詩
隣の部屋の 扉が開く
見慣れない鍵の音と 春の風
新生活の 埃を払って
挨拶を かわそうとしたんだ
息が止まった 時間が死んだ
白昼夢に 殴られたみたいだ
そこに立っている あるはずのない影
僕を呼ぶはずのない あの横顔
思い出さないのは 忘れたことがないから
逃げるように捨てた あの街の空
止まったままの僕の時計が
急に狂ったように 脈を打ち出す
君じゃないことくらい 分かっているよ
心臓が弱くて いつも窓の外を見ていた
花に囲まれて 眠りについた
あの日の君が ここにいるはずないのに
言えなかった 好きだ の三文字が
喉の奥で 熱い塊になる
立ち尽くす僕の 目の前で
君によく似た誰かが 静かに微笑んだ
病院の匂い 積み上げた教科書
塾にも行かずに 君のそばにいた
川の音色 あぜ道の香り
きぎの隙間から見える街並み
いつか君と行く 秘密基地の冒険譚
全部叶えると 信じていたんだ
中学の終わり 影は薄くなり
合格通知は 届かない宛先
勇気がないのを 優しさのせいにして
一番大事な言葉を ポケットに隠した
おはようも またねも
全部あの日で 終わったはずだった
世界で一番 綺麗な寝顔に
淡い期待を 呟いたあの日で…
君じゃないことくらい 分かっているよ
だけど輪郭も 髪の靡き方も
残酷なほどに 君に似ていて
僕は言葉を 失ったまま動けない
言えなかった 好きだ の三文字が
今さら僕を 切り裂こうとする
はじめましてと 見知らぬ声が
止まっていた季節を 無理やり動かしていく
君によく似た 隣人が行く
僕はまだ 立ち尽くしたまま
あの日の病室の 続きを夢見てる
ありふれたアパートの 入り口で…




