#18
「望も優美も、まだ、ご近所さんだよ」
「あー。のんちゃんに、ゆーみちゃん! ……懐かしいぃぃ!」
そしてまた、互いの記憶を確かめ合いはじめる。どこに何があったか。どんな人が居たか。一緒にした遊び……ひとしきりしゃべった後、今は大学生? って言葉で、見失いそうになっていた本題を思い出した。そう、赤城の真実を見つけるために、俺はここに来たんだ。明里ねーちゃんと昔を懐かしむ時間なんて、これから先いくらでも取れるんだ。もう、これから先は。
まずはきっちりと、赤城の事件の謎を解こう。
つないでいた手を放して見つめあう。ロマンティックな雰囲気ではなく、刑事とか探偵とかが目で合図しあう、あんな感じ。そして、明里ねーちゃんがさっきの写真を取り出した。
あの短剣。
改めて見ても日本のデザインではない。西洋っぽい……と言っても、西洋のデザインに詳しいわけではないが。ファンタジー系の漫画やゲームに出てきそうなデザインってのは分かる。そしてよく見ると、柄の中央に大きなくぼみがあった。一般的なデザインだと、ここに大きな宝石とかハマりそうだな。
「やっぱり見覚え、ないまんま?」
「うん。やっぱり見たことはないや。でも、面白いものを手に入れたって話は、確かにしてたんだよ」
「彼のアパートに最後に行ったのって、いつくらいなの?」
「試験が始まってすぐ……くらいの時かな……?」
「それから試験が始まったんだよね……手に入れた、って連絡があったのは?」
「えーと、試験が終わり頃の……最終日だったかな、夜中の3時ぐらい……だったと思う。電話がかかってきて。妙にテンション高くて」
「さっき言ってた夜中3時ね」
明里ねーちゃんがまた、にっこりと微笑む。うわー。俺、もじもじしちゃうよ。
「……えっと……そう。そうそう。さっき言ってた夜中3時です」
「どんな感じだったの?」
「いきなり深夜かけてきたと思ったら、くだらない漫画の話で始まって……漫画のキャラと自分との共通点の話とかです」
「うーん。漫画は全然読まないのよ……」
「そっかぁ。でも、安心して。その漫画自体はこの時は比較的どうでもよくって……その漫画の副題がね……」
「副題?」
「えーと『SF超大作』とか『痛快ドタバタアクション』みたいなやつ」
「ああ、副題、ね」
「ロマン……ホラー? シンクって」
「俺もよく分からないんだけど、深紅ってのは深い赤の深紅」
「その、深紅のロマンホラーっていうのが、面白いものとつながるの?」
「赤城は、『深紅のロマンホラーっぽいアイテムを手に入れたぜ!』みたいに言ってたんだ」
「ロマンとホラーで、古い短剣、か……考えられなくもないけど……あとは色も気になるわね」
色か……赤城が自分のラッキーカラーが赤って言っていたからあまり気にしていなかったけれど。確かに……。
赤城のあの腕が、また、記憶の中から呼び出される。赤って色が嫌いになりそうだよ。
「だいじょうぶ?」
「あ、はい。そのアイテムは……キャンプで見せるよって言ってたんだ……あんまり街中で持ち歩くのは何だから、みたいなこと言ってて」
「そうね。その仮説は不自然ではないわね」
「それにあれだけ俺になんでもしゃべる赤城が……入手の時期、他には考えにくい気がするんです。その短剣、どこで見つかったんですか」
赤城の、あの腕を思い出す。どうやったらあんな傷がつくのだろう。短剣を使って? ……いや、それも考えにくいか。
「……不思議なんだけど、冷蔵庫の中、みたいね」
「冷蔵庫?」
あいつのうちの冷蔵庫は、ビールとチーズとサラミくらいしか入ってなかったはず。しかも倒れていた時に冷蔵庫の中ってのは、凶器には直接関係ない感じ?
「彼はもしかしたら、この微生物の存在と特性を知っていたのかも……」
「いやー。それは考えにくいです。赤城の専攻はアメリカ文学だし……それに」
「それに?」
「日本では、北海道でも生息できないような微生物、なんでしょう?」
「原種や亜種は、ね」
ああ、そうだった。
「……新種……ですか」
「科捜研の方がサンプルをいくつか採取して特別に分けてくれたんだけど……量が少ないから」
「じゃあ、まだ、分からないんですね」
「よく似ているからね。もう少し数を増やしたら、温度実験とかで耐性も少しは調査できるのかも……」
「時間がかかるんですね」
「そういう研究なのよ」
短剣。微生物。冷蔵庫。そして深紅のロマンホラー。つながっているようで、そのつながりはまだ見えないまま。
明里ねーちゃんは、写真のコピーを俺にくれた。そのコピーを折れないよう大切にリュックにしまうと、俺たちは研究室を出た。
(続く)




