イベントシナリオ『悲哀は誰が為』9
私のバフを得たプレイヤーたちが猛攻を仕掛ける。
矢、炎、水、雷などの多種多様な技が乙姫に衝突し、その鱗を傷つけた。
「穿て!《貫通撃ち》!」
「炎よ、天より降り注げ!『火系統魔術:焔雨』!」
「逆巻け、『スピンカウンター』!」
魔術と、弓使いがヘイトを稼ぐ。稼いだヘイトのせいで来る攻撃をタンクがカウンターでダメージを与える。更に、カウンターによってできた隙でアタッカーがより輝く。
うんうん、素晴らしい。素晴らしい事この上ないね。
先程までのグダグダした攻撃ではなく、明確にダメージが入っているとわかる程の損傷を乙姫は受けていた。
そんな中、何人かのプレイヤーが抜かしやがった。
「勝ったな、風呂入ってくる。」
「やったか!?」
「俺、このイベントが終わったらデートするんだ………」
「今日がお前の命日だ!!」
「勝ったッ!第3部完!!」
そう、フラグのオンパレードだ。悪ふざけとわかっている。わかっているが、この状況だと非常にまずい。
今はダメージを与えられるようになって、傷付き始めただけだ。まだHPは6割以上残っている可能性もある。
じゃあ、ココで問題。敵ボスのHPが低くなったときは大抵の場合、何が起こるでしょう?
大体は、『怒り』状態や、第二形態が来るよね。だから、力は温存しておかないと。
こんな事を考えている間に、ムッツリきなこが距離を詰めて日本刀を乙姫に振り下ろそうとしていた。
狙いは角、水面の輝きに似た水色の角を彼の日本刀が狙いすましている。
そして、ムッツリきなこは私の『呪帝の軍勢』によって一時的に付与されたスキルを唱える。
「龍よ、我が剣に宿り、その姿を顕現せよ!『龍王牙剣』!!」
日本刀に魔力が収束し、刃の形を作り出す。本来のサイズとは桁違いのサイズの刃が出現した。
『龍王牙剣』、竜種に途轍もない特攻を持つ火力スキル。魔力の刃で叩き切る事を主軸にした物理攻撃スキルで、コストが超高いのであまり使いたくないはず。それを切るってことはもう仕留める気かな?
『龍剣士』の効果で宙に足を乗せ、ムッツリきなこは刃を振り下ろす。
巨大な刃が、乙姫の美しい角に衝突する。乙姫は音の防壁を生成して防御しようとしているが、込められた魔力の量の違いで次々破られている。
しばらくの拮抗のあと、乙姫の角が嫌な音を立てて砕け散った。
頭を吹き飛ばされた乙姫は勢い良く地面に倒れる。大ダウンが発生した証拠だった。
プレイヤーが総火力を持って攻撃しようとした瞬間、乙姫の体に異変が起こる。
―――――――――突如として、乙姫の体が膨張した。
倒れた龍の姿が、頭から裂け始める。頭蓋から鮮血が飛び散り、龍鱗が宙を舞う。
血液の波が、龍鱗の刃の嵐が、肉が裂ける音の波動が、そのすべてが攻撃となる。
プレイヤーたちを一掃し、乙姫の体は一瞬で消失した。
その龍の巨躯は、まるで元からなかった物かのように消え去り、その場には何もなくなっていた。
プレイヤーたちが異口同音に「逃げた?」などと言っているが、私はそうは思わない。
私の勘が警鐘を鳴らす。奴はまだ生きている、警戒を解くな。そう雄弁に告げていた。
プレイヤーたちが少し警戒を解いた時、周囲に声が響く。
甲高く、それでいて心地よく、いつまででも聞いていたいようなそんな声が。
「――――――悲しい、悲しい。我らと人が争うのが。」
泣いているような、期待しているような、感情の読みにくい声が響く。
プレイヤーたちが警戒を強め、陣形を組み始める。
「――――――あぁ。人よ、子らよ。父なる大地を踏みしめて、懸命に抗う愛しき子らよ。」
「どこにいるんだ!?」
「出てこい!」
異邦人たちが、威勢よく高らかに叫ぶ。しかし、声の主は姿を見せること無く、再び言葉を紡ぐ。
「―――――――現世を照らす太陽に見初められし勇者たちよ。抗いなさい、受け入れなさい。母なる海に抱かれて、水面の底に沈むのか、再び大地を歩くのか、私に見せてみなさい。」
刹那、私達の頭上が一気に暗くなる。先程までは太陽光が入っていて、明るかったのだが、今では薄暗く、視界が制限される程の明るさに変化してしまった。
何?影?そんな馬鹿な、このエリア全域を覆い隠す影なんて、どんだけ巨大なのさ。
皆が頭上を見上げ、その姿を見てしまう。
群青の鱗を身に纏い、珊瑚色の角を頭に宿し、太陽の如き金の眼で世を照らす。
まさしく神の如き存在がこの場に顕現する。
天を覆い尽くす、巨大な龍の姿を。
龍の顎が動き、私達に名を告げる。
「―――――――私は『嫉妬の魔王』。リヴァイアサン。さぁ、子らよ。私に力を見せなさい」
『イベントボス『嫉妬の魔王』リヴァイアサンとのレイドバトルを開始します。現在の参加人数は8128人です。』
絶望が、姿を表した。




