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【非公開】元勇者、異世界をゆく  作者: 千夜みぞれ
第三章 元勇者、冒険者になる!
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第49話 元勇者、勝利のあと

「…イン……レイン……レイン!」


 うるさい。誰だよレインって。いや、ボクだった。

 誰かがボクを呼んでいる。

 心地よい陽気にベトベトの返り血。血が乾いてにかわのようにベタベタとゴワゴワと。

 気分としては最悪。

 それでも強敵を倒した疲れで全く起きる気にはなれない。


「ねぇ大丈夫なの?」


 そう言って揺すられている以上、もう狸寝入りも続けられないだろう。

 目をゆっくりと開けると、キラキラとした太陽の光に包まれてとても(まぶ)しい。

 冒険者組合で知り合った冒険者のお姉さんが、心配そうにこちらを見ていた。


「えっとー」

「私の名前はアルへ。それより大丈夫なの? どこが痛いか教えて」

「アルへさんも無事だったんですね! 良かった。あ、腕が折れてますけどそれくらい、かな」

「それくらいって……。これ、何があったの? あなたのその姿は……」


 言われて下を見ると、体の見える範囲が真っ赤であった。

 そこで思い出す。魔力が尽きてイナガミが流した血だまりに突っ込んでしまったのだと。

 つまり今のボクは頭の先からつま先まで真っ赤な返り血を浴びている、ということだ。


「えっと、返り血だけなので」


 アルへは呆然としていた。

 ボクが倒したとは思えないのだろう。でも、ボク以外が倒したとも思えないのだ。

 首から血を流すイナガミの横には、血まみれの少女──男だが──しかいないのだから。

 しばらくなんとも言えない空気が二人のあいだをさ迷って、アルへの仲間の女性が「あぁ~!? 私の盾がぁあああああ……」なんて言っているのが聞こえた。

 ボクはさっと目線を反らす。


 あんなに濃かった霧は見る影もない。

 アルへとその仲間は、霧ではぐれて少数で戦闘していたらしい。盾はその時に落としたのだとか。

 涙を流す声にボクはさっと目線を反らした。


 それからターヤさんをはじめとした大多数の冒険者が倒れていた場所まで移動すると、仕事を終えたスライムたちが山へと帰っていく。

 ボクは小声で「撤退」と呟いた。


「いたた……イナガミが死んでたって、ほんと?」

「はい。その隣にレインが倒れてて……」


 視線が集まった。


(ど、どうしよ。別に倒しましたって言っても良いんだけど……)


 正直に言ったところで、信じて貰えないかも知れない。

 信じて貰えれば、きっと英雄だと言われるのだろう。

 はたして英雄とは、なにか。

 それは人々の感謝を受ける者だ。

 貴族の冒険譚好きは相当なもので、珍しい話の出来る吟遊詩人などですら、王都に呼ばれることがある。

 と、なると、


(神獣、なのかはともかく、あんな魔物を倒したってバレたら絶対に、王命(おうめい)を持った騎士が迎えに来る……)


 ボクは想像した。

 ティエラが大喜びしている。屋敷の人たちも。

 いや、名誉なことなのだと、ベルンの人々が。


(で、城に行ったら……。どんな顔してオーリンや姫に会えばいいんだ。レ、レレレレステンシアにも!) 


 ボクは深呼吸した。


「空から魔法使いが降りてきました」

『ピィ?!』

「な、名前はフラッペ。すごい魔法でイナガミをどっかーんと倒してくれて……えっと、ボクは観戦するために街から抜け出して迷子になったところを、助けてもらって」


 そんな嘘だったが、ボクが倒したというモノよりは信じて貰えたのか、冒険者たちは苦笑いながら頷いてくれた。

 グラハイムさんを除いて。


「その真っ赤なのは大丈夫なのか?」

「大丈夫です」


 グラハイムさんは、そうかと短く言い本題に入る。


「なぁレイン。言えないこと、なのか?」


 そう聞かれた。

 だから……ボクはなにも言わずに、ただ頷いた。


「そうか、なら聞かないし言わない。だがこれだけは言わせてくれ。ありがとう」


 ボクはもう一度、無言で頷く。

 なにを言えば、そしてなんと言えば良いのか、わからないから。

 そうして突然はじまって、同じように突然終わったこの戦いは『イナガミ討伐戦』あるいは『謎の魔法使い現れる』という物語詩としてオルベリア王国内を駆け巡ることになるのだが、それはボクの知ったことじゃない。

 知っていることといえば、イナガミが死んだことでブラックホーンたちが近隣から消えたことと、アルへさんの仲間の元にお金が届いたこと、くらいだ。

 そしてボクが土下座してティエラからお金を貰ったこと、くらいである。



◆◇◆◇◆◇



 青空の中にひとつの銀色があった。

 ホウキに乗った銀髪の少女は満面の笑みでホウキを走らせる。

 彼女の顔は美しく、まさに作られたかのように完璧だ。


(さて、どうしたものか)


 彼女は今日起こったことを報告するか悩んだ。

 ()()に関しては言わなくてもいずれバレるのだが、しかし言ってやる義理もない。

 少年に関しては魔王が気に入りそうな才能なので、荒事にはならないという確信があった。

 ふむ、と腕を組んでいるとホウキにつけている水晶が輝き始める。


「ふんっ、我からの報告を聞くがいい! あの者は我の欲していた魔物を殺した。つまり我に(せん)だって倒したのだ。これほど愉快なことがあろうか。──ゆえに仲間に推薦すると決めたぞ!」


『』

『あらぁ? あなたもぉ気に入ったのねぇ。それなら私も、推薦するわ』

『なっ……次は私に試させて欲しい』

『ダメじゃ! 次はワシが行くと言ったじゃろうが!』

『あの、私も推薦します』

『フラーに気に入られるとは。ではあと一人が推薦するのなら候補に入れるとしよう』


 銀髪の少女はにやりと笑う。


「あいつの二つ名は〈東方不敗〉だ。よもや怒りはすまい、魔王よ。では、我は研究に使えそうな魔物を、新たに探すとしよう。ワーハッハッ!」


『』

『頑張ってねぇフラーグン。アルカはぁ手を出さないでね? あなた、殺す気でしょう?』

『私の魔法は決死なのだから、相手が死ぬのは仕方ない。それでも、私の欲する魔法を知っているのなら、叩頭(こうとう)してでも教えを()う』

『……不敗か、凄い二つ名じゃな~。ま、アルカの欲する魔法なのかは、わしが調べてやるさ』

『しかし東方の国には、もう魔王もいないですし、不敗ってのもあながち嘘ではないかもですね』

『次はルシエが行け。アルカは頭を冷やせ。不敗を名乗る輩なら、同じ東方のにいるお前とも、いずれ出会うだろうさ』


 魔王の反応がよかったので、銀髪の少女はホッとした。それでも声音に出さないように気をつけて最後の言葉を伝えることにした。


「よし、ではそういう事だ! 我はしばらく工房に(こも)るから。じゃあな!」


『』

『なら私はぁルシエの協力でもぉ、しようかしら』

『はい……。わかりました』

『うむ。ではシルフェルドよ、頼むぞ』

『がんばれ~、レインちゃん』

『フラーめ。……まぁよい、続報に期待しておく」


 銀髪の少女は新たなモノを造らんと、自らの工房に急ぐ。

 空を駆ける軌跡は、銀色に輝いていた。

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