7/閑話
絶対勝つ!大丈夫!と大言壮語を吐いておきながらまさかのオーバーヒートでゲブラーから一時撤退。大変お恥ずかしい。
そんなこんなで今は──
「──どうだ」
マスカルウィンをなんとか離れ、近くにあった小さな空家を勝手に借りてKを寝かせた。夜が来て煌天になり、安定した転移が使えなくなった為已む無くの決断だ。
「寝たよ。でも凄い熱」
「医者とか呼んだ方がええん違うか」
「かも」
「──医者か…。もう暫く行けばケセドだが…この辺りの砂漠では……」
難しい、と頭を掻く。
落ち着かないaとシール。ふたりが醸し出す薄暗い雰囲気に、グールが呆れた顔をする。
「おまえら…落ち着ぃや、もー。んな大袈裟に考えんな。ただの過労やて」
「そうは言っても…」
グールの右には、ひたすら心配そうにそわそわするa。
「…」
左側には、苛立ちを隠し切れないシール。
そわそわ。
いらいら。
「……」
その空気に耐えかねて、
「だぁあ! 鬱陶しいわッ!」
グールが叫んだ。
「じゃあ俺が決めたるッ。おまえは同調マスターして、おまえは医者捜して来い。アイツは俺が看といたる」
aとシールを順に指して、ほれ行った行ったと手で払う。勢いに押されるままに、ふたりは指示に従った。
「───…」
紺碧の天に月が昇る。
遠くでは何か生き物の声。
部屋は薄暗いまま、ただぼんやりと空を見ていた。
「──なんや、起きとったんか」
扉の開く音と同時に声が届く。
「グール」
後手に戸を閉めるグールの手にはカチャカチャと音を立てる水差しとコップ。
「水持ってきたで」
「お、サンキュー」
少し体を起こそうとして、くるくると目が回る。
「─と…──ふぅ」
「あんま無理すんなよ」
ベッドの脇に椅子を引き摺ってきて腰を降ろすグール。
「あは…グールに心配して貰えるとはね」
なんだかちょっと稀有な気分。
「心配っちゅーか…」
小さく何かを呟いたみたいだけど、如何せん熱で耳が聞こえ難くて拾えなかった。
「ふたりは?」
「医者探しと訓練」
「へ…」
グールは疲れた顔で溜息を吐く。
「あんまり鬱陶しかったんで行かせた」
あ、成程。じゃあふたりも心配してくれてたのかな。
「グールもやるねぇ」
確かに適材適所…かな。
「…く、けほ、げ、」
ちょっと無理して喉を使ってしまったらしい。
「あん?」
少し咳き込むと、グールが軽く顔色を変える。
つっても暗くて顔は見えないから、雰囲気の話だけど。
「おまえ、ただの過労違うん?」
「ごめ…風邪気味だなぁとは」
思ってたんだけど、こんな酷くなるとは思ってなかった。
暫く咳き込み続けると、グールが背を叩いてくれてた。意外に優しいんだよなぁコイツ。
「まぁ正直─」
「…あ?」
「助かったと言うか…」
何を言い出したかと不思議そうな表情で、グールは黙って続きを待つ。
「良かったと思うんだよ、残ってくれたのグールでさ。今一番、楽…」
喉を均しながら小さく呟く。グールが何処まで解って指示してくれたか知らないけど。
「………」
ちょっと起きてただけなのに、もう息が上がってきた。視界もぐるぐる回りっぱなしだし、身体が物凄く軽い気がする。予想以上に熱があるのかも。そろそろ会話を切り上げて寝た方が良さそうだ。布団を首まで引き摺り上げて体を倒す。
「ゴメン、ちょっと寝るわ」
「ああ。じゃあな」
腰を上げるグールに、もう一度だけ視線を向ける。
「…ありがとね」
無言でKの頭をぐしゃぐしゃにして、そのまま部屋を出て行った。
「~~~~…」
やだなぁ、今髪はかなりベタベタだったろうに。
部屋を出たグールは、壁に凭れ掛って天を仰いだ。
「───…」
「どうした?」
突然かけられた声に身体が跳ねる。
訓練を終えたのか、aがやって来ていた。
「あー、ビビった」
「 ? Kは?」
不審そうにグールを見て、視線を後ろの扉に移す。
「ああ、寝とんで。邪魔したんなや」
「ならいいけど…」
首を廻らせて、グールを見上げる。
「シールまだなんだ? 無理しなくてもいいのに。何処まで行ってんだか」
「やな。やっぱ…アホや」
数十分後。シールが医者を連れて帰ってきた。結構遠くまで行っていたらしい。
「過労と軽い風邪。栄養とって休んどりゃ治るよ。こんな夜中に呼び出しおって…心配性な子らじゃのう」
「良かった…」
途端、あからさまにほっとしてみせるふたり。
「せやからそう言うたやろ」
少し場を離れていたグールが欠伸交じりに帰ってきた。漸くひとり大人を見つけて、医者がグールに声をかける。
「この子らの保護者さんかね」
「違う」
寧ろ立場的には一番下だ。
「貴方の部屋も用意する。今日はそこで休んでくれ」
シールが医者を部屋へ案内しようと先に立つ。
「ああ、そうさせて貰うよ。老人は早寝でね。──おや」
グールとすれ違う瞬間、その顔を見て医者が歩みを止めた。
「?」
「こりゃ珍しい。お前さんツェク・マーナかい。セナの血はとっくに途絶えたと聞いていたが…」
「──?」
正体を人喰いと気付きながらも、老医に怖れる様子はない。寧ろ、少し好意的にさえ見える態度でグールの肩を叩いた。
「そう身構えんでも何もせんよ。金払うなら客は選ばん主義じゃでな」
「??」
老医はそのままシールについて奥へと消えた。
謎掛けをされた気分のまま取り残されたグールは、釈然とせずに首を傾げていた。
再び扉が開く音で意識が戻ってきた。
「──ぁ。グール?」
「…俺だ」
「あ…」
名乗らないその声に、身体を起こす。
「医者呼んでくれたんだってね。わざわざありがとう。別に良かったのに」
「…具合は」
何処か明後日の方向を見ながらシールが返す。
照れてるのかもしれない。
「ん。だいぶ良いかな。でもまだ時越とかは使えそうにないや」
一日一国、十日くらいで終わると思ってたんだけど。思えば結構掛かってしまっている。オージサマを国からお借りして来てるのに、あんまり空けると良くないんじゃなかろうか。
「気にするな。ケテルに事の次第は伝えてある。無事に帰れば小言で済むさ」
「──シール…」
そう言うシールの表情はひどく穏やかで。
──わらってら…。
表情、随分変わった気がする。
「うん…。それと、──ごめんね」
玄霊戦。絶対大丈夫だとあれ程豪語したのに、早々に死に掛けてしまった。まさかのオーバーヒート。
「何だ。謝る事はあっても謝られる事はないぞ」
「え。何されたのK」
「『グールじゃなくて悪かったな』とか」
「げ、根に持ってる。悪かったよ!」
「別に」
謝りたかったのは、きっと別の事。お互い真意を口に出来ないまま、それぞれに目を逸らした。
「たーいーくーつー」
ベッドに寝転がったまま、退屈に任せて顎を鳴らす。
「元気じゃのぉ~。回復の早い子じゃわ」
診察を終えたお医者さんは笑いながら席を立った。
「安静にしとればずっと寝とらんでも良いじゃろ」
「じゃ、近付けて良いですか?」
「あ?」
aがすっと手を伸ばす。その先は窓。
「マスタァ~っ」
ご無事ですかぁ~っ、と窓から顔を突っ込んで泣き付いてくる青龍ちゃん。
「にゃほー青龍ちゃん」
大丈夫だよん。
フェニックス君はその後ろでそっぽを向いているが、気になるのか偶にチラッとこちらを伺っている。ふたりとも、愛い奴。
「やぁ良かった。うるさかったんだよね」
どうやら青龍ちゃんがKを心配してずっとaに容態を尋ねていたらしい。
そっか、心配してくれてたんだな。まあ青龍ちゃんの正式なマスターはKだし。それにしたって嬉しいけど。
「まさか嬢ちゃんたちがカルキストだったとは…。世の中まだまだ解らんのう」
カルキストがどう凄いのか、Kにはイマイチ解らないが。どうやら珍しいものらしい、というのはなんとなく解ってきた。…たぶんそこが、肝なんだろう。




