文化祭の織姫 ①
文化祭の話です。
いつもよりも賑やかで、浮ついた空気が学校全体に漂っている。それも無理はない。
だって今日は文化祭当日。
といっても、一般客の招待は明日で今日は学校内だけのお披露目だ。
私たちのクラスの出し物は、女装男装カフェになった。何がどうして、これに決定したのかは正直あまり覚えてないが、兎に角決まった以上クラスのメンバーである私も男装しなければいけないというわけで‥‥‥私は騎士のような服装を身にまといながら遠い目をしていた。腰につけたプラスチック製の玩具の剣がカチャカチャと音を鳴らす。
助けを求めるように、隣で着替えている柚子葉を見つめる。私の視線に気がつき神父のような服に着替えながら、困ったような顔で柚子葉は微笑む。その際に、切り揃えられた短い薔薇色の髪が風に揺れ、ふと柚子葉が髪を切った日のことを思い出した。
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柚子葉が髪を切ったのは、生霊事件の直ぐ後のことだった。今まで大切そうにしていた髪をバッサリと、肩よりも短く切って登校してきたときは、私だけでなくクラスの皆んなも驚いたようで、普段あまり話さないクラスメイトたちも柚子葉に話しかけるくらいの衝撃だった。
珍しく柚子葉に先に学校へ行っていて欲しいといわれて、既に自分の席に着いていた私も同じくらい衝撃を受けた。
私の視線に気がつき、柚子葉は此方へと向かってきた。気恥ずかしそうな顔をして、制服のスカートを握りしめている。
「柚子葉、その髪」
「うん、思い切って切っちゃった。似合わないかな?」
「いや、長いのも好きだけど、短くても可愛いと思う。でも、よかったの?凄く大切にしていたでしょう」
「いいんだ。これは、私の覚悟だから」
「覚悟?」
「うん。また二人で、お揃いの髪飾りを付けれるようになるまでは髪は伸ばさないことにしたんだ」
好戦的な笑みを向けた柚子葉を見て、何故だか顔が熱くなった。
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「‥‥‥ちゃん、視霊ちゃん!」
「あっ、はい!」
「どうしたの? 具合でも悪い?」
「へっ、いやなんで?」
「ぼっ〜としてたから、早く着替えないと時間なくなっちゃうよ?」
「うそ! もうそんな時間?」
時計を見ると、開始まであと一時間もない。目の前の柚子葉はもう着替え終わっており、私のことを心配そうに見ている。
「本当だ。どうしよう、私まだ化粧もしてないのに」
「わ、私もだよ」
二人で途方に暮れていると、更衣室の扉を物凄い勢いで押し開き誰かが入ってきた。其処には、深緑色の髪を後ろでお団子にまとめている我らが学級委員長が立っていた。周りには、同じような髪色の私たちよりも歳が上と思われる女性が数人居る。皆、一様に私たちを品定めするように見つめてくる。
「二人ともまだ準備できていませんね」
「委員長、その後ろの人たちは?」
「私の姉たちです。今日は、化粧の手伝いに駆けつけてくれたんです」
すると、後ろの垂れ目でふわふわした印象の女性が委員長に抱きつき頬ずりをし出した。委員長は、生真面目そうな顔を歪めて引き離そうとしている。
「花恋ちゃん、あんなに小さかったのに今ではこんなに逞しく委員長をやっているなんて、姉さん感動」
「恵恋姉さん、大袈裟です」
「いや、恵恋の言う通りだ。よちよち歩いていた花恋がこんなに立派になって‥‥‥」
「紅恋姉さん、泣くの早いです」
涙ぐみながら、委員長の頭を撫でているのは眼鏡をかけたキツめの印象の女性だ。無表情ながらも涙ぐんでいるその顔は、とてもキツいとは言い難いのだが‥‥‥
委員長は、二人の姉たちを突き放すように手で制する凛とした声を響かせる。
「姉さんたち! 早く準備をしないと間に合いません!」
「「怒った顔も可愛い」」
「‥‥‥私は、要さんをやりますから、二人は柊さんをお願いします」
「任せてくれ」
「さぁ、柊ちゃんかっこよくなりましょうね!」
柚子葉は、えっ、あのと困惑しながら二人の姉たちに連れていかれる。不安そうな顔に、私も心配になり其方に気を取られると、委員長が大丈夫ですよと声をかけてきた。
「姉たちは、あんな感じですが腕は確かですから。あれでも、プロのメイクアップアーティストなんですよ」
「そうでしたね」
「そうなると、私の腕を心配するでしょうが、姉たちに昔から教えてもらっているので、大丈夫です」
「いや、委員長の腕は全然心配してないんですけど‥‥‥私たちに三人も付いて大丈夫なんですか?」
委員長の腕は、全く心配していない。クラス内で、委員長の家族全員がメイクアップアーティストだということは有名だ。だが、姉たちがあんなにシスコンだとは思わなかった。まあ、妹の文化祭に家族で手伝いに来るくらいだしな。
その界隈では、有名一家らしく委員長も将来はその道に進みたいらしい。確か、有名人のメイクも担当しているとか。
「男子は兄たちが担当していますし、女子は貴方たちで最後ですよ。着替えにどれだけ掛かっているんですか」
「えっ! そうだったんですか。すみません」
「まあ、いいです。早速、やっていきましょう。要さんは私が志願して担当したいと申し出たんですよ」
「えっ? どうしてです?」
「男装させたら、クラスの中で一番似合いそうだと思ったからです」
「それって、褒められてます?」
「最上級の褒め言葉ですよ。こんなに、心躍るのは何年振りでしょうか」
心躍ると言いながらも、顔は何故だか悲しげに目を伏せていた。
化粧を施した状態で教室へと向かう。柚子葉と話しながら歩いていると、何故だか矢鱈と視線を感じる気がした。気のせいだろうか?
視線の方向を見ると、頬を赤くした女の子が顔を伏せ目を逸らす。気のせいじゃないな。
なんだろう、何処か変なのかな?
隣にいる柚子葉を見ると、困ったように微笑みながら先程の女の子と同じように顔を赤くして俯く。
「ねぇ、どこか変?」
「そうじゃなくて‥‥‥寧ろその逆というか‥‥‥」
「??」
首を傾げると、後ろで縛ったポニーテールが揺れて首元を擽る。擽ったいなぁと顔を歪めると、また柚子葉が顔を赤くした。
「兎に角、早く教室へ行こう!」
「そうだね、もう開店の時間だもんね」
二人で小走りしながら、教室へと向かい扉を開ける。クーラーの風が心地いい。中は、普段の様子とは違い煌びやか装飾で溢れかえっていた。其処にいるのは、チャイナ服や、セーラー服、果ては貴族令嬢のようなドレス姿の美少女たち‥‥‥いや、正しくは男なのだが、完全に美少女だから仕方ない。恥ずかしいのだろうか、内股になっている人や、高いヒールに翻弄され足をビクビクと震えさせている人もいる。そんな男子たちの中心で、薄緑色の髪をしたヤンキー風情の男性二人が、手前らそれでも男か! 堂々としやがれと怒鳴っている。多分、委員長のお兄さんたちだろう。
思春期男子たちのトラウマにならないように願いながら、私はそっと目を逸らした。
それとは逆に、やけに堂々としている美男子たち、いや正しくは女子たちは、既に衣装を自分の一部としており全く違和感がない。何処か楽しそうな様子すらある。
その中で、王子のような姿の椿と袴姿の秋乃を見つけて駆け寄ると、二人から怪訝な顔をされた。
「二人とも、その顔は失礼じゃない?」
「その声、もしかして視霊?」
「いや、そうだけど」
「あ〜、視霊ちゃんだったんだ〜、全然違ったから〜誰かと思った〜」
「えっ、私そんなに変かな?」
「違うよ〜、すっごい美形って感じ〜普段と印象が全然違うから〜気がつかなかった〜」
「貴方、性別間違えて産まれてきたんじゃない?」
「失礼すぎない?」
「すっごく綺麗ってことだよ、視霊ちゃん。でも、私は普段の視霊ちゃんが一番好きだけど」
「そういってくれるのは、柚子葉だけだよ。ありがとう」
嬉しくなり、柚子葉に笑いかけると、また真っ赤に顔を染めた。やっぱり、柚子葉もこっちの方が好きなんじゃないのと疑問を持ち始めたとき、ピンポンパンポーンとスピーカーから、放送委員の声が響く。
「生徒の皆様、おはようございます。文化祭一日目、開始時刻になりました!」
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「なんで、この格好で歩かないといけないのよ」
「仕方ないでしょう。私たちの当番、午後だったんだから」
「なら、午後に合わせて準備すればよかったじゃない」
「委員長の家族、午前中しか予定が合わなかったみたい。まぁ、明日は一日中いてくれるみたいだしいいじゃん」
私と椿は、クラスの出し物であるカフェ運営の当番が、午後からだったので午前は自由時間だ。しかし、朝から着替えを済ませてしまったため、自由時間で他の出し物を見に行くのも男装である。因みに同じ状況に陥った男子たちは、静かに泣いていた。強く生きて欲しい。
「柚子葉たちとも一緒に来たかったよね」
「それこそ、仕方ないわね」
柚子葉と秋乃は、午前当番だったので一緒に自由時間が取れなかった。確かに椿の言う通り、仕方ないことなのだがやっぱり残念だ。私が溜息を吐いていると、椿が文化祭のパンフレットを目の前に差し出してきた。
「行きたいところ、貴方が決めなさい」
「えっ、いいの?」
「私はこういうのよくわからないから」
「う〜ん、私も正直何処に行きたいかって聞かれたらわからないなぁ」
パラパラと捲っていると、目を引くイラストが描かれたページを見つける。その紹介を見て、思わずあっと言う声が上がる。私の声を椿が拾い上げて、興味深そうにページを覗き込んできた。私は、そんな様子を見ながら最初にここへ行こうと提案した。
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追記:昨日総合ポイントが6pに増えていました!本当に本当に嬉しいです!
何方が入れてくれたのかは、システム上わからないのですが、星を押してくださった方、本当にありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。




