物語
亡くなったはずの幼馴染が、目の前に立っている。
僕は言葉を失って、立ち尽くしていた。
芹沢穂花は、僕の幼少期に隣に引っ越してきたらしいが、その記憶はない。
気づけば、一緒に遊ぶ仲になっていた。
だけど、穂花は、あまり学校に来なかった。
それは、彼女が心臓に病を患っており、入退院を繰り返していた為だ。
僕は、彼女が入院中は、毎日の様に病院に通い、学校での話や、元気になったら一緒にしたい事をたくさん話した。
早く元気になってほしい。
元気になったら、一緒に色んなところに行きたい。
秘密基地だってあるんだ、マンガやお菓子を持って、一緒に行こうよ。
僕の願いや夢は、穂花に関する事ばかりだった。
だけど、それが叶わぬ事は、中学に上がる頃には薄々と感じ始める。
穂花の病気は治らない。
それどころか、日に日に弱ってきている。
僕は、絶望感と焦りに押し潰されそうだった。
中学3年生になる前に、彼女は全く学校に来れなくなる。
僕は、毎日、彼女の病室で受験勉強をした。
周りは塾に通っていたが、その時間さえも彼女のそばにいたかったからだ。
だけど、僕が高校合格した事を彼女に伝える事はできなかった。
それよりも、もっと伝えたかった事がある。
怖くて、伝えられなかった。
伝えると、穂花の負担になるかもしれない。
違う、そんな思いやりに溢れた理由じゃない。
勇気が無かったんだ。
もし、叶わなかったら、僕は病院に会いに行くことすらできなくなるかもしれない事が。
だったら、このままの関係で過ごしてもいいと諦めようとしてたんだ。
たった3文字の言葉を言う勇気すら持てずに。
好きだ。
穂花の綺麗な顔の周りに、たくさんの花が添えられている。
もしかしたら、声をかけたら起きてくれるかもしれない。
そんな淡い期待を抱いて、僕は小さく呟いていた。
それが、叶わないと、わかっていても。
あれから、高校を卒業し、逃げる様に地元から離れ、県外の大学に入学した。
思い出す事がないのは、一瞬も忘れた事がないから。
だけど、乗り越えなくてはならない。
ようやく新居の整理を終え、一息つこうと、アパートを出たら、同じ年頃の女性が隣の部屋から出てきた。
そう言えば、挨拶をしていなかったな。
そう思い、顔を見たら、そこには亡くなったはずの幼馴染が立っていた。
いや、彼女が穂花ではない事は、わかっている。
だけど…。




