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十時限目 突然連行されました(その1)

今回は短いです。

あと毎度のことながら中途半端なとこで切れてます。





――翌日



「やっべぇ!!」


 朝っぱらから俺は全力疾走していた。

 学校まではあと少し。本来ならば学校の校門前は生徒達で溢れているはずなのだが、残念ながら今は俺の周りには全くと言っていい程生徒達の姿は無くて、カラスの連中だけが道路に出されたゴミを狙って家の軒先で狙いを定めている。

 五月に入ってだいぶお天道さまが本気を出し始めたらしく、陽光とともに紫外線をバシバシと照射してくれやがってるもんだから朝から暑い。にもかかわらず俺は汗まみれになりながら走らねばならない。

 何故か。それは至極端的にあっさりと簡潔に言えば寝坊したからにほかならないワケで。


「くっそ! 雅のやつ起こしてくれりゃいいのによ!」


 昨夜はなんやかんやで色々と寝るのが遅くなって、プラスで初めての学校てこともあってまあ体も精神的にも疲れてたんだろう。

 目を覚まして床に投げ捨てられた愛用の目覚まし時計を拾い上げてみればすでに八時前。絶望的な気分に打ちのめされながらも着替えながら階段を駆け下りるという奇跡的な所業を行いながらリビングに駆け込んでみれば、すっかり冷めたトーストとコーヒーと共に非情な雅の書き置きが残っていた、というわけだ。我が妹ながら冷たいやつだ。いや、本当に冷たいやつなら朝飯は用意してくれはしないか。前言撤回。我が妹ながら可愛いやつだ。

 走りながらもそんな事を考えつつ右腕の時計を見た。時間はすでに八時半前。始業時間まで残り時間は後数分。しかしながら顔を上げてみれば校門は目の前だ。


「何とか遅刻は回避できそう……ん?」


 やれやれと一息ついた俺。ここまでくれば然程慌てずとも間に合うか、と走る速度を緩め始めた。

 と、その時だ。

 影が俺の姿を覆い隠し始めた。

 当然ながら俺の足元には俺の分の影だけがご鎮座されてるわけだが、その影がより大きな影に飲み込まれていった。


「どけぇぇぇぇぇぇっ!!」


 頭上から女の怒鳴り声が聞こえてきて、なんだ、と思わず見上げたと同時に、俺の視界に飛び込んできたのは――白い布だった。


「ふべしっ!!??」


 柔らかい衝撃が俺の頭に襲い掛かった。ふに、という感触と共に伝わってきた打撃に俺の体はもんどり打って転げ、どうしてだか気づけば俺はアスファルトと盛大なキスをしてしまっていたわけで。


「も、もしかして直か!? 大丈夫なのかっ!? 大丈夫か!? 大丈夫だな!?」


 大丈夫じゃないです。

 謎の三段活用を聞きながら何とか唇を地面から剥がしてみれば、そこには我らが会長様が。


「すまんっ! 遅刻しそうだったんで屋根の上を走ってたんだが……まさか始業間近で下に生徒がいるとは思わなかった!」


 ごめん、何言ってるかわかりません。どこの世界に学校に通うのに人ん家の屋根を走る人間がいるっていうんだか。

 くらくらする頭の中でそんなツッコミを入れながら差し出された先輩の柔らかそうな手を取ろうと手を伸ばした。


「ぬっ!? いかん、遅刻してしまう!」

「へぶっ!?」


 だというのに先輩は急に手を引っ込めて時計を確認。おかげで差し出した腕は宙を掻き、俺は再びアスファルトと強烈なベーゼをかますハメに。初めてのキスは砂の味がしました。くそう。


「というわけで私は先に行ってる! 会長が遅刻とかシャレにならんからな! 直も遅れるなよ!」


 そう言い残すと先輩は「ビュイーン」と擬音を残して校舎の方へ砂塵を巻き上げながら去っていった。

 そして一人残される、俺。


「いつつ……って寝てる場合じゃねえよ」


 このままじゃマジで「自己紹介で失敗男」につづいて「転校二日目で遅刻男」などという不名誉なレッテルを貼られてしまう。


「急がねぇとぶほぅっ!?」

「ん? 何か踏まなかった?」

「そか? 気のせいやろ」


 起き上がりかけた俺に追撃を加える聞き覚えのある二人の声。


「そっか。んじゃいっか」

「ンな事よりはよせんと遅刻する! 加速するで!」

「ホイきた! アンタこそ遅れなさんなよ!」


 地面に寝転がった俺の頭を盛大に踏みつけながら何事も無かった様に走り去っていく深音と淳平。楽しそうだな、オイ。

 何とか頭だけを上げて二人を見送り、だがしかし俺は力尽きて頭を地面に打ち付けた。


(……先輩のパンツは白か)


 のしかかられる直前に見た鮮烈な光景。アレがきっと世に云う「ラッキースケベ」という奴か。なるほど、俺は一生あの瞬間を忘れまい。この眼にすでに焼き付けてしまったからな。

 だがその代償がこの仕打ちだというのなら、あまりにも理不尽じゃないですかねぇ、カミサマ。

 誰も居ない校門前の道路に横たわって、頭の中でヒゲもじゃロン毛の兄ちゃんと先輩の白パンを交互に思い浮かべながら俺は始業のチャイムが鳴るのを聞いていた。





――同日、昼休み



「いやーゴメンゴメン! 何か踏んづけたとは思ってたんだけどさぁ!」


 昨日と同じく教室で、雅の作ってくれた弁当をムスッとした表情で突っつきながら俺は深音と淳平から謝罪を受けていた。

 俺の机の上に三つ弁当が並び、その前でパチン! と両手を合わせてヘコヘコと頭を下げているが、俺はジロリ、と口を尖らせて二人の顔を睨みつけるとプイッとわざとソッポを向いてみせる。


「そー怒らんといてぇや。せやけどまさか朝っぱらから地面に寝る趣味のある酔狂な奴がおると思わんやん?」


 好きで寝てたワケじゃねぇよ。


「そうなんか?」

「意外そうな顔してんじゃねぇよ」

「違うんだ。てっきり人に踏まれるのが好きな人種かと思った」

「どんだけドMだよ」

「あ、直が望むなら遅刻させたお詫びに幾らでも踏んであげるわよ。こう見えてもアタシはSだから。男の人が上げる悲鳴を聞くと背中がゾクゾクするの」

「聞いてねぇよ!」


 さりげなく自分の性癖を暴露しながら薄い胸を張る深音に思わず突っ込む。こいつらは本気で謝罪する気あんのか?


「ないわよ?」

「ないで?」

「ないのかよ!?」


 二人揃って全否定。ああ何となく分かってたよ、お前らがそういう人間だってのは。


「冗談よ冗談」

「なんや直がええ反応してくれるからなぁ。からかい甲斐あるんが面白いンもあるし、何やろ? ツッコミの腕を磨いてやらななぁ、みたいな」

「お前は俺をお笑い芸人にでもしたいのか?」

「お、それエエなぁ! ならもうちっと練習するか? 幾らでもイジったるで?」

「もう勘弁してくれ……」


 いい加減突っ込むのに疲れてきた。というかコイツらにまともに付き合ったら疲れるだけだな。二人を友としたのは間違いやったかもしれへんな。あ、口調が伝染った。


「だけど、踏まれる趣味が無いんだったらなんであんなトコに寝そべってたのよ?」

「せやせや。あ、もしかして餌を運ぶアリでも観察しとったとか?」

「お前はいったい俺を何者にしたいんだよ……別に俺だって好きで寝転がってたわけじゃねーよ。河合先輩にやられたんだよ」


 言いながら頭の中に朝の鮮烈な光景が蘇ってくる。うむ、素晴らしい景色だった……ってそうじゃねぇ!

 自分で自分に突っ込みながら頭をブンブンと振って白い景色を追い払う。突然の奇行に二人が怪訝な顔を向けてくるが無視だ。


「河合先輩って誰?」

「ああ、そっか。あの人二年生って言ってたし、二人とも知らねぇか」

「そりゃなぁ。俺らかてまだ入学して一ヶ月ちょっとやし」

「有名な人?」

「一応生徒会会長らしいんだが……」


 生徒会も普通の学校と違って一部活動のような扱いになってるしな。自分の所属してない部の部長とか言われても分からんだろう。

 さて、どう説明したらいいもんか、と頭を捻り始めた俺だったが、突然「ズバーン!」と音を立てて教室の扉が勢い良く開かれた。

 当然俺らを含め教室に居た全員が一斉に音の発生源に注目したのだが、その中でただ一人だけ頭を抱えている人物が居た。


「直! 武内・直は居るか!?」

「……あの人だよ」


 つまりは俺である。


「なんや直、ごっつ美人さんに呼ばれとるで?」

「ああ、分かってるよ……」


 分かってはいるが、何故だろうか? 先輩に呼ばれると近づきたくなくなるのは。


「ああ……あの人の事かぁ」

「ん? 深音は知っとるんか?」

「まあね。だって有名人だもん。美人だし頭も良くておまけに運動神経抜群! 一般入学なのにソフト部とかテニス部とかの強い部からも引く手数多だったんだって。結局どこにも入らなかったらしいけど」

「なんでや? 声掛けられるくらいやのにもったいない話やな」

「なんか『自分は生徒全員の役に立ちたいのだっ!』とかって言って全部断ったんだって」


 昨日も似たような事言ってたな、あの人。そんなに前から言い続けてんのか。


「おもろい事言う御人やな。その思考回路はよう俺には分からんけど」

「ま、本人がはっきり断る前から色々と奇行が目立ってきて自然と声は掛からなくなってきてたらしいけど」

「奇行てなんや?」

「先生の言う事に納得いかなかったら授業中でも納得行くまで議論しようとして授業を妨害したりだとか、突然叫び声を上げたりだとか。それから窓から飛び降りたりとかっていう話もあるわね。アンタも聞いた事くらいあるでしょうが」

「おお! 確かに聞いたことあるな! 凄いけったいな別嬪さんがおるゆう話か」


 そして昔からそんな事やってんのか、あの人は。

 三人で顔を寄せあってそんなひそひそ話をしていると当然目立つ。


「む……ああ、直! そこに居たか!」


 そんなわけで先輩は、意図して背を向けていたにもかかわらずあっさりと俺の姿を見つけると、喜色満面で俺の方へと歩き寄ってきた。そしてこっちがメシを食ってるのを気にも留める素振りも見せずに俺の腕を掴むと引っ張って教室から出て行く。

 って、こんな華奢な見た目なのになんて力だよ!


「ちょ、ちょっと先輩! 何処に……」

「昨日君に言われたアイデアを実行してみたんだ! ちょっと来てくれ!」



お読み頂きありがとうございました。

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