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KのーとinS  作者: 炯斗
10/23

4/栄光の国で

何故こんな事になっているのか。

とにかくふたり並んで長閑な街道を歩いている。ふたりきり…という訳でもないが、aもシールもいないのだ。

「あーもー!! お腹空いたー!」

「喧し、土でも喰っとけ!」

「土なんか食べたらジャリジャリして気持ち悪いでしょ!!」

自分から言っておいて「そんな問題か」と突っ込みを入れるグール。

現在a・シール組みと逸れ、グールとふたりでホド国内を探索中だ。なかなかに最悪な組み合わせだと思う。さっきからずっと剣呑でスッキリしない空気が流れている。しかもシールと離れたKたちはお金を持っていない。

「はよあいつら探すぞ。ったく時越えしくじりやがって」

グールはそう言って大きく溜息を吐いた。

「出来ないのに文句言うなよ! 大体それじゃあKの技術不足みたいじゃん。アレはMP切れなの!」

結局自らのレベル不足を示しちゃったような気もするけどまあいいや。

つまりなんでこんな事になっているのかというと、時越えに失敗してみんなバラバラに弾き飛ばされたからなんだよね。いやぁ、生きてて良かった!

でもa達の方はどうなってるか解らない。事故直後から連絡が付かなくなっているのだ。

目的はターミナルなんだからそこに行けば会えるでしょって事で向かおうとしてるんだけど…問題がもうひとつ。

「それはともかく…何処なのよココ!?」

「おまけに人身事故!!」

「やめてよ轢いたみたいな!!」

よよよと泣き崩れるグール。

うぅ…巻き込んじゃいました一般人……

「あーマジ最悪。アタシが何した言うん…」

可愛いんだけど地味な印象のお姉さんで、得体の知れない気品がある。左頬に薄く小さな模様があり、それがこの地方のおしゃれなのかどうかは判断しかねる。

今の今まで存在を忘れかけていて、慌てて振り返った。

「お姉さんごめん、とりあえず名前と住所教えて」

「家はテラメルコや。リンカの辺り。名前なんか教えられへん。好きに呼んだら」

「じゃあグーラーで」

「グーラー」は「グール」の女性変化だ。女性型の人喰の事。特徴的な西言葉と、頬の模様。

安易に同族かな、という判断で。

「テラメルコ…ここ、カームベルトやろ?」

グーラーの言葉にグールが考える。

「さあ。Kにはさっぱり」

住んでる土地の事も覚えられなかったのに、来た事もない世界の地理が解る訳ない。自慢じゃないがKは方向音痴だからな。地図も読めない女だぞ。

「アンタもツェク・マーナ?」

グールの言葉イントネーションに反応してグーラーが顔を上げる。グールが肯くと頷いて暫し黙ってから

「最悪」

すっごい形相で睨まれた。

「ぅ…」

な、何で?? ハテナ出まくりだが、一つ解った事が…『も』って事は、やっぱりお姉さんも人喰いなんだね。グーラーで間違ってなかった!

「まぁそれで。Kたちホドの首都に用があるから…え~と」

グールに目を遣る。

「ホランダラット」

「そう」

そうって言っておいて記憶にないんだけど。

ホドの首都はホランダラットか。記憶している内に叫びに近い声が飛んだ。

「何やて!?」

飛ぶように詰め寄ってきて一気に捲くし立てる。

「真逆やんかテラメルコと! いきなり知らん土地に飛ばされて今度はホランダラットやて!? 何なん!? もう! はよ帰して!」

西言葉の迫力というか勢いに飲まれそうになるけど…

「別について来いとは…帰ったら?」

「無茶言うなぁ!? 2500km歩いて帰れて!?」

え、え? えーっと、徒歩だと、4km1時間で…2500/4は、625…え?625/24…26…27日。1ヶ月かかる?? ………う~ん…マジか。や、だって、そんなに離れてるなんて知らないもん。そんなに怒られても困るもん。

「しょーがないなー。じゃ、用がすんだら送ってくからさー」

とは言えKに土地感はないから、グールを見上げる。

「首都までどんくらい?」

「あーっと、ここがカームベルトやろ? …2500km?」

「えーっと、するとー、2.5で飛んで-大体…1時間か」

ぶつぶつ言いながら地面に計算を書き込む。

マッハ2.5で飛べば2500kmは大体1時間で行ける。フェニックス君の羽の大きさとフォルムを計算してみる。これならまあ大丈夫でしょ。収まる収まる。千切れない千切れない。

「よし、行くぞっ」

「えっ!?」

急に立ち上がったこととその言葉に驚いてKを見たグーラーは、今度はフェニックスくんの姿に釘付けになる。

「乗って」

「「え?」」

グーラーは完全に困惑して、グールは不吉な予感でいっぱいみたいな顔をして、フェニックス君によじり登る。

ふたりがちゃんと乗ったのを確認して、フェニックス君の背を叩いた。

「「えっ」」

ぎゃ────────────!!

激しい雄叫びを残してボクらは風になった。



「着いた! ちょっと暖かくなったね」

ネツァクが暑いところだっただけに「涼しくなった」といった方が正しい気はする。

振り返ると二名様ご愁傷だ。蒼い顔でよろめいている。一時間の高速空の旅はどうやら不評だったようだ。Kも本来乗物酔いはし易い方なんだけど、操縦者は平気ってヤツだろうか。

「何よ、今の」

吐き気を噛み殺したような顔で天を仰ぐグーラー。

「本ッ当気持ち悪い…一時間も…」

座り込んでしまった。

その後ろでは、何やら街の様子が騒がしい。明らかに上級兵の格好をした人達がたくさんいる。犯罪者でも探してるんだろうか。

いらっしゃったぞ、なんて聞こえたからもしかするとお偉いさんの来訪に備えて街を整備でもしていたのかも知れない。

「…何アレ」

「さぁ。どっかのお嬢様でも逃げたかね?」

騒動に巻き込まれるとまた文句言われちゃうので、なるべく関わらないようにしないといけない。適当に答えて首を回すと、近くに居たお婆さんが近寄ってきた。

「あれは公爵家の連中だよ。どうやら縁談の決まったお姫様が逃げちまったんだとよ」

「へぇ」

何か当たっちゃったカンジじゃん。

にしても女の人は幾つになっても噂好きよね。グーラーもそういった話はキライじゃないのか、からかうように笑った。っていうか誰か近付いてくる。兵の一人に見えるけど…。

「そりゃあ相手は面目丸潰れやなぁ!」

欠片も思ってなさそうに可哀想にと付け足した。

その背後で、近付いてきていた男が立ち止まる。

あわわ。

「お解かりでしたら速やかに城へお帰り頂きたいものです。ザクサス様がお待ちになられている」

背後から声を掛けられて背筋が跳ねるグーラー。

隙を突いてお婆さんは逃げていた。こういう所も見事だよなぁ、年寄り。

それより、こっちだ。

「は…」

言われている事が理解出来ずにいるグーラー。うわぁ…騒動の予感に胸が躍る。

漸く頭の働き始めたグーラーが叫んだ。

「はあ──!? 公爵令嬢──ッ!?」

大口を開けて自分を指差す。

だが男は容赦無く彼女の手を掴んだ。

「付き合っている暇はありません。さあ」

「っ! ちょっと!! 人違いだっつの!!」

あ…それはよくないなぁ。

「ちょ、いたいっ」

「女の子に無理強いはいかんねー」

止めに入ろうとしたKより、意外にもグールが動く方が早かった。グールが一払いで男の手を解くと、グーラーはすぐにKたちの後ろに隠れた。恐かったらしい。あーあー、こんなに怯えさせて。

男は此方へ厳しい視線を投げかけたが、グーラーの赤くなった手首に眼を移すと流石に斜め下を向いて謝った。

「…申し訳ありません」

だがすぐに顔を上げてグーラーに向き直った。

「しかし今は時間がない。とにかく城へ」

「だからぁ~、アタシちゃうって…ん゛んんっ、人違いですって」

ホーマサス社会でツェク・マーナとバラすと危ない。ホーマサスにとってツェク・マーナは人喰い─恐ろしい敵でしかない。その辺を考慮して言葉を直そうとしたんだろうが、相手は何せグーラーを公爵令嬢だと思い込んでいる。

「ツェク・マーナの言葉など何処で覚えていらっしゃった。お止めなさい、人目がある」

「あーも~この際や! せやからアタシはツェク・マーナやねんッ。公主ちゃうの!!」

「ですから、冗談に付き合っている時間はない」

「きゃーっ! やっ、ちょっと~─ッ」

がしっと肩に担がれて強制連行されていくグーラー。人目が凄い事になってるけど。

「あー、面白くなりそうだねー。でもKたちはaさん探さないとだから…」

「ああ安心した。おまえの事やからついてくとか言い出すかと思たわ」

む。本当は言いたかったソレ。

その間にもグーラーを担いですたすたと行ってしまう男。グーラーは涙目でKを睨んでる。

「あんたら、責任とってくれる言うたやろ~」

物凄い恨みがましい目だ。

「や、でも、人探し…」

「…」

む、無言のプレッシャー。

グールとアイコンタクト。う。こっちもすごい眼で見てる…。

なんだよ! 全部Kの所為かよ! しょうがないなぁ…。

「解った解った、一応着いては行ってみるけど!」

何が出来るかは知らないけどさ。

盛大な溜め息を吐いたグールには気付かないフリをした。




「ぎゃーーっ、何コレ──!!」

そんな叫び声でKとグールは公主サマのお部屋に召喚させられた。

「何だい大きな声で」

城に上がるに際し、グーラーの粘り勝ちで公主サマの側に居られる事になったK達は、流石にTシャツジーパンは咎められ、堅苦しい格好にお化粧までさせられてしまっている。

Kは臙脂のドレス。ジャラジャラした首飾りにヒールの高い靴。何よりスカートと化粧が非常に気持ちが悪い。顔が擦りたいよー、顔!

グールは何かいい感じ。っていうか美形は何でも似合うよな。羨ましい。凄い細かい刺繍の入ったサーコートを着せられている。格別に高そうなんだけど…女中さん達、興奮気味だったしな。女性陣に囲まれて嬉しいかと思いきや、グールは大変不機嫌だ。

今はグーラーの濁点付きの悲鳴に溜息を吐いていた。

何を驚く事があったのか、涙目に近い。曰く。

「アタ、アタシちゃう、コレッ。何が起こっとるん!??」

はああ?

「大丈夫大丈夫、似合ってるよ」

「おー似合うてるー」

双方やる気無さ気に持ち上げる。だが彼女が言いたいのはそういう事じゃないらしい。

「ありがとっ、でもそやなくてな! この体、アタシのちゃうねん!」

「「は?」」

落ち着いて聞いてみると、こういう事だ。

まず紋が違う。位置は同じだが、模様が違うと言う。ツェク・マーナである徴ともいえる痣。男性は硬角紋といって少し固くなった半立体的な物だが、女性のそれは薄っすらとしたただの痣なのだそうな。紋が出る場所は個体により異なるらしい。

服も違った。巻き込まれた前後の記憶が曖昧なので思い違いかもしれないと口にはしなかったが、クリーム色のワンピースを着ていた筈が何時の間にか藤色になっていたと。

それに何より顔や体のバランスなどが違う。

………気付かないもんかね。

「そもそもその体からは」

ちょっと呆れていた処にグールが言った。

「人を喰っとる匂いがせぇへん。人喰わんのやったらそらただのホーマサスや」

ただの、というには美形が過ぎる。って言うかそう言えば、グーラー人喰にしては地味だもんね。成程、体が別物だからって事?

「でも…この体にも紋あんで? 人喰うてへんて…」

あれ? ホントだ。この体もツェク・マーナなんだよね? この、地味顔で? …だから狩りが成功しなくて食べれてない、とか。

なんて考えていると、グーラーにお迎えが来た。今から婚約者との逢瀬のお時間らしい。舌打ちして適当にぶっ壊してきてやると呟いた。流石にその呟きまでは聞こえなかったようだが、即座に叱咤が飛んだ。公主様(仮)はそれにまた暴言で返すと、イライラと大股で部屋を出て行った。


「ねーねーグール。ホントにホラン…えっとー…にあんの?」

卓上の不可思議なお菓子を楊枝で突付きながら尋ねる。ターミナルの所在地の事だ。

流石に見合いにまで着いてはいけないのでココでお留守番中なのである。

蜜柑似の果物を口に放り込みながらグールは答えた。

「ホランダラット。あの赤いのが言っとったで、『首都』やて」

「aが何で知ってんの?」

我ながらどうかと思うけど、「赤いの」で解るヤツ。

顔を上げる。グールは構わず蜜柑似の果物の筋を取ってる。

「さあ? あいつに聞いたんちゃう」

この餅に似た菓子、歯に詰まる。楊枝の使い道が変わる。

「ふ~ん…でもさぁ、さっき違う名前聞いた気がするんだけどな。しかも聞いた事あるような」

なんだっけな、確か酒の神にも似た感じの。

「ほら~、」

「はあー?」

グールにも考えさせようと楊枝を向けるが、蜜柑を抓んでそっぽを向きやがった。

「…グールaが居ないと態度悪いよね」

なんかムカツクな。Kだって強いんだからね。

「喧し。こんなようけ餌が居てんのに喰われへんとか…」

あー、成程。それでさっきからご機嫌斜めか。大量のご馳走を目の前にお預け喰らってるんだもんね。どうにも忘れがちだけど、グールは人喰なんだ。なんかあんましだけど…

「人って不味そうだけどなぁ。どうなの」

硬そうだし、栄養無さそうだし。雑食動物だから、臭みがあるのではなかろうか。味が良さそうにも思えない。

「そこらの動物とそんなに変わらんで。そりゃファングやらとは違うけどな。ただ喰うトコ少ないくらい違う」

ファングってあの、シール襲ってた大ウサギだ。食べられたんだ? しかも美味しいらしい言い振り。

「へぇ、じゃあなんで人狙って狩るんだい? ファング狩ったほうが有用じゃん?」

「まぁ、味で見りゃそうやけど。手間がちゃうし」

「ははぁ」

成程、わざわざ闘ったりしなくても、色仕掛けでコロっと引っ掛かる人間狙った方が労力が少ない、と。数も多いし?

「美味しいんだったらあのファング狩っときゃよかった」

「おまえ、ファングと戦った事あるん?」

漸くグールがこっちを向いた。

「あるよ? でも殺しはしなかったから」

「勿体な」

「知らなかったんだもん。次は狩ろう」




お断り会のつもりの公主(偽)と事後承諾会のつもりだったザグサスは、顔を合わせた瞬間互いに異なった意味合いの驚いた顔を浮かべた。

「…公主は?」

「は?」

婚約者の思いの外整った顔に見惚れていた公主(偽)も、相手から出たその一言に意識を戻した。幾ら中身が違かろうと、この身体は紛れも無くホランダラット公主のものだ。

「ああ、失礼」

彼は唐突な質問を詫びて、尚且つ不服そうに呟いた。

「昨日まではそこそこ乗り気だったようなのに、替え玉とは…」

「な、何を仰います。彼女こそホドの公主ですよザグサス様」

従者にはバレていない。突然彼女が替え玉だと言い出したザグサスを奇怪な目で見ている。

「公主?」

反論無く黙り込んで小さく震えている公主に気付く。

「ほらザグサス様、謝って」

慌ててフォローしようとする従者には目もくれず、公主のその様を見ていたザグサスは立ち上がる。

「では公主、二人で庭にでも」


「どうして泣く?」

その涙を隠す事もなく、公主はザグサスを振り返る。

「多分、嬉しくて」

「嬉しい? 替え玉がばれて?」

ザグサスには理解できない。突然公主と呼ばれ、この身体が公主であるからといって誰一人中身を疑わず、いや寧ろ、中身がなんであろうと公主の身体を持つ者が公主役をやらなくてはいけないと引き立てられ、此処で初めて、『中身』を見てくれる者がいた。それはまるで奇跡のようで。感情の整理も出来ないままに、ただ涙が流れた。




「あ、おかえりー。どうだった?」

「めっちゃ…えぇ」

うわ。公爵令嬢(仮)は、しっかり魅了かけられて帰ってきた。ハート乱舞を繰り出している。グールも呆れ顔だ。

暫らくうっとりしてたグーラーだが正気を取り戻すと同時に突然怒り出した。情緒不安定だなぁ。

「あんなええ男が他人のもんやなんて!! しかも愛されてるコイツ~! くそーっ、このまま公主役続けてやるッ!」

随分良い男だったようだ。コレは見てみねばなるまいよ。

「次、夜会? 招待してよ。ってか紹介して」



「つまんねー」

皆何笑ってんだ。ホホホ、ウフフとご婦人方の笑い声が満ちる夜会場は、退屈極まりなかった。

「出たい言うたんはお前やろ」

そうだけどさ。ココまでつまらないとは思ってなかったんだもん。Kダンスなんか出来ないし、二人でほけぇーっとしてるしかない。

仕方ないのでココに来た目的を思い出してみる。きょろきょろと首を動かすとそれっぽい人物を発見した。

「あ。アレかい、え─────っと…………………………婚約者」

不機嫌そうな美丈夫が一人、人々の中から一つ分高い頭を突き出している。

「お前、記憶って知っとる?」

「失礼な! あ───っと、う───っと…ザク…ザクス…」

「ザクサス。やったと思うで」

ち。知らないよそんなの。一回かそこら聞いただけで会ったこともない人の名前覚えてるわけないじゃん。

名前を呼ばれたのに気が付いたのか視線を感じたからか単に煩かったからなのか、ザクサスさんがこっちを見た。一瞬目を見開いたように見えたけど。

「あ、こっち来る」

人込みを掻き分けてザグサスさんが寄ってくる。視線を逸らして逃げ出したい衝動を、グールを盾にする事で抑える。

ああ、間違いじゃないみたい。Kの前で止まっちゃった。

「貴女は、失礼ですがもしや」

やっぱりKか。話し掛けられる謂れは無いよ??

「エケルット公の」

「ッ!」

なんか目の前に降って来た。

「シール!」

落ちてきたのはなんとシールだ。

「え、どうやって来たの? aさんは?」

「前話してた事が成功、って言って解るか」

青い顔で腰を押さえてKを見上げるシール。

前話してた事…えーっと、多分今シールは突如として眼前に開いた『穴』から出てきたんだろう。

「あの…」

a無しで一人で来たし、そもそもKが開いてないのに来れたってコトは、そうか、いつかaと話してた『自由転移』が成功したんだ。

「おい…」

何か目印になる物がある処とか一度行った事がある処に、自由に転移出来ないかって話。

「あー! “記憶”があるからね」

「……」

「それより腰…」

グールの冷たい視線を無視して腰痛のシールを起こそうと近付く。

「おぶっ」

「エケルット公!」

ひひひ、酷い、なんて事を。女の子の顔押して退かすなんて!

「久し振りですね………カムシャ公。久々の再開がこれで申し訳ない」

「いえいえ。どのような場でもお会いできれば光栄です」




「「…!」」

突然の落下と衝撃。地面に叩きつけられた二人は息を詰まらせてすぐには声も出せなかった。

「いっ……たぁ──っ。痛ぁ~──ッ」

aが声を取り戻し、シールも強かに打ち付けた腰を擦る。幸いにも何某かの上に落下したらしく、それが緩衝材になってくれた様なのだが、その緩衝材も凸凹していて所々痛い。

痛い腰を抑えながらもシールは顔を上げて状況を確認しようとする。

「ここは─…」

「ご、ゴミ捨て場よ? そこは…」

目の前には両手にゴミ袋を携えた見知らぬ女性が困り顔で立ち尽くしていた。



「…」

あのゴミ捨場は彼女の家のすぐ裏だったらしく、お招きに預かり腰の手当てをして貰った。

「えっと…大丈夫?」

背を丸めて御傷心のシールに手当てをしてくれた女性が心配そうに言葉をかける。

「腰は男の命…」

ばこっ!

「ぃッ」

「心配ないです。ありがとうございます」

aが社交辞令的に微笑む後ろで叩かれたシールは大きく溜息を吐いている。

あまりに落ち込んでいる様なので、自分で叩いておきながら少し心配になったのかaがその肩を叩く。

「大丈夫? あんた幾つよ…」

「16」

aの腰はもう治っているが、痛みに慣れていない王子様には相当きつかったらしい。

「帰ったぞー」

「はーい、お帰りなさい」

遠くで新婚夫婦のような遣り取りを聞いてaが顔を上げる。

入ってきたのは何とも可愛い顔をした青年。まだ少年と呼べるような外見で、背も高くない。随分と華奢だ。

「!」

彼は室内に客人を認めた瞬間顔色を変えた。

「おまえ、自分で狩ってきたのか?」

「え? 狩る? 何の事?」

言われた女性はきょとんとするばかりで、意味を取りかねているらしい。

青年はじれったそうに客人を指した。

「そこの男だよ! おまえ狩り嫌ってたじゃないか」

「えっと──…」

話についていけないaが横から小さく声をかけるが

「しかも二匹も!」

二人?

その言葉に遠慮を失くした。

「せっかく狩り能力があるのに… !?」

まだ話の途中の彼の頭を鷲掴む。

「二匹ってのはアタシとアレでかい? お嬢ちゃん?」

ギリギリと締め付ける。

「ぎゃぁーッ、いたたたたたたたたっ、痛い!こら放せッ!」

突き飛ばすように解放してやる。

「気にしてる事を軽々言いやがって!」

お互い様だ。aが男に見えるのなら、彼は女に見える。

しかし、狩り云々の話からして彼はきっとツェク・マーナなのだろう。その言葉遣いに違和感を覚える。

「…あれ? そう言えば二人とも標準語じゃん。人喰いは西言葉なんじゃ…?」

「…俺は…」

俯いてそれだけ呟くと、彼は話を摩り替えられかけている事に気が付いた。

「それよりおまえらだ! 何なんだ?」

言い争っている内に出されていたお茶を悠々と啜っているシールとaを指してまた怒鳴る。

「その人達、ゴミ捨て場に落ちてきたの。で、腰を痛めたみたいだったから…」

「落ちてきた? 落馬でもしたのか?」

「ら、落馬?」

「まあそうだな」

飛竜からの落下も落馬扱いらしく、馴染みない表現にaが怯む。

「馬持ちか…」

馬とはやはり竜も指す。

野生馬を飼い馴らすのは大変難しく、業者から購入するのが普通だ。かなりの高額となるので、結果、馬持ちと言うと高身分の者か悪徳商人などの金持ちを指すようになった。

「で、ここは何処だ。テラメルコへ行きたいんだが」

考え込むように黙り込んだ青年に構わずシールが尋ねる。

「ああ、此処がテラメルコだ。よかったな」

意外にもあっさり答える青年。

「此処が? どの辺りだ?」

「リンカ」

「リンカか。ソーまで遠くはないな」

解らない単語の羅列に置いてけぼりのaが口を開く。

「ソー? 首都?」

「首都はホランダラット」

「え゛ーっ。やっべ~、あたしグールに首都にあるって言っちゃったよ…」

ターミナルは首都にあるものだとばかり思い込んでいた。そういえばネツァクではとても辺鄙な場所にあったっけと思い出しても、後の祭だ。

「大丈夫だろ。ターミナルの位置くらい常識…」

「グール世情に疎いじゃんっ」

「…確かに」

ちょっと、いや、かなり心配だ。早々に連絡を取らないととaは思った。




a達のそんな会話の後ろで女性の視線はシールの髪留に奪われていた。


幾重に羽ばたく翼。その鳥を模した紋章。

「どうした?」

「えっ、ぁ…いいえ」

青年の声で意識が戻る。

彼はシャーィ。この家の主で、この『身体の』幼馴染。

今日の朝突然意識が途絶えて、気が付いた時には私は違う身体になっていた。居た場所も格好も何もかも違う。

これが何処かで習った『神の悪戯』という現象か、なんてどこか冷静に考えながら、決して取り乱す事はなかった。

寧ろ、夢の様に待ち望んだ機会。

身分も柵もない、私を知っている人も誰一人としていない新しい生活。隣には『私』を大切に思ってくれる『私』の幼馴染。なるべくならこのままでいたい。

だから、私は彼に「記憶を失くしてしまった」と嘘を吐いた。記憶を失くしただけの、変わらず貴方の大切な幼馴染だと思わせたかった。

「おまえさ…本当に記憶失くしちまっただけなのか?」

「え…」

それなのに、彼には解ってしまうのか。

「その…、さ。なんつーのかな」

言い辛そうに、それでも言わなきゃいけないみたいな顔で。

やめて。

その先は聞きたくない。

私はまだ、このままでいたい。


「今のおまえの中に、俺の知ってるおまえの姿が見つけられないんだ」




え、何の話。

少しシールが話している間に、彼らの中では随分と話が展開していたようだ。お客さんの前でそういう会話は控えて欲しいと望む事しきりだ。


「だめだ。気付かないぞK」

何とか連絡を取ろうとコンタクトを試みるのだが、幾ら呼んでもKが気付かないのでは意味がない。シールは小さく舌打ちして「使えん奴」と呟いた。

「しょうがない、迎えに行く?」

「めんどくせぇ。おまえ行ってきて」

行ってもどーせ戻って来んだし、と投遣りな態度で手を振るシール。それを聞いて、aは唐突に話題を変えた。

「こないだKと話しててさ、自由転移できないかなって」

嫌な予感がシールに過る。

「はぁ?」

「ちょっとややこしいから説明省くけど、『中』から好きな場所にゲートを開けられたらいいんだって話で、『中』に人が入ってられるのかって処から実証したいんだよね」

ヴぉん、と低く振動する空間にシールが多少焦りを見せる。

「…おい……おまえ……」

次に何が来るかを予測して、完全に腰が引けている。

「アタシが行くともしもの時どうしようもないからさ」

その笑顔と共に、恐るべき闇が打ち寄せる。

「…ッ」

プライドに賭けて、悲鳴を上げる事はなかった。



ぐるぐるぐるぐる。

コルードや荷物の山が流れていく。偶に何か判らない…解りたくもない…物体も流れている。

「…」

ぐるぐるぐるぐる。

上の方にぽっかり開いた穴からa…恐らくaが、覗き込んでいる。

「何か解るー?」

「…おまえがウニに見える」

「えー」

「音が一定しない」

耳元で聞こえたかと思ったら、次の瞬間には聞き取れない程遠くに感じたりする。それは聴覚だけではなくて。

「遠近法も通じん。早く出せ気持ちが悪い」

それでもaにはまだシールを解放する気は更々無いらしく、質問を続ける。

「外の様子は? 感覚とか視覚とか」

「…何も」

もう本当に気持ちが悪い。酔うとかそんなレベルの話じゃない。

「念じてみるとか何とかして見つけて。Kの居場所」

「このウニめ」

─マジでおまえが入ってみろ、くそ。

悪態を吐きながらも言われた通り念じて居場所を探ってみる。

─あーちくしょう気持ち悪ぃ。

 そもそもあのバカが時越え失敗なんぞするからこんな事に。何処行ったんだあいつら!!

「───見つけた」

「よし、じゃあ開くよ」



─多分こう、二重に内側から開く感じ…

aは目を瞑って集中する。取り敢えず、シールの存在が懸かっている。

………




「…え? シールの知り合い?」

シールは無感動な表情で彼と挨拶をしてから、Kに紹介してくれた。

「あぁ。彼はザクサス・カムシャ・スメシア。ゼクトゥーズ現王母の──甥だ」

後ろでお行儀良く頭を垂れて見せるカムシャ公。今の話から行くと頭下げられるような身分じゃないんだけど。

シールは今度は彼の方を向いてKを紹介してくれる。

「こっちは新任のカルキストです」

「ああやはり。知っています、有名ですよ。しかし、二人だったのでは?」

「ああそうだ、aさんは?」

言われて漸く思い出して、穴に顔だけ突っ込んでaと会話する。

「よう、aさん。荷物届いたよ」

「K。そうか、成功だな」

「うん。で、aさんは来ないの?」

「悪い、今ちょっと立て込んでて…後で呼ぶから」

「そう、解った。気を付けとく」

穴を閉じて、振り返る。

シールとグールにaは後から来る旨を伝えた。

「なんや、来ぉへんのか」

見るからにやる気の失せた顔をされても。残念でしたね。

「凄いな、今のは何ですか」

「へっ? つ、通信です…?」

興奮した様子のカムシャ公に詰め寄られる。

でけぇな、くそぅ。態度も相まってちょっと恐いんだけど。カムシャ公180cmくらいあるでしょ。K140cmしかないんだからね!

「いや失礼しました。実は私はカルキストに大変興味がありまして」

実に爽やかに手を広げてみせるカムシャ公。やっぱりコワイ。

「ミーハーなのね」

…忘れてた。地の底から響くようなこの声の主を…。

現れた人物を見てシールの眉が怪訝さを示した。かすかな変化だったが、乏しい表情筋でよくやった方だ。

「グーラー」

お怒りの公主(偽)に目を移す。

「一応私、婚約者なんですけど」

そうだそうだ。婚約者放っておいてカルキストに感けるとは何事ですか。

「私はクィーリと婚約したんだ。…貴女と婚約した覚えは無い」

うわぁ、手厳しい! コレ泣くし! Kだったら。

っていうか、あれ? てことは、バレたの?? 意外に凄いね、カムシャ公。

「───ッ、!!」

あーあ。グーラー走り去ってっちゃった。まあ今のじゃ仕方ないよね。

「──で。何考えてんの、シール?」

「あ? いや。べつに」

「そう? あ、今の彼女はここの公主役だよ」

別にという割には怪訝そうだったので、公主見てからこんな様子だったのを思い出して紹介してみる。本人居ない処でなんだけど。

「役」

「うん」

K的にはもっと混乱するかなーと思ったんだけど、意外にも怪訝さが薄らいだ気がする。グールも「それじゃ解らんやろ」って顔してたのに。

「妙なヤツだなぁ。どうかしたの」

「なにがだ?」

全くそんな事を言われる筋合いは無いという顔のシール。

「役ってどういう意味? とか訊こうよ、ここは」

「大体見当はついた」

「エケルット公」

いつの間にか場を離れていたカムシャ公が帰ってきた。

ちょっと…話途中だったのに…まあいいけど。

「エケルット公、やはり彼女達がマスカ」「カムシャ公。今それはちょっと」

「え、はぁ、解りました。すみません」

「いえ」

……。

彼女達って、K達だよね。展開と視線から言って。

なんだか面白くないねぇ。

散歩行こ。



……。

なんか付いてきてた。

「──────あの」

歩みを止めて、そこまで言ってから思いっきり振り返る。

「鬱陶しいよ!!」

「お気になさらず」

するよ。こんだけストレートに言ってやったのに顔色一つ変えずにお気になさらずってどういうこと!

正面からカムシャ公に向かい正式に文句をいう姿勢をとる。

「付いて来ないでよね。カルキストが珍しいならaさんにでも…わあぁっもう!」

「へ?」

人が! 丁度タイミングも良くKとカムシャ公の間に突然人が現れた。

あんまりにもビックリしたので思わず苛付いたが、現れた人物を確認して幾分落ち着きを取り戻す。

「え、あれ? aさん? あぁ、あーびっくりした。どうしたの。何で来た?」

確か後で呼ぶって言ってた筈だ。自由転移が完成したからK用無しなのかしら。くすん。

「えっと、届け物です」

aはKの正装姿をまじまじと見てからコレ、と隣に立つ「荷物」に注目を集めた。

「気持ちワル…何よ今のは…あ~ビックリした…」

? 誰??

そこに居たのは厳しそうな顔をした地味系のでも良くみれば綺麗なお姉さん…

「グーラー…」

に、似てる。

「クィーリ…?」

「…」

挙がった声に目を遣ると、カルキストの御業に感動して静かになっていた男…いや、違うようだ。もうK達なんかそっちのけで感動の瞳はaの荷物である女性に注がれてる。

「クィーリだろ?」

「───…はぁ」

それまで黙ってその瞳を受けていた女性が、諦めの溜息を吐いた。

「真っ先に会うのが…あんたか。しょうがないなぁ」

カムシャ公の顔がパッと明るくなったのがわかった。

「クィーリッ!! やっぱり!」

「わっ、ばかっ」

「「おー」」

堪らず、といった風に思いっきり彼女に抱きつくカムシャ公。細い女性はあたふたしている。お熱いコトで。

aと目が合って、双方苦笑いで逸らしあった。



邪魔が入らないように、公主の私室に皆集まっていた。

「神の悪戯、か」

「そうですね、珍しい事ですが…」

謎の単語を吐き頷きあうケテルの王族共。

全然解らないので。

「はいはい、説明してくださいよ」

言って、シールに目を遣る。

さっきまでシールにべったりだったカムシャ公は今はaのお荷物としてやって来たクィーリさんとやらにべったりで──や、もう本当に物理的にべったりで─、解放されたシールは随分ほっとしているようだ。多分。

Kも一安心だけど。

ただ心穏やかじゃない人が一人。グーラーの機嫌は大層悪い。そりゃそうだ。惚れた男がこの様では。

ちらとaに目を遣るとaは怪訝な顔でグールを見ていた。

? 特にグールに不自然な様子はない。

「神の悪戯ってのはだな、」「この世の神秘の一つですね。血筋や生まれ、暮らす土地や距離、面識、生星や加護神等に於いても全く関連の無い二人の間で精神の交換が起こる現象です。あ、性別に関しても無関係です。私達は意識しないものなのでつい忘れがちで。原因詳細は未だ解明されてはいませんが、同調説が有力です。全く同じタイミングで全く同じ感情を抱いた、等です。大体の事例では三ヶ月から三年で元に戻れるようですが、戻らなかった事例も報告されています。自然に戻るのを待つ他に今の処手はありません」

シールの台詞を奪って長々と説明してくれるカムシャ公。

「因みに魔風というのは大気中の魔力層の衝突により起こる突風に似た現象です。異なった属性の力が重なり合い摩擦を起こす事でその場に爆発的な力が生まれ弾けるのです。巻き込まれると一瞬にして遠く離れた場所に送られるそうです。一説によると力の暴発により空間に歪みが生じるためと言われます。ただしこちらは交換はしてくれませんので、今回とは関係無いようですね。似ているとは言っても彼女達の体は確かに入れ替わっていますし」

かなり悔しいが、彼の説明には知りたい事は全て含まれているようだ。長かっただけの事はある。

台詞をとられたシールは「まあそういう事だ」と感慨なく呟いた。

「うん、まあ…」

やっぱりKにはシールの説明くらいで丁度いいかな、と。

「つまり、ここの公主サマとグーラーが中身入れ替わっちゃったって事だよね。その、神の悪戯とやらで。で、顔も似てたと」

「そういう事ね。それより、一応色々聞いておきたいんだけどいいかしら」

言って本物の公主サマがグーラーを見る。

わ、グーラーったら公主サマをガン見!!

「貴女がウェステラ?」

「…」

沈黙の後、頷くグーラー。

「そう。お互い大変な目に遭ったわね。これからの事だけど…」

公主サマ(真)は暫し目を閉じて、ゆっくりと開いた。

「このまま公主を続ける気は無いかしら」

「…え?」

らら。

横でaは少し切ない顔で俯いている。何があった?

「私、貴女になりたいわ」

すげーこのお姫さま! 厚かましいっていうか我侭を言い切るなぁ!

「クィーリ!? 何を言うんだ、君の代わりなんか誰にもできるわけ無いだろう!」

「あんたはうるさい」

「クィーリ!」

横から慌てたカムシャ公を叩きのめす公主サマ(真)。強い。

「あんた、何考えとるん?」

「私ね、シャーィの事本気なの。見たところ貴女シャーィに気は無いんでしょう? ならこのまま、交換生活を続けても支障は無いんじゃないかしら?」

眉を顰めて黙り込むグーラー。

「…aさん」

「何」

小声で隣に呼びかける。

「どうなってんの?」

「…込み入ってるのよ」

ウンザリと肩を竦めるa。そこを聞きたいって言ってんのに。

「クィーリっ。シャーィって誰!!?」

取り乱した男が一人。最早涙目かという態で公主サマ(真)に縋り付く。

「だから、あんたはうるさいっ」

蹴飛ばされた。やっぱ強ぇ、この姫さん。

それでも今度は食い下がるカムシャ公。

「だって、だってクィーリ!」

「だってもなにもない、私は恋を知ってしまった。もうあんたとは一緒になれない。それに、ウザいのよ、あんた」

言った! 初対面の人…しかも他国の王子目の前にして! 王子の親戚を此処まで貶すとは。…って、この公主サマ知らないのかも。シールは素知らぬ顔で座っている。聞いてないかも知れないくらい関心無さそうだ。

「クィ~リ~…」

「それでウェステラさん、どうなのかしら」

「…」

泣き付くカムシャ公を完全無視してグーラーに向き直る公主サマ(真)。

「こないに想ってくれとる男が居って、良い生活しといて、あんた何が気に入らんの」

「違うわ。公主の生活に嫌気が差していたのも確かだけど、私はそれが嫌だと言っているんじゃないの。シャーィと一緒に居たいと言っているのよ」

あ、何か言う前にまたカムシャ公蹴られた。

凄い形相で公主サマ(真)を睨み付けるグーラー。

ところでさっきから静かだけど…あぁ、グールとシールは二人で仲良く蜜柑剥いてるね。完全に興味無しか。

で、睨まれた公主サマ(真)は不敵に微笑い返す。

「私だって、貴女が羨ましいわ。私じゃ得られない彼の愛を受けながら、それに応えない貴女が憎い」

「…」

Kは触れたaの袖を引っ張って耳を寄せた。

「だから、どうなってんのよ?」

「あのねぇ~…。後で話すよ。あたしだってよく解んないし」

う~、今知りたかった。

「でもさ~、三年かそこらで元に戻っちゃうんでしょう?」

片隅で呟いたKに思いの外視線が集まる。う…続きが言い難い。

「たったそれだけの期間なんだから、いっそ楽しんじゃえばいいじゃん」

「「「……」」」

「…そやな、それもええかもな」

「な…ッ」

暫しの沈黙の後頷いた公主(偽)。

慌てるカムシャ公を尻目にグールが口を挟む。

「そ、そ。なっちまったもんは楽しんだ者勝ちやしな」

「あれ、じゃあグールもその状況楽しめてます?」

首輪に指を絡ます。

「それは別」

「て」

ぺしっと叩かれた手を振る。

グーラーは大きく溜息を吐いて首を振ると、勢い良く顔を上げた。

「よっしゃ、じゃあそれまでに落としたんでカムシャ公」

「いいわね、じゃあ私も負けないようにシャーィにアタックしましょうっと♪」

「覚悟しぃや」

と良い笑顔で脅しかかるグーラーとKの知らない男を落とす為の算段を立てて微笑む公主サマに目を遣ってから、aと目を合わせる。

「女の子って、逞しいねぇ」

「だな。気の毒にね、彼らも」

あたふたとしている、当初の威厳を欠片も残さず失ったカムシャ公に同情しつつ、なんかまぁ解決かなとKは肩を落とした。


それからターミナル参拝ついでに公主サマ(真)をシャーィとやらの元へ送り届け、aとシールが彼に詳細を説明しにいった。


「ね、グール」

「なんや」

「ターミナルやっぱ場所違ったね」

「せやったな」

シャーィの家を横目に、二人の帰りをグールと共に門外で待つ。

「何かツェク・マーナいっぱい出てきたけど…地味だよね」

確かに良く見れば美人だけど、ふたりとも地味だった。グールが特別にキレイ顔なのかとも思ったけど…

「あれは女やし。他ではどうか知らへんけど、俺らは男だけしか狩りせぇへんから」

ええと。多分、こういう事。

女の人は狩りをしないから、人目を引くような外見をする必要はない、と。そうして地味になったのか。


「あれ、公主サマ? Kたちにまだ何か?」

「ごめんなさいね、たいしたお構いも出来ないで…」

シャーィが嫌がるからと家に上げて貰えないKとグールに気を使ってくれたらしい。

「全然大丈夫。そういや、クィーリさん知ってた? シールってさ…」

「ええ、ケテル王家の関係者ね。随分上の方なんでしょう?」

「あ、うん。彼はゼクトゥーズのオージサマだよ」

「え」

恐らく髪留で察したんだろうけど、詳細な身分までは判らなかったようだ。

目を見開いた彼女に悪戯に笑ってみせる。

「あの子放浪癖あるから」

「成程。だから貴女達のような特殊な護衛が付いているのね」

護衛って言うか。今回は逆にシールが案内係のような。まあいいか。

「因みに、カムシャ公と血近いらしいよ」

「…え」

「本人気にしてないみたいだったけど」

「そ、そう」

よかったわ、とも、悪い事したわ、とも言えない公主サマ。でもこっちとしてはよかった。知ってってあの暴言じゃ救われない。

「と、とにかく、そろそろ失礼するわね。御免なさい」

「あ、いえいえ。それじゃあ良い入れ替わり生活を」

入れ違いで出てきたaたちと合流して、Kたちはホランダラットの公主邸に戻った。

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