黒の使徒を封じる
ゼノが剣を構え、無言のまま影を押し返す。
火花が散り、赤い瞳と金の片目が正面からぶつかり合った。
その隙に、私は必死に羽ペンを握り直す。
(私が作った存在なら……私が責任を取るしかない!)
古書のページに震える手で文字を刻む。
『虚無に囚われし黒の使徒よ――ここにて物語を閉じよ』
光の文字が紙面から浮かび上がり、空中に散っていく。
黒の使徒が呻き声を上げた。
赤い瞳が一瞬だけ揺らぎ、黒い霧がざわめく。
「今だ、押せ!」
魔王の声が響いた。
「おうよ!」
ガルドが雄叫びと共に大剣を振り下ろす。
ゼノが一瞬の隙を突き、剣を心臓めがけて突き立てた。
黒の使徒の体が大きく揺らぎ、霧が四散する。
私の書いた言葉がその裂け目に絡みつき、虚無を押し潰すように輝いた。
「――あぁぁぁ……!」
影が断末魔の叫びをあげ、やがて形を保てなくなり、黒い霧となって崩れ落ちた。
⸻
しばらく、森には静寂だけが残った。
「……やった、の……?」
私は膝をつき、息を荒げながら呟いた。
「ええ、完全に封じました」
クラウスが眼鏡を押し上げ、黒い霧が跡形もなく消えた地面を見つめる。
「マシロ様の筆がなければ、我々では討伐できなかったでしょう」
「へっ、姉御が締めてくれなきゃ、俺たちも危なかったな!」
ガルドが豪快に笑い、背中を叩いてくる。
「マシロ様……ありがとうございます」
リリィが胸に手を当て、深々と頭を下げた。
ゼノは剣を拭い、静かに鞘に収めた。
右半分の仮面が光を受け、影を落としている。
その沈黙の背中が、妙に頼もしく見えた。
⸻
魔王がこちらへ歩み寄り、金の瞳で私を射抜いた。
「よくやった、マシロ」
胸に熱いものが込み上げる。
恐怖も、罪悪感もまだ消えない。
けれど今は――確かに、自分がこの戦いに必要とされていることを実感していた。
私は羽ペンを強く握りしめ、心の中で誓った。
(私が書く――この世界を、最後まで守り抜くために)
森の奥へと続く道は、まだ深い闇に覆われている。
けれど一行は迷うことなく歩を進めていった。




