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【非公開】元勇者、異世界をゆく  作者: 千夜みぞれ
第二章 元勇者、召喚師でがんばる!
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第13話 元勇者、冒険者になる

「レインさん……」


 受付嬢は言うべきか言わざるべきか、少し悩んだように手招きする。

 二人は顔を近づけた。

 ボクが男らしい風体(ふうてい)だったならば、キスでもしていると思われてブーイングでも起こっていただろう。


「あの、このステータスって──」

「そのことです。レベルがゼロなんていうのは、赤子と同レベルなんです」

「……へっ?」


 聞こうと思った内容とは違ったが、ボクの顔が引きつった。


「私自身、初めて見ました」


 その顔は嘘だとか冗談だとか、そういったものを微塵も感じさせてはいない。

 まぎれもない事実なのだろう。


「赤子……赤ちゃん……えぇ……」

「い、いえ、レインさんくらいの年齢でも、ゼロの方はいらっしゃる……と思います。たとえば記憶が無くなる以前が病弱だった、あるいは貴族のお子、なのかもしれません」


 それは精一杯のフォローだったのだろう。しかし両親がいないことなど、誰よりもボク自身が知っていることである。

 病弱だとか寝たきりだった、などもあり得るはずがない。

 神さまがくれた身体、というのが本当だとすれば、だが。


「生まれたばかりの赤ちゃん、か……」


 ボクは小声を漏らす。

 この世界に家族も親族も、誰もいないのだと思うと少し寂しい。

 それでも、相棒のぷるんとした身体を抱き締めると、そんな気持ちなどは消え去った。


『ピィ?』

「あの、受付嬢さん。ボクは弱いと思います。……でも、冒険者をやりたいです」


 彼女は姿勢を正すと、頷く。


「冒険は一人だけで行うものではありません。友を、仲間を、信頼できる人がいてこそ、成り立つんです。レインさん──これから幾度となく、あなたに新たな冒険が待ち受けますように」


 彼女は片手を己が胸に当てて頭を下げた。

 それはある種のおまじないのようなもの、なのだろう。

 新たな冒険が待ち受けているのであれば、それは生きて帰って来られたという意味なのだから。

 こうしてボクの組合への登録、というものが完了した。


「でも結局……ステータスってなんだろう」


 冒険者組合の一角。

 ボクは酒場の隅っこのテーブルで蜂蜜酒をちびちび飲みながら、独りごちた。

 受付嬢さんとの会話が良い雰囲気で終わったので、今さら聞くに聞けなかったのだ。

 勇者であった頃は、こんなゲームのようなものはなかった。

 紙に印刷してくれた物を今一度、眺める。

 やっぱり、


(……何度見ても、全体的に弱いってわかる)


 別に最強になりたいだとか、勇者然とした力や能力が欲しいわけではない。だとしても、これはいくら何でも低すぎる。



レイン・ヴィーシ

 Lv.0 力:E1 耐久:E1 俊敏:E1 魔力:A10


 〈魔法〉

 【使令秘法】


 〈スキル〉

 【前世の記憶】

 【生活補助】

 【対話】



「ステータスが低いのは、まぁ延び白があるって考えられるけど……。この使令秘法ってなんだろう」


 使令(しれい)──だからソラのことだろうか。

 ボクは何度目かの、ため息をはいた。


「はぁ……」

『ピィ?』

「ねぇソラ、ステータスなんて……昔はなかったよね」

『ピィ』

「やっぱりミカゲさんじゃん」

『ピィ!?』

「まぁどっちでもいいんだけどさ。どうしよ、なにか依頼受けてみよっか。ステータスについても聞けそうだし」

『ピィピィ!!』


 怒るソラと一緒に受付まで戻ると、受付嬢さんは優しげに微笑んだ。


「どういったご用ですか?」

「えっとですね、ボクでも受けられる依頼とかって、ありますか?」

「銅等級の依頼でしたら、えっと──今は三つあります」


 受付嬢さんがカウンターに置いたのは三枚の紙である。



 【薬草採集の依頼】

 スライムに食べられる前に、薬草を採ってきて欲しい。

 キロで買い取るので最低でも一キロ以上の採集を心がけよ。

 買い取りとは別途の報酬として、銅貨十枚。


 【荷物持ちの依頼】

 こちらは銀等級の冒険者チームです。構成は前衛二、後衛二。

 戦闘ではなく、移動の際に荷物を運んで欲しいのです。

 新人冒険者の方はチームの動きなどを覚えられると思います。

 報酬は銀貨一枚。


 【助っ人します】

 助っ人(すけっと)します。

 戦闘には自身あり。

 報酬は食事を奢って貰えれば、それで。



「あの、この最後のやつは依頼……なんですか?」

「あのお二人は他国の組合から来られたので……あちらではこれが普通、なのかもしれません」


 ボクはもう一度、依頼書を見た。

 一枚目、さすがに一キロは多すぎる。

 二枚目、先輩の動きを覚えることは新人冒険者には有益かも知れない。しかし、目的地が書かれていないので遠い可能性しかない。

 三枚目は……これは、


「他よりは良さそうだし、これにします。というかこれってこっちが報酬を払うんですよね」


 受付嬢さんは依頼書に受注の判子を押した。


「はい。これでは依頼なのか、わかりませんよね」


 苦笑う彼女にお礼を言って、ボクはこちらが雇うのか雇われるのかわからない、へんてこな依頼書を書いた二人の元へと向かった。

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