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老いた英雄は栄光の道を逆走する  作者: 昼熊
一章

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幼女強い

「面倒じゃから、一気に葬るとするかのぅ。すべてを灰燼と化せ、滾る炎の精霊……続きなんじゃった?」


 魔法の詠唱中に小首を傾げて振り返るな。


「俺に訊くなよ。てか、詠唱無しでも魔法は使えるだろ」

「おー、そうじゃった。エンちゃん、適当に燃やしておくれ」


 ピンクの杖の先端をくるくる回すと、周囲にいくつもの炎の弾が現れた。

 大きさは俺の拳程度なのだが、離れている俺の髪がちりつくぐらいの火力を秘めている。

 炎の弾は一つ一つが意識を持っているかのように弧を描きながら動く死体に着弾していく。

 弾に触れた動く死体は渦巻く炎の柱となり、一瞬にして炭となり崩れる。

 二十近くいたというのに一体を残し、あっさりと全滅した。スマイルは火の魔法を得意としているが、こいつは万能だからな。


「ご苦労様じゃったのぅ、エンちゃん。ゆっくり休んでおくれ」


 リトルは右肩の上でふわふわと浮いている火の玉が繋がり人の形を模した――火の精霊を労ると、精霊は手を振りながら消えていく。

 普通は魔法を使用したところで精霊がいちいち現れることはないのだが、こいつは昔から精霊に好かれていた影響と今の体が原因で、ちょくちょく精霊が覗きに来る。


「残るは一体だけか。そいつは俺に任せ」

「じいさん! 何やってんだよ!」


 背後から聞こえてきた叫ぶ声に振り向くと、必死の形相で走ってくるダリルイがいた。

 こいつ抜け出してきやがったのか。


「何ってモンスターを退治しているだけだ」

「に、人間じゃないか!」


 遠くから見たら人にしか見えなくて当然か。

 俺の隣へたどり着いたダリルイは、荒い息を整えようと深呼吸を繰り返していた。


「ちゃんと両目を見開いてみろ」


 顔面が半分欠けた男に切っ先を向ける。


「だから……えっ、隣村のジェイフおじさん⁉」


 大きな目を限界まで見開き、動く死体を凝視して唖然としている。

 おっと、見知った顔だったか。隣村の住人ということは炭になった連中も同じ村の住民だったのか?

 もう跡形もないので確かめようはないが。


「悪霊に体を乗っ取られちまっているからな。もう、眠らせてやるしか手段はねえ」

「そ、そんな……」


 もし、魂が戻ったとしても体が腐りきっていては生きる術はない。

 どう足掻こうが助ける手段は皆無なのだ。


「南無三」


 無造作に動く死体に近づくと首をはね、返す刀で頭を両断する。

 そもそも死体に霊が宿っている状態なので、腕をもごうが頭をはねようが関係なく動き続けてしまうのだが、脳を破壊すると完全に動きが止まる。

 これには諸説あるのだが、スマイルに言わせると「脳に宿って体を動かす命令を出すのが一番効率がいいから、悪霊もそこにいるんじゃないの?」とのことだった。

 本来、霊に対して刃物や物理攻撃は無意味なのだが、それぐらいは対策をしてある。俺の刀は特別製で 実体のない物すら両断できる。

 まあ、霊が斬れなかったとしても粉微塵にして動けなくするだけだが。


「ジェイフおじさん……」


 膝を突き祈りを捧げるダリルイ。

 叔父を始末した人間がかける言葉などあるはずもなく、道の向こうから馬車がやってくるまで黙って見守っていた。

 

 


 

「じいさん、眠らせてくれてありがとうな」


 全員で村に続く道を歩いていると、隣でぼそりと礼を言うダリルイ。

 この状況下で感情を呑み込み礼が言えるなんて、子供にしては大したもんだ。


「おうよ」


 返事をして頭に手を置くと、わずかにだが笑顔を見せてくれた。

 それを見て小さく安堵の息を吐く。

 今、俺たちは徒歩で村に向かっている。途中で道があまりに狭くなっていたので馬車が通れず、ダーシュと一緒に置いてくるしかなかった。

 モンスターに襲われたとしても馬車は簡単に壊れないし、ダーシュが蹴散らすか逃げるなりしてくれるだろう。


「村が見えてきた! おーい、ハンター連れてきたぞー!」


 村を取り囲む丸太の塀が見えると、ダリルイが一目散で走って行く。

 周囲にモンスターの気配はなかったので、俺たちはゆっくり歩いてあとを追う。


「おおっ! よく、帰ってきたな! 怪我はないか⁉」

「うん。元気だよ!」


 革鎧を着た見張りらしき長身の男が、ダリルイの背を叩き再会を喜んでいる。


「おっ、今日一番の笑顔じゃねえか」

「肩の荷が降りたみたいで何よりやないの。あれがいつものダリルイなんやろうね」

「子供は元気が一番じゃのぅ」

「そうですね。子供は笑顔に包まれていなければ」


 仲間が目を細めて微笑んでいる。俺も似たような表情をしているのかも……しれないな。

 俺たちは誰一人として子供がいないので、他人の子供相手に甘くなってしまう傾向がある。昔はガキなんてキャンキャンわめいて煩わしいとしか思えない存在だったのに。

 はしゃいでいる二人を眺めていると、つい涙ぐんでしまう。涙腺が弱くなったもんだ。


「年取ったなあ」

「今更、何言うてんねん」


 俺の呟きにビシッとツッコミを入れるスマイル。


「二人とも漫才してないで、こっちこっち!」


 ダリルイが大きく手を振って呼ぶので、少しだけ歩を早めて近づいて行く。


「皆様がこいつをここまで連れてきてくれたのですね。感謝します! ところで、依頼を受けたハンターはどこに?」


 見張りの男が額に手を当てて辺りを見回している。

 こいつ、素知らぬふりをしているが露骨に俺たちと視線を合わせようとしないぞ。


「俺たちがハンターだよ」

「失礼とは思うのですが、引退後のハンターが趣味で真似事をされているとか?」

「本当に失礼なヤツだな! 現役だ、現役」


 俺が断言すると鼻にしわを寄せて、露骨にしかめ面をしやがった。


「だって、どうみてもハンターの仮装としか……。この人は介護役でこの子はお孫さんですよね」


 スマイルとリトルを指差し、一人で納得して頷いている。


「チームの仲間だ。信じられないなら、ちょいと試してみるか?」


 剣の柄を指でトントンと叩いて軽く挑発する。

 年寄りにバカにされたのかと思ったのか。見張りが一歩前に出ようとしたところをダリルイが体で止めに入った。


「やめてくれよ。この人たち、年はいってるけど腕は一流なんだって! 途中で牛頭鬼を軽く捻ったし、若いハンターたちを一方的に打ちのめしたんだぜ」


 俺たちの活躍を熱く語るのを見て、渋々ながら見張りが納得したようだ。向けられた視線は疑いに満ちているけどな。


「こちらとしては子供の手を借りなければならないぐらいの状況だ。歓迎しよう」

「じゃあ、もうちっと嬉しそうにしろや」


 渋面で歓迎されても嬉しくねえ。


「村は何もなかった?」

「今のところ、あれから被害者は出てない。今のところは、な」


 含みのある見張りの物言いに、ダリルイの眉間にしわが寄る。


「どういうことだよ」

「黒竜だけでも厄介なのに別の問題がな……。お前が旅立った次の日だったか。隣村の家族がこの村に逃げ込んできたんだよ。村人が発狂して急に暴れ出したかと思ったら、殺し合いが始まったと。あの人たちはその騒ぎを目撃して着の身着のまま村から脱出。二日ほど森に潜んで、三日かけて徒歩でこの村にやってきたそうだ」


 淡々と語る見張りの言葉にダリルイが言葉を失っている。

 俺はチラリと仲間に視線を送る。


「薬物の可能性もあるかもしれんけど、どうやろう?」

「これだけでは判断できませんが、呪法かもしれませんね」


 呪法か。そういや、リトルも動く死体を見て同じこと言ってたな。

 俺たちが小声で意見を交わしている間も見張りの話は続いている。


「その話だけでも十二分に驚いたが、問題はここからだ。逃げてきた村人の話によると殺された村人たちが次々と立ち上がり、他の村人を襲い始めた……ってな」


 ごくり、とダリルイの唾を飲む音が響く。


「で、それから二日後にまた村に人がやって来たんだ。今度は……動く死体となった隣村の住民がな。それで終わったらまだマシだったんだが、毎日動く死体が訪れるようになって、隣村の住民だけじゃなく、近隣の村からもやって来るように……」

「じゃあ、ここ周辺の村は全滅した、ってことなのかよ⁉」


 詰め寄るダリルイの額に手を当てて、押しとどめる見張りの男。


「確証はない。確証はないが可能性は高いとみている。とまあ、そんな事態だ。さっきは失礼な事を言ったが、老ハンターとはいえ戦力になるのならありがたい話だ。あんたら、その髪色からして魔法は使えるんだろ?」


 俺たちが頷くと見張りは胸を撫で下ろし、門の前から横に逸れた。

 一悶着はあったが、開け放たれた粗末な木の門を通って村の中へと入っていく。

 視界に広がるのは一面の畑。いかにも、のどかな農村といった感じだ。

 ちょうど稲穂が実る時期だったようで、金色の穂が風に揺れている。


「門の近くは土が肥えているから田んぼとか畑ばっかなんだよ。あと見張り小屋があるぐらいでさ」

「小僧、この村の人口は三百人ちょいなんだよな?」


 以前にも聞いたのだが改めて確認する。


「なんだよ、もう忘れちまったのか? 仕方ないか、年取ると記憶力が落ちるって言うからな」

「同情すんな! ちげえよ。普通に確認しているだけだ」


 さすがに、依頼内容を忘れるほど頭は衰えていねえ。……稲穂の上を跳んでいる、虫をじーっと観察している隣の幼女は別として。

 これだけ立派に実っていれば食料は十分確保できているといえる。少し離れた場所の畑も色とりどりの野菜が大きな実をつけていた。

 いざとなれば籠城戦も可能か。


「そろそろ、日も落ちる。夜はモンスターが活発になるから今日は休んだ方がいい」


 見張りが大声で注意を促してくるので、背を向けたまま手を振って応えておく。


「みんな、ぼーっとしてないで取りあえず俺んちに行こう! もうそろそろ、夕飯の時間だし、家に泊まってくれよ!」


 断る理由はないが一応確認のために仲間を見る。全員が頷いたので落ち着きのない小僧の後を追っていく。


「あっ、ダリ坊。帰ってきたのね!」

「おう、シエル姉。ただいま」


 稲穂を掻き分けるようにして現れた若い女に捕まり、何やら話し込んでいる。

 ダリルイの頬は少し赤いが、シエル姉と呼ばれた若い女の方は平然としていた。姉がついてはいるが本物の姉弟関係ではないようだ。

 肩に届いていない短めの金髪に、日に焼けた顔。袖のない上着に、太ももがむき出しになっている健康的な短パン。動きやすさを重視した格好だ。

 顔、スタイル共に数年後が楽しみな逸材。髪色からして魔法は使えないようだが、ちょっとした仕草や動きに引っかかるものがある。

 小僧と違って何かしらの武術を学んでいるな。体も均整が取れていて、女性にしては筋肉の付きもいい。

 隣でバージンが「ほほう、なかなか」と感心するぐらいだ。


「素性はさておき、小僧の一方的な片想いに晩飯代を賭けるぜ」

「他人の色恋沙汰を賭け事のネタにするなんて最低やな。うちも片想いに賭けるわ」

「では、私も片想いに」

「気長に見守ってやりたいところじゃが、片想いじゃろうな」


 全員の意見が一致した。……賭けが成立しねえじゃねえか。

 想いが一方通行のダリルイに、哀れみを込めた目を向けて生暖かく見守っていると、少女と別れこちらに走ってきた。


「小僧、あれはお前のこれか?」


 小指を立てて、茶化してみる。

 すると、途端に顔を真っ赤にして否定しながら、激しく左右に頭を振り始めた。


「ち、ちげえっての! あいつとは幼馴染みで、そんなんじゃねえよ」

「それは肯定しているのと一緒だぞ」

「ほっといてくれよ!」


 俺を怒鳴り背を向けると、一人で先に走っていく。


「青春やね~」

「あの年頃は取り扱いが難しくてかなわねえな」


 ニヤニヤと口元に意地の悪い笑みを浮かべながら、のんびり追っていると小さくなっていた姿が徐々に大きくなっていく。

 道案内が戻ってきてくれたようだ。


「早く、早く、もっと早く歩けよ」

「老人を労らんか」

「年寄り扱いしたら怒るくせに」

「そりゃ心はピチピチだからな」

「扱いの難しい年頃だな、じいさんは」


 そう言ってニヤリと笑うダリルイ。

 意趣返しのつもりか。どうやら、さっきの会話を聞かれてしまっていたようだ。



別作品になりますが『村づくりゲームのNPCが生身の人間としか思えない』が本日完結しました。未読の方は一度読んでみてください。

そちらから流れてこられた読者は、この作品も楽しんでいただけると幸いです。


面白ければ、ブクマ、評価お願いします。ポイントが伸びればやる気も出ますし、執筆もはかどりますので。

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