09
到着と同時に聞こえ始める喧騒。
楽しそうな周りを見ないように彼女は俯き、目的の場所へと歩を進める。
人混みとはいえ何度も訪れているので、俯きながら歩くのも問題ない。
――と、肩が人と触れて、彼女はビクリと震えて足を止めた。
ぶつかった、というものではない。
彼女を呼び止める為に、何者かが肩に手を置いたのだった。
「捕まーえた!」
「……。」
彼女の肩には余計な力が入り、小刻みに震えている。
「おい、ハクー。お前さー、さっきのアレは酷くねぇか?…………って、おい。これ……。」
「『ぉ……。大勢の人がいる中で、余計な方に話を聞かれたくはありませんっ……。』」
浅く呼吸をし半分無理矢理に震えを止め、バクバクと激しく鳴る心臓音を誤魔化すように、彼女は強い口調で言い放つ。
俯いていたハクは靴などを見て、呼び止めた人が先程の日焼けした青年であることを声を掛けられた時に見抜いていた。
その上で、SD時計を操作し彼をグループに招待していた。
「『別にたわいもない雑談くらいなら、誰も気にしねえぞ?』」
ここは多くの人が集まるプレイヤー広場【Sparkle Space】。
そこではあちらこちらでお喋りが飛び交い、色々な話題が花を咲かせる。
そんな所ではログはすぐに流れ、会話の山に埋もれてしまう。
それにここには、ログを確認しながらお喋りを楽しむ人なんていない。
現実世界と同じように、相手の言葉を耳で聞いてそれに対して言葉を発するのみ。
会話ログという機能は、彼らにとって無価値な機能だった。
「『一瞬だとしても、ログには残りたくないです。』」
グループ会話はグループに入っていない人には、喋ってる人の声を聴くことはできない。
同じように、喋った言葉も、グループに入っていない人のログには残らない。
「『……そ、……それより、私に何の用事ですか?先程の文句でも言いに来たのですか?』」
「『…………チッ。……実はさ、グリンが居ねえんだ。用事があるって言ったきり、どっかに行っちまったらしくて……。』」
(グリン……。グリンピースさん……。)
さっきの若葉マークの青年の名だった。
「」が喋ってる言葉。『』がグループ会話。
……のつもりなんですが、滅茶苦茶ややこしいですね。