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スーツケースの光沢

僕の持っていたスーツケースは、自慢じゃないけど、下に車輪がついた高級品だった。


それでも、地面はアスファルトだから、がりがりって音が途方もないところまで響いちゃっていたんだ。


街はまだ夜で、閑散としていたから余計にね。


だから僕は成るべく早足をしていた。


でもね。


どうもうまくいかないものなんだよね。


あるとき、やっぱり僕は躓いてしまったんだ。


澱んだ風を噴出している通気口を通っているときだった。


ぼくはめげずにすぐに立ち上がった。


でも、そこから全然進めなくなっちゃった。


実は、スーツケースの車輪が、通気口に挟まっちゃっていたんだよ。


僕は驚いて、力の限り引っ張ったり、押したりもした。


でも車輪はうんともすんとも言っちゃくれないんだ。


嫌になっちゃうよな。


僕はそれまで、上辺だけでも比較的うまくやってきていたと思っていたんだ。


でもそんなつまらないアクシデントで、心が折れちゃったんだな。


僕は、泣きはしないまでも、スーツケースに坐って途方に暮れていた。


半径一メートルも動けなくなっていたんだ。


爪やなんかを噛みながら濁った月を見ていた。


肩を叩かれていることに気付いたのは、挟まった車輪が壊された後だった。


僕は気持ちよく転んだよ。


スーツケースが倒れた拍子にね。


でもそれである意味、目が覚めたんだな。


それで、直ぐ後ろに僕と同じくらいの年の少年が一人で立っていることに気付いた。


少年は笑っていた。


だから僕も笑い返したね。


スーツケースは滑りやすいから、結構遠くまで飛んでいた。


そんなことより僕は、車輪のほうが大事だったのさ。


それで少年に

「車輪を見なかったかな?」

って訊いたんだ。


少年は笑ったままで、ずっと向こうを指差したんだ。


その手には結構大きなハンマーが握られていて、それで車輪をふっ飛ばしたみたいだった。


僕は示されるままの方角に向かっていった。


勿論、その際にはきちんと少年にお礼したよ。


「助けてくれて、ありがとう」

って。


少年は笑っていたな。


残念だけど、車輪はいくら探しても見つからなかったんだ。


少年の指差した方角を、道の終わりまで隈なく探し回った。


でもやっぱり車輪はなかったんだな。


それで当然、僕はもう一度少年に方向を確かめに言ったのさ。


でもね。


その時にはもうその面影すらなくなっていたんだ。


結局、少年がどこから来て、どこへ行ってしまったのかもわからずじまい。


僕は気を取り直して、もう一度、一から街灯の燈を辿ることにした。


一つだけいえるのは、その時、どうしてだろう、始めのときより少し軽くなっているような気がしていたんだ。


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