9話「ロクの寝れない日々」
イルユ村近郊にある山、イルユ村の住人からは炭焼き山で通っている山、そこに薬師ニーヤと奴隷ロクは仕事のために来ていた。
奴隷ロクは相変わらずお気楽だが、薬師ニーヤはどことなく落ちていなかった。
というのもこの炭焼き山の住人というのが少々変わった人物であるからだ。
「初めまして、話はアネリさんから伺っています。カルボウです」
黒髪に優しい焔を思わせる橙色の瞳、静粛とした出で立ちには厳かな雰囲気を思わせるが口ぶりは優しい。
山子カルボウ、見た目こそ人間だが彼はオフルマズドという種族である。
人族の言葉には”オフルマズドを汚すこと無かれ”というものがある。
これには二つの意味ある。
ひとつ目はオフルマズドが卓越した炎の使い手であるため怒らせるな。
もうひとつはオフルマズドという種族、その崇高さを汚すことは決して許されないということである。
面白いことにオフルマズドについては魔族からも言及がある。
「我れが魔族に導きの炎、気高きオフルマズドへ心より感謝を」
薬師ニーヤから出たこの言葉は魔族なら誰でも知っている礼節でオフルマズド専用の言葉になる。
「止めてください、俺はまだ修練の身の上であるため尊大に扱われる程の格は持ち合わせておりません」
山子カルボウはオフルマズドらしい謙虚さを見せる。
「しかし、イルユ村にオフルマズドがいるとは思いもしませんでした」
「我々はどこにでもいる普通の種族です。それにここは良いところなので」
「まったくその通りです。水も良く食事も水も酒も美味です」
「エチルさんの酒は飲みましたか? 今の時期だと麦と泥炭の酒が熟成から明けるかと。あれは度数がありますが飲み応えがあります」
「オフルマズドは酒を嗜むことはないと思っていましたが」
「酒によって感情の起伏が出るのが問題ですからね。しかしながら丹精込めて造られた酒を拒む、これもまた食と作り手への失礼になります。あと俺が酒好きというのもあります」
「酒好きでしたかなるほど覚えておきます」
「ありがとうございます。ところで――」
山子カルボウは困惑した視線を奴隷ロクに向ける。
「何故、彼はこの世の終わりのような目を?」
「あ、いえ、カルボウさんにってわけじゃないです。こっちのニーヤさんが敬語を使うものですから明日は空から槍でも降ってくるのかと」
「こらロク、相手はオフルマズドだぞ失礼があったらどうする!」
「え、そんなヤバイ種族なんですか?」
「ロォークゥー!」
「え? ええ??」
「自分たちの口で言うのは傲慢かもしれませんが俺たちオフルマズドは人族、魔族どちらからも聖人ような扱いを受けている種族なんです」
「すごいですね。過去に何かやったんですか?」
「オフルマズドは火を操る種族で昔は今より文明も発達せず火が大変貴重とされていました。火を自在に操れるオフルマズドは救世とされる時代もあり、その名残で今だ有り難いことに各種族から良くしてもらっているのです」
「なるほどなるほど」
「さて、ロク失礼の無いようにな。私は店に戻る」
「はーい、ニーヤさんしばらく家を開けますがよろしくお願いします」
「うむ」
薬師ニーヤは山子カルボウに一瞥すると山から去っていった。
炭焼き小屋に奴隷とオフルマズド、やることは当然炭焼きである。
「さてロクさん、炭焼きは初めて?」
「ええ、炭なんて高級品滅多に使いませんからね」
「基本は薪ですからね。でも炭も良い物ですよ。呑兵衛にはいかれましたか?」
呑兵衛、イルユ村唯一の飲食店で竜人が営む。薬師ニーヤのお気に入りの店でもある。
「いいえ、ついぞ機会がなくて」
「今度案内しますよ。あそこで使っている炭はうちのなので」
「じゃあその時はご相伴に預からせてもらいやしょう」
「さて、そうなったらその炭をこさえる必要があります」
「仕事ですね、でアタクシは何を?」
「再来年使う材料の採取、斧は使ったことがあります?」
「……気の長い話ですこと」
山子カルボウはよく研がれた斧を奴隷ロクに手渡すと炭焼き山の反対側へと案内された。
「この炭焼き山の頂上にはアルラウネがいるのですが、そのアルラウネが伸ばした枝を間伐して炭にします」
「アルラウネに怒られませんか?」
「許可をもらっていますし、何より何年も山を放置してしまうとアルラウネの枝葉が伸びて山の栄養を吸い取りきって死ぬ」
「難儀ですねえ」
「だから成長を抑制するのに誰かが刈り取る必要があるんです」
「アルラウネを倒せば終わりじゃあ?」
「アルラウネと我々は共存しているのです。殺してしまったら炭は焼けない。アルラウネもまた枝葉を落とす者が居なければ命を巡らせることになる」
「命を巡らせる?」
「アルラウネが死というのは栄養を吸い尽くした後に種をこぼしまたその山に栄養が戻ると発芽して子供が成長するこういうサイクルがあります」
「枝葉を刈ればアルラウネは種をこぼさずに済むということですかい?」
「ええ、そうなれば理論上は不老不死の存在らしい」
「不老不死……ですかい」
枝というには奴隷ロクの腿ほどの太さがある。触った印象はみっちりと詰まった金属に近い木材の質感だ。真っ直ぐ地面から突き出しての枝を更に伸ばしている。それが辟易するほどいくつもある。
「これを切るのが難儀でね。手の至る所の皮がずる剥けになる」
山子カルボウはため息をつく。
「まぁ、お仕事なんでやりますよ」
奴隷ロクは横に一振りで木を倒す。
「……凄い力ですね」
「昔は奴隷闘士として腕を鳴らしたもので」
「さぞ、お強かったのでしょう」
「ええまぁ、それなりにっと」
簡単に木を次々と一撃で切り落とす。
「この調子なら二時間で終りそうですね」
「思った以上に楽な仕事でよかったです」
「その力はどこで?」
「あー、アタクシのこの腕っ節のことですかい?」
山子カルボウは頷く。
「毎朝オートミールを山盛り三杯食べることです。快便ですよ」
「冗談を」
「昔話になりますよ」
「どうぞ」
奴隷ロクが切った木を鋸で適度な長さに合わせる作業をしながら山子カルボウは会話を弾ませる。
「アタクシには母親が二人おりましてね」
「二人?」
「生まれの母、育ての母、父親は誰かわかりません。生まれの母はアタクシを産んでそのまま流行病で死に、育ての母はミノス族女性でした。それなりに地位のあった人物だったのですが人攫いに遭ってそのまま奴隷落ちした身の上です」
「ミノス、人族側にも魔族側にも付かない蛮族の種族」
「ミノス族の男は力持ちで重宝されているんです。ですが女は愛玩用に一部飼われる程度です」
「愛玩……」
「どうやらミノス族は女は非常に胸が大きく発達する種族で一部の好事家には受けるようです。絞ればミルクも取れるので。ミノス族は女は妊娠していなくても乳を出すことができるので」
「……なるほどそういう趣味ということか」
「ええ、ですがミノス族の乳を人間が飲むと高確率で腹を下すらしいです。なんでも栄養価が高すぎて消化不良を起こすそうです」
「へぇー……ああなるほど、ロクさんはミノスのその女性に乳を与えられて育ったと」
「ええ、その通りです。だからアタクシの体はミノス族と同じくらい頑丈で屈強になりました」
「優しいミノスの母なんですね」
「ええ、素敵な方でした。もう死んでいますが」
「それはご冥福をお祈りします」
「アタクシが奴隷闘士として稼ぎ始めてようやく一人を解放できるくらいの銭を貯めたら嬉しそうにしてそのまま次の日に息を引き取りました。遺言はもっと世界を見てというものでした」
「もっと世界を見て、ですか」
「銭はアタクシが解放奴隷になるために使いました。それから色々な場所を転々と旅して、ニーヤさんに拾われてここまでです」
「旅ですか。俺もここに定住するまでは旅をしていました。懐かしいです」
「お、それじゃ次はそっちの番ということで」
「俺たちオフルマズドは生まれるとオフルマズドの里に預けられます。物心つく頃には厳しい修行をして心を律する訓練をします」
「どうして子供のうちからそんなことを?」
「オフルマズドは感情が高ぶると体から熱を出して周囲を燃やしてしまうのです。だから悪しき心を持たぬように厳しく自分を律し続ける必要があります」
「どこで火が付くかわからない火打ち石ってことですかい?」
「そうです。修行は三つ、礼儀作法を学び人を助けること、自分の持ち物に耐火の魔法を付与できるようになること、火を自在に操れるようになること。どれも厳しい試練でそれを全て乗り越えると次に旅へ出るんです」
「どうして旅に?」
「世界を見て、己の正しいを考えるためです。様々な場所には様々な考えがあり営みがあり文化がある。それをよく理解し学ぶことが更なる修行となる。まぁわかりやすく言えば余所に行って仕事して自分の飯の種を取ってこいということですけど」
「身も蓋もないですね」
「それで俺はここで炭焼きを始めた」
「どうして炭焼きなんです?」
「好きなんですよ。火遊び」
「生臭聖職者ですかい?」
「まぁあとは、イルユ村は人口が少なく山仕事に集中できる人も少ない。アルラウネの間伐はそれぞれの季節に最低でも一回はやらなければなりません。太いし硬いし、材木としては細いから大工にも欲しがられない。ならその間伐材で炭を焼けば仕事になるなと」
「意外とがめついんですね」
「金はあって困ることはないですからね。まぁでも少しくらい収入がないと妻を娶るもできませんから」
「誰か好きな人が?」
「いえ、ただいつでも備えておかないといけないので」
「当ても無いのに貯金するなんて凄いですねえ」
「……あっロクさん知らないのか」
「なんです?」
「オフルマズドの戒律で旅人女オフルマズドが独身の男オフルマズドと出会ったら結婚することになっているんです」
「なんですその古臭い戒律は……」
「オフルマズド自体そこまで数が多くないので絶滅しないようにそうしているんです……ちなみに他の人族や魔族との間に生まれた子はオフルマズドにはならないので」
「へえ……そうだったのですか」
「あ、でもオフルマズドのハーフとオフルマズドのハーフかオフルマズドの間からはオフルマズドが生まれてきますよ」
「なんでですか!?」
「さぁ? それは生物学者とか医者とかの領分かと?」
「不思議ですね」
そんな雑談をしながらあっという間に間伐を終える。
間伐材を炭焼き小屋の裏手にある材木置き場に収めると炭焼き窯の方に移動する。
「ロクさん、バテてない?」
「まだまだ、なんのこれしき」
「よかった。思った以上に間伐が早く終りました。ありがとうございます。本来予定していない仕事ですが、窯の火入れをやって貰っても?」
「いいですとも。アタクシは何をすれば?」
「そこに山積みになっている木を窯に立てて入れるんです。俺が窯に入りますのでロクさんは木を渡してください」
「わかりやした」
炭焼き窯の近くに山積みされている木を指差すと山子カルボウは炭焼き窯の中に入る。
「いいですかー?」
「頼みます!」
奴隷ロクは木を窯に投げ込むと山子カルボウは慣れた手つきで次々と木を窯の中に立てていく。あっという間に窯にぎゅうぎゅうの木が詰められる。
「ふう、やっぱり投げ込んで貰えると仕事が早い」
「これに火を付けるんですか?」
「簡単にはそうですがその前にいくつかやることがあります」
「やること?」
「まず窯口をレンガと泥で塞ぎます」
「塞ぎました」
「微妙に隙間があるのでもうちょっと丁寧に」
「はい」
「それで少しだけ下の方に空気穴を作ります」
「それなら隙間あっても大丈夫じゃないですか?」
「最後塞ぐときに隙間があると炭の仕上がり悪くなるからダメです」
「さいですか」
「これで火を付けられますね」
山子カルボウは空気穴に向って大きく吸った息を吹き付ける。
眩い火の光が煌めく。口から吐き出された炎は空気穴から窯の中の木を燃やす。
奴隷ロクは五歩も後ろに居たにも関わらずその熱気に顔がひりついた。
「おぉ……こりゃ凄い」
山子カルボウは目を丸くしている奴隷ロクを見ていい気になったのか炭焼き窯から離れて大空と向かい合う。
深く息を吸いこんで目を見開いて一気に吐き出す。
大きな一本の火柱が伸びる。
それから手の平に火の玉を乗せ、くるりくるりと回り舞踊を披露する。
「どうです?」
「お美事!」
「これはオフルマズドに伝わる舞踊のひとつです。踊りには火の扱いと舞いへの集中力、平常心を鍛えるものです」
「こうやって厳しい修行をしていたんですね。でもあの火は凄いですね。うっかりしたらこっちまで火傷してしまいです」
「そうですね。中途半端なオフルマズドは家をしょっちゅう焼きますね」
「ボヤで済めば御の字ってところですか?」
「ええ、その通りです。下手すりゃ焼死体ができるので」
「わぁ……それはおっかない」
「だから事故が起きないように徹底する。それがオフルマズドの生きる道」
「ところで炭はいつ出来るんですか?」
「ん? ああ、今火を入れたので窯を開けるのは七日から十日後ですね」
「ここから最低でも七日ですか」
「あとたったの七日で仕事が終ってしまうんですよ」
「七日もですよ?」
「ロクさん、俺のこの炭焼きは一年でせいぜい四回、多くて六回しかできないんです。それで一年の収入が全部決まってしまう。質の悪い炭を作れば赤字になります」
「赤字……」
「そうです、たった四回、チャンスは四回しかない」
「失敗したらどうするんです?」
「ん? ああ、失敗してもメチルさんところで手伝いやるから普通に生きてるよ」
「だーもう、含みのある言い方しないでくださいよカルボウさん」
「流石に年間で四回しか働かないわけじゃないよ。色々な仕事をそれなりにやってる」
「よかったです。今度一緒に冒険者ギルドにで行きます?」
「いや、そこまで金に苦心してない」
「左様ですか」
「さてロクさん、どうします? もう上がってもいいですよ」
「ふーむ、いや、どうせなら炭が出来るまで付き合いますよ」
「ひたすら煙を見ているだけですよ?」
「いいんですよ。どうせ帰っても薬屋の雑用をするだけなので」
「それならまぁ、ロクさんの自由に」
「おしゃべりでもして時間潰しますか?」
「いいですよ。煙見えるなら後は暇なもんですからね」
「さて、何から話しましょうか」
「え? じゃあニーヤさんとの馴れ初め」
「おおっとそれは夜に話しましょうぜ、恋バナってのは夜にするもんでしょう?」
「夜にもっぺん振るから安心しなって」
「おや、てことたぁ……カルボウさんも男の子ですね」
「もちろん、オフルマズドって大層な風に言われるけど中身なんざ五歳の男の子さ」
「男が五歳で止るのは人族共通ですね。あっ蛮族も同じですね」
「てことは案外魔族もかもですね」
「ですね」
なんてことは無い男二人の会話。
奴隷ロクと山子カルボウは年が近いということもあって意気投合する。
十日後。
「……流石に十日も水だけで話込むと……ネタが底に尽きますね」
「ですね、というか十日も話して話のネタが尽きないのは凄いですね……同じ話三回くらいあった気がするけど」
「カルボウさん、それはご愛嬌ってもんでしょ?」
「はっは、違いない。さてそろそろ頃合いですね煙の色が白から青っぽくなっているのわかりますか?」
炭焼き窯の煙突から登る煙を山子カルボウは指差す。
「確かに青白いような」
「灰の準備は……大丈夫ですね」
「ええばっちり用意しています」
「さて、あとはねらしだけです。気張りましょう」
「ねらし?」
「塞いでいた炭窯の入り口を開けて一気に空気を流し込む、窯の温度が上がって炭の中にある余計な物を焼き尽くす工程です」
「いよいよ炭窯を開けるんですね」
「ええ、いよいよだ」
山子カルボウは泥とレンガで固めた釜口をこじ開ける。
燦然と輝く炎と焼かれ尚も赤を極める炭。
熱気が衝撃ように奴隷ロクの頬を撫でる。
「どうです?」
「こりゃあ、綺麗ですねえ」
「でしょう?」
山子カルボウは自信満々な顔でニコッと笑うと炭窯の中に入っていく。
「ちょちょちょ、火傷しちゃいますよ」
「ロクさん、俺の種族は?」
「あー、オフルマズドは確かに自分の炎じゃ焼かれないですもんね、そりゃあ炎に滅法強いわけだ」
「と言うわけでこれからねらしをしながら良さそうな炭を取り出していきます。ロクさんは絶対に触らないで――」
「おこれはなかなか温かいですね」
真っ赤に焼けた炭を素手で掴んで奴隷ロクは興味津々の顔をしている。
「そう言えばそっちも溶岩で水泳できるとか言ってたな……」
「カルボウさん炭はどうすれば? このままだと燃え尽きてしまいそうですが」
「用意した灰の中に埋めといて。その灰は水で湿らせて火が消えるようにしてあるから」
「はいはーい」
山子カルボウが炭窯から取り出した炭を奴隷ロクが湿らせた灰の中に次々埋める。
本来であれば焼けた炭を掻き出す専用の道具を使うのだが、ことこの二人に関してはそれらを無視できる能力持つ。
「これで最後ですかい?」
「ええ、これで最後です。助かりました」
炭窯にはいくつか炭が残っているが売り物にならないと判断されたものだ。
放っておけば灰になり箒で掻き出せば済むのだが山子カルボウは丁寧に炭を集める。
「それどうするんですか?」
「せっかくロクさんが手伝ってくれたし」
小さな山を作れるほどの炭を集めると山子カルボウは炭焼き小屋の裏手に奴隷ロクを案内する。
裏手には三和土で作られた小さな池がありその端には川の水が流れるように樋を通している。
「ほぉ、池にして小さいですね」
「ああこれ風呂だよ」
「風呂でしたか、随分開放的ですね」
「この山の中だ、誰も見ちゃい無いさ。でこの風呂なんだけど水を川から引っ張ってきてそのままにしているから生け簀として使えるんだ」
風呂に沈めている籠をすくい取ると蓋を外す。
「おやマスですか」
「大雨の時とかにうっかり風呂に流れてくるんだ。ほら、川から水を引いてるから」
「なるほど、して、それを如何様に?」
「シンプルに腹裂いて串にさして塩を振るだけさ」
熟れた手つきでマスの内臓を出すと波打つように串に刺して炭火の近くに置く。
「カルボウさんそれもっと近づけた方が早く焼けるんじゃないです?」
「ロクさん、こういうのはじっくり遠火で焼くんだそうすると――」
「そうすると?」
「うまい」
「じゃあやりましょう」
二人して炭火を眺めながらマスが焼けるのを待つ。
「ロクさん、火は好きですか?」
「火ですか?」
「ええ」
「……昔は嫌いでしたが、今は好きです」
「そうですか。それは、それはよかった」
「ええ、今は好きですよカルボウさん」
「それは良かった。おっともう食べれますよ」
「おー、ではでは」
皮はパリパリ、中はふっくらジューシー、最後に通り抜ける炭の香りがえも言われぬ極上の美味に誘う。
「どうです?」
「こんなに美味しいのですね!」
「でしょ。だから炭焼きはやめられない」
「これはクセになります、ええ、とても美味しいです」
「じゃあ次は呑兵衛ですね」
「呑兵衛? あの飯屋ですかい?」
「あそこにうちの炭を卸しているので」
「なるほど」
「しかもここで食うよりも遥かに焼きの技術があって美味い」
「それは、酒も欲しくなりますね」
「うん、だからまた今度」
「また今度、ですね」
奴隷ロクはニッコリと笑い、それから何度も心の中で「また今度」と繰り返すのだった。
ここはイルユ村、ちょっと変わった人々が静かに暮らす辺鄙な村――。
ご愛読ありがとうございます。




