大砲の中
「口のほうからしか音が聞こえてこないだろ」
ヨークは不機嫌そうにそんなことを言った。
それで、まん丸に切り取られた外の景色を指差して見せたんだ。
だからぼくは何の気なしに振り返ってみた。
「綺麗だね」
丸い景色は、殆どがお月様で満たされていたんだ。
丁度よく満月ってわけではなかったから完全ではなかったけれど、結構綺麗な月が目一杯ぼくの目に飛び込んできた。
「おいら、月へ行くんだ」
ヨークは鼻をすすりながらそういった。
なんだか真剣なんだ。
「でも、砲弾に乗っていくのは難しくないかい?」
月を見ていたら、なんだかそんな言葉を吐いてみたくなったんだよ。
自分の言葉に恐ろしくなって、砲弾が装てんされているのかを確かめたんだ。
大砲の底には、厚手の毛布が何枚も敷かれていて、幸い砲弾があるようには見えなかった。
「お前、砂漠の向こうからきたんだろ?」
不思議そうにそう訊ねるヨークに、ぼくは肯いた。
そしたら彼、
「砂漠から来たやつなんていなかったのに、現にお前が砂漠を通ってきた」
なんて言い出して、
「月に行ったやつなんていないと思ってたけど、今だったらいけるんじゃないかって思うんだ」
なんていっちゃうもんだから、
「月と砂漠を一緒にするもんじゃないよ」
ぼくはそう諭さずにはいられなかったんだ。
でも彼、
「シルベスタもいってたじゃないか。砂漠から人が来ないことが何年続いたって、次の年には繰るかもしれないって」
「でも、砂漠は歩けるけれど、空は歩けはしないじゃないか」
「空を歩く方法を見つければいい。今はわからないけど、きっとあるはずだ」
ヨークはなんとなく楽しそうだったから、ぼくは曖昧に相槌を打った。
大砲の中は無風で、静かで、月ばっかりが見えて、ヨークの話が退屈だったってわけでもないんだけど、ぼくには再び眠気が襲ってきたんだ。
砲口を掠めるギターの音色が遠くで聞こえて、その単調さがぼくを眠りへ落としていった。




