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The Best Youth 〜君と一緒に〜  作者: ダークキング


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13/23

可織の誕生日〜特別な一日〜

「もしもし。直美、今大丈夫か?」

「うん。どうしたの?」

「可織がさ、自分の料理がどれくらい通用するか試したいらしくて」

「つまり、料理対決ってこと?」

「ああ、そんな感じだ」

少し間を置いてから、俺は続けた。

「それで、来週の可織の誕生日に、この前行った遊園地に連れていく約束をしてるんだけど……直美も一緒に来ないか?」

「え?いいの?」

「もちろん。直美は幼馴染だしな」

「それで、その日、二人とも弁当持参ってのはどうだ?」

「……そこで勝負するってこと?」

「ああ。判定は俺がすることになるけどな」

「分かった。頑張って作るね」

「ごめんな、無理言って」

「ううん。光ちゃんが食べたいって言ってくれたら、いつでも作るつもりだったし……むしろ嬉しいよ」

「そ、そうか……。時間はまた決まったら連絡する」

「うん。分かった」

「それじゃ」

「うん。バイバイ」

――直美が「俺が食べたいって言ったらいつでも作るつもりだった」って、どういう意味だ?

……まぁ、深く考えないでおくか。

「お兄ちゃん、ちょっといい?」

宿題に取りかかろうとしたところで、可織が部屋に入ってきた。

「ん?どうした?」

「宿題教えてほしいんだけど、いい?」

「ああ、いいけど」

「よかった」

――そういえば、直美のことも伝えておかないとな。

「あ、そうだ。可織の誕生日に直美も呼んだから」

「え?直美さんも来るの?」

「ああ。それで、直美も弁当作ってくるから、そこで料理対決することにした」

「え!?直美さんと勝負!?」

「ああ。だから、可織もちゃんと弁当作れよ」

「うん。分かった!」

「で、見てほしい宿題って何だ?」

「あ、えっと……数学」

「数学か。分かった。可織の部屋でいいのか?」

「うん、私の部屋でいいよ」

嬉しそうな可織。誕生日に直美が来てくれることが嬉しいんだろう。

三人で遊園地か……楽しみだなぁ。



「おはよう」

「おはようございます」

可織の誕生日当日。

俺たち三人は、可織の希望通り遊園地へ向かうことになった。

可織と直美は、それぞれ一・五人分ほどの弁当を持ってきている。

「可織ちゃん、誕生日おめでとう」

「ありがとうございます!」

「これ、プレゼント」

直美が差し出したのは、小さな箱だった。

「やった!ありがとうございます!」

可織が箱を開けると、中には華奢きゃしゃなブレスレット。

「可愛い……!」

「気に入ってくれてよかった」

「本当にありがとうございます!」

満面まんめんの笑み。

――今日は、いい一日になりそうだな。

「それじゃ、行こうか」

「うん!」

歩きながら、直美がふと笑う。

「可織ちゃん、本当に遊園地好きだね」

「はい!」

「ここまで好きなのは珍しいぞ」

「そ、そんなことないと思うけど……」

「年に二、三回は来てるんだろ?」

「うっ……うん……」

少し照れたように俯く可織。

「でも、楽しんでるならいいよね」

「そうですよね!」

直美の一言で、可織の表情がぱっと明るくなる。

「ここは久しぶりだろ?」

「うん。しばらく来てなかった」

「俺と直美はこの前来たけどな」

「新しいのあった?」

期待で目を輝かせる可織。

ここまで分かりやすい反応も珍しい。

「結構変わってたぞ」

「ほんと!?楽しみ!」

――そのまま駅に着いたが、

「あっ、電車もうすぐ!」

「マジか、急ぐぞ!」

踏切が下りるのを見て、三人で一斉に走り出す。

「間に合うか!?」

「ギリギリだけど、たぶん!」

息を切らしながらホームへ滑り込み、なんとか乗車。

「はぁ……間に合った……」

「危なかったね」

「余裕で出たつもりだったんだけどな」

電車が動き出し、ようやく一息つく。

外の夏の熱気とは違い、冷房の効いた車内。

汗ばんでいた肌が、一気に冷えていく。

「でも、この三人で遊園地って久しぶりだね」

「え、そんなことあったか?」

「覚えてないの?五歳くらいのとき」

「……全然覚えてない」

「光ちゃん、記憶力ちょっと怪しいよ?」

直美がくすっと笑う。

「そのときね――」

少し懐かしそうに続けた。

「ジェットコースター並んでる途中で、可織ちゃんが座り込んじゃって。光ちゃんがおんぶして並んでたよ」

「えっ!?」

「やめてくださいよそれ!」

顔を真っ赤にする可織。

「そんなこともあったな」

「思い出さないで!」

「電車の中だぞ、静かに」

「あ……ご、ごめんなさい」

小さくなってあやまる可織に、思わず笑いそうになる。

「でも、そのおかげで思い出せたな」

「そうだね」

「もう……!」

ふくれっつらの可織。

「そういえば、プレゼントは?」と直美。

「今日は遊園地代、全部お兄ちゃん持ちなんです」

「へぇ、太っ腹だね」

からかうように笑う直美。

「バイトしてたからな」

「結構働いてたもんね」

そんな話をしていると、駅に着いた。

遠くから遊園地の音が聞こえる。

「今日は思いっきり遊ぼう!」

「そうだね」

「うん!」

遊園地に入った瞬間、可織のテンションは一気に上がった。

「何から乗ろうかなぁ!」

目を輝かせている可織。

「好きなのからでいいぞ」

「じゃあ、あれ!」

指さした先はバイキング。

「ああ、あれか」

「前も乗ったね」

嬉しそうな直美。

「私は初めてだから楽しみ!」

「……でも、結構並んでるな」

夏休みということもあり、なかなか長蛇ちょうだの列。

「大丈夫。回転早いし」

列を見ながら可織が言う。

「他も混んでるし、ここでいいよ。この後はもう決めてるし」

「何に乗るんだ?」

「それは秘密」

にやっと笑う可織。

「なんだそれ」

「後でのお楽しみです」

「まぁいいか。ほら、もうすぐだぞ」

「うん!」

「そろそろ昼飯にしないか?」

午前中だけで四つもアトラクションを回ったせいで、さすがに疲れた。

園内えんないを端から端まで歩き回ったのも地味じみに効いている。

「もうすぐ一時だね」

「そろそろ食わないと倒れるぞ……」

俺はすでに腹ペコになっていた。

「じゃあ、ご飯にしよ!」

ベンチに腰掛こしかけると、二人がそれぞれ弁当を取り出した。

「はい、光ちゃん」

「サンキュー、直美」

「……私のもちゃんと食べてね?」

可織がじっとこっちを見る。

「大丈夫だって。二人とも量抑りょうおさえてるんだろ?」

「一応ね」

「うん」

「なら問題ないな。……で、どっちからいく?」

「どっちがいい?」

「じゃあ、私のから食べて」

直美が少しだけ緊張した声で言う。

「直美からか。……まぁ、先に食べた方で大体決まりそうだな」

「え、なんで?」

不思議そうな顔をする直美。

「可織のは普段から食べてるし、味覚えてるから」

「なるほど……」

「じゃ、いただきます」

蓋を開けると、シンプルな弁当。

肉じゃが、卵焼き、ウインナー。どこか懐かしい感じのする中身だ。

「おすすめは?」

「どれだと思う?」

「……肉じゃが」

「え!?なんで分かったの?」

「昔から練習してただろ」

一瞬、直美が目を見開く。

「……覚えててくれたんだ」

「まあな。幼馴染だし」

少し照れたように笑う直美。

「じゃあ、それから食べてみて」

はしでつまんで口に運ぶ。

「……うまいな」

「ほんと?」

「ああ。前より味がしっかりしてる。ちゃんと染みてる」

「そっか……よかった」

ほっとしたように肩の力を抜く直美。

――これは、かなりレベル高いな。

「とりあえず直美のは一旦置いといて……次、可織な」

「ど、どうぞ」

可織の弁当を開ける。

卵焼き、タラコパスタ、しゅうまい。

見た目からして、かなり気合いが入っているのが分かる。

「相変わらずうまそうだな」

「そ、そう?」

「おすすめは……卵焼きだろ」

「な、なんで分かるの!?」

「最近毎日入ってたからな」

「み、見てたの!?」

ふた開けっぱなしにしてたら、嫌でも見えるだろ」

「うぅ……」

顔を赤くする可織。

「まぁいいや。いただきます」

一口食べる。

「……うん、これもうまい」

「ほ、ほんと?」

「ああ。ちゃんと味まとまってる」

――さて、問題はここからだな。

「ねぇ、どっちが美味しかったの?」

真剣な目で見てくる可織。

その横で、直美もだまってこちらを見ている。

――これは、逃げられないやつだな。

「そうだな……」

少し考えてから口を開く。

「直美のも卵焼きあったよな」

「うん」

「じゃあ、それで比べるか」

「……分かった」

直美の卵焼きを一口。

「……これも、うまいな」

「ありがとう」

そして、可織の卵焼き。

「……うん」

正直――どっちも美味い。

ほとんど差なんてない。

「どう?」

二人の視線が突き刺さる。

「……迷うな」

「え?」

「どっちも普通にレベル高い」

「な、なんだ……びっくりした」

可織が少し力を抜く。

――でも、それじゃ終われない。

「ただ……」

少しだけ間を置く。

「本当に僅差きんさだけど――可織かな」

「……え?」

「ほ、ほんと!?」

「ああ。ほんのちょっとだけ、こっちの方が好みだった」

「やった……!」

可織がぱっと笑顔になる。

「よかったね、可織ちゃん」

「はい!」

その様子を見て、直美もやわらかく微笑ほほえんだ。

「でも、ほんとに僅差きんさだからな」

「それでもいいの!」

満足そうに弁当を抱える可織。

――たぶん、味の差じゃない。

慣れてる味か、好みが似てるか。

……そのどっちかだろうな。

「昼飯の後、どうする?」

「とりあえず……観覧車かな」

「いいね。まだ乗ってないし」

「可織、観覧車好きなんだろ?」

「……なんで知ってるの?」

少し警戒けいかいするような目。

「母さんが言ってた」

「もう……なんでそんな話するのよ」

「俺は遊園地行くって言っただけだぞ。勝手に話し始めたのは母さん」

「光ちゃんに罪はないね」

「だろ?文句あるなら母さんに言え」

「……分かってる」

少しだけほほふくらませる可織。

――そういえば、昔から好きだったな。

「でも、今でも好きなのはちょっと意外だったな」

「え?」

「昔言ってたのは覚えてるけど、今もってのはさ」

「いいでしょ、別に」

少しむっとした声。

「男には分からないもんだと思っとくよ」

「女の子は、景色がきれいなとこ好きなの」

「まぁ、それは分かる」

「私、ちょっとトイレ行ってくるね」

「ああ」

「行ってらっしゃい」

可織が離れていく。

少しの間、二人きりになる。

「……可織ちゃん、ほんと元気だよね」

直美がぽつりと呟いた。

「まぁ、外ではな」

「え?」

「家だとそうでもないぞ。部屋から出てこない日もあるし」

「そんなことあるの?」

「ああ。たぶん、何か悩んでたんだろうけどな」

「……話、聞かなかったの?」

少しだけ真剣しんけんな声。

「基本、向こうから言ってこなきゃ聞かない」

「どうして?」

「話せばいいってもんでもないだろ。

それに――俺じゃ大した相談相手にもならないし」

一瞬、間が空く。

「……そうかな」

「え?」

小さすぎて聞き返す。

「……ううん。なんでもない」

「なんだそれ」

直美は何かを誤魔化ごまかすように、小さく視線を逸らした。

――今の、なんだったんだ?

「お待たせー!」

その空気を切るように、可織が戻ってくる。

「お、戻ってきたな。じゃあ行くか」

「うん!」

「観覧車、楽しみ!」

観覧車の方へ向かうと、予想通り長蛇ちょうだの列。

「……めっちゃ混んでるな」

「でも、乗るよ」

迷いのない即答。

「だろうな」

「じゃあ、覚悟決めて並びますか」

列の最後尾に並ぶ。

「観覧車って、順番来るまで時間かかるよな」

「ゆっくり回ってるからね」

「でも、その分数は多いから意外と早いよ」

「まぁ、トラブルなければな」

ゆっくりと動く観覧車を見上げる。

「……高いな」

思わず本音が漏れる。

「お兄ちゃん、高所恐怖症こうしょきょうふしょうだもんね」

可織がニヤッと笑う。

「うるさいな……」

「光ちゃん、それって治らないの?」

「知らん。もう十年以上このままだし」

「じゃあ無理そうだね」

「軽く言うな」

「でも、慣れたりしないの?」

「ここまで来たら無理だろ」

「まぁ、誰にでも苦手はあるよね」

「そういうことにしといてくれ」

少しずつ列が進んでいく。

「あ、もうすぐだね」

「ほんとだ」

「……」

「直美?」

ふと見ると、直美が観覧車を見上げたまま止まっていた。

「え?あ、ううん。なんでもない」

少し遅れて返事。

「ほんとか?」

「うん。大丈夫」

――大丈夫、か。

そうは見えないけどな。

けど、さっきの話といい……

直美も何か考えてるのかもしれない。

「ほら、次だぞ」

「あ、うん」

係員かかりいんの声に呼ばれ、俺たちはゴンドラへと乗り込んだ。

「高いね」

嬉しそうに笑う可織。

「そ、そうだな」

「光ちゃん、大丈夫?」

心配そうに直美がこっちを見る。

「下を見なければ多分……」

俺はやっぱり高いところは苦手だ。

綺麗きれいな景色……」

可織は外の景色に夢中になってる。

「可織ちゃん、こっちもいい眺めだよ?」

そう言って直美は立ち上がって、俺の横に座った。

「ほんとだ!こっちの景色も綺麗きれい……」

「可織ちゃん、楽しそうだね」

直美が嬉しそうに呟いた。

「ああ。俺は早く下に降りてほしいけど」

「でも、こうやって3人で観覧車乗るの懐かしいね」

直美の一言で昔のことを思い出した。

「昔は観覧車ももっと大きく感じたなぁ……」

「そうだね……でも、それだけ私たちが大人になったってことかもね」

そう言う直美と目が合ったが、少し気恥きはずかしくなり、誤魔化ごまかすように目を背けた。

そのとき、ゴンドラが静かに揺れた。

「今日は楽しかったね」

気づけば、五時を過ぎていた。

ジェットコースターは今回も直美と可織の二人で楽しんでいた。

可織に連れ回されて、結局ほぼ一日中遊び倒したことになる。

――まぁ、あいつがあれだけ楽しそうなら、それでいいか。

「……寝ちゃったね」

電車での帰り道。となりを見ると、可織がこくりこくりとれながら、完全に眠りに落ちていた。

「今日はずっとはしゃいでたもんね」

「それだけ楽しかったってことだろ」

「そうだね」

直美が、少し優しく笑う。

主賓しゅひんがあれだけ満足してくれたなら、連れてきた甲斐はあったな」

「うん。本当に楽しそうだった」

「ここまでテンション高いの、久しぶりに見た気がする」

「外ではああでも、家じゃ全然違うからな」

「そうなんだ……」

少しだけ考えるような顔をする直美。

「……寝顔、可愛いね」

「だな」

無防備むぼうびな顔で眠る可織。

さっきまでさわいでたのが嘘みたいだ。

「……でも、もうすぐ着くよ」

桜駅さくらえきか」

「起こすしかないね」

「ああ」

「可織、もうすぐ着くぞ」

「ん……」

ゆっくり目を開ける。

桜駅さくらえきだ」

「え……あ、そっか……」

まだ少しぼんやりしている様子。

「大丈夫か?」

「うん……ちょっと眠いだけ」

電車が止まり、ドアが開く。

「ほら、降りるぞ」

「うん」

――次の瞬間。

「きゃっ」

ふらっとバランスを崩す可織。

「可織!」

反射的はんしゃてきに腕を伸ばして、その体を支える。

「……あ、ありがとう」

「大丈夫か?」

近い距離。

まだ少し眠そうな顔で、こくりと頷く。

「う、うん……」

「可織ちゃん、怪我はない?」

直美も心配そうにのぞき込む。

「はい、大丈夫です」

「ほんとに?」

「大丈夫だって」

少し照れたように笑う可織。

「……ならいいけど」

手を離すと、可織は一歩ゆっくり踏み出した。

「無理すんなよ」

「うん」

「光ちゃん、今日はありがとね」

直美が静かに言う。

「え?」

「可織ちゃん、すごく嬉しそうだったから」

「……そうか」

「うん」

数秒だけ、会話が途切れる。

「……光ちゃんってさ」

「ん?」

「やっぱり、ちゃんとお兄ちゃんだね」

「なんだそれ」

思わず苦笑にがわらいする。

「いい意味だよ?」

「ならいいけどな」

駅を出て、帰り道を歩く。

可織も少しずつ目が覚めてきたのか、いつもの調子に戻り始めていた。

「今日は本当に楽しかった!」

「そりゃよかった」

「また三人で行こうね」

「……そうだな」

夕焼けの中、三人で並んで歩く。

遠くからせみの鳴き声が聞こえた。

「じゃあ、また夏祭りでね」

直美が手を振りながら家に帰っていく。

「お兄ちゃん、今日はありがとう」

夕焼けのせいなのか、少し可織のほほが赤く見えた。

「いい誕生日になったか?」

「うん、今までで一番楽しい誕生日だったよ」

可織は嬉しそうに付けているブレスレットを撫でた。

夕焼けの中で笑う可織の顔は、今日一番嬉しそうに見えた。

――たまにはこういう日も悪くないかもな。

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