異なる世界の鬼が出る
赤鬼は青く澄んだ空を眺めていた。
この空は、亜米利加や露西亜、濠太剌利など、海を越えた地に繋がっている。
しかし、三つの街が集まり大都市を形成する世界には、繋がっていない。
されど。そこには同じ青い空が、太陽が、月が、大地の上にヒトが立つ世界があった。空の向こうの遙か遠い惑星に、それはあるのだろうか。――そこまで考えぎると頭が変になりそうなので、鬼は首を振った。
視線を水平に向ければ、広大な海原がいっぱいに広がっている。左を向けばごつごつとした黒い岩が転がる荒地、右を向けば岩肌が剥き出しになった山がそびえている。同じ目線に立つ女はどこにもいない。
「一年がこんなに長く退屈だとはな」
ここに立つのは、日本に戻って来た赤鬼・羅刹であった。
戻って来てから一年。年の瀬を迎え、あっという間に過ぎ去った年を思い出し、懐かしんでいた。
あれは仏がソシャゲを開発し、それに巻き込まれ、手のひらの上で踊り続けていたのではないか、と最近は考えてるようになっている。
「クリア報酬が刑期の短縮なら、筋がつくが」
刑期は大いに短縮、仕える多聞天からの計らいもあり、近々釈放されることになった。
餓鬼は戻れる気満々であったが、探してもいないようなので取り残されたのだろう。そもそもが転生してなので、装置を破壊しても戻れるはずがないのだが。
思い出すのは、鬼になった女・ティナのことだ。
餓鬼がいると言えど、あの世界で鬼一匹。架空の世界の住人であれば、いくらか気が楽になると言うもの。しかし、もしこの現実のどこかで繋がっているとすれば、随分と酷なことをした。
鬼の一生は長い。家族・仲間・孤児たち――それぞれが生きている内はいいが、それらが世を去った時、彼女に“孤独”と言う、追放と試練が降りかかる。
その時初めて、人であることを棄てねばならない。
あれがゲームだったと思いたくあるのは、それを考えなくて済むからであった。
「今この世界に必要なのは、短絡思考で動くあいつかもしれんな」
鬼子母神は腰が重い、と憮然と腕を組んだ。
犬頭の刑務官が、自由時間の終わりを告げにくる。
彼らは囚人が突然消えたことにパニックを起こし、羅刹が戻ってきてからと言うもの、時おり足下を確認しながら歩くようになった。
そのためか、檻に入った赤鬼を確かめるといつも、今日も無事に、と言いたげな深い息を吐く。
遠くから詰め所に戻った音がすると、羅刹は灰色の天井を眺め、深いため息を吐いた。そろそろ釈放、長く虚しい時がやってくる。
するとその時、
何かが倒れ、壊れる、けたたましい音がしたかと思うや、犬と猿が、ワンワンキーキーと騒ぎ始めた。
『な、何だ、犬と猿の……人!? お、おいっ、ここはどこだ!? 待てっ、武器を構えるな!? と言うか吠えるな、耳が痛い!』
耳を澄ませば、それを疑う覚えのある声。
いざ聞こえてみれば、非常にやかましい。
「来年は第三次ベビーブームか」
檻の前に立つ羅刹は、自分で言って自分で大きく笑った。
※【異なる世界に鬼が出る ~まずは縁切られた主人を娼館送り~】は、これにて完結となります。
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