俺と可織も家に着いた。




