32.アンナの一生はアンナのもの
ナユタは自室でネズミの姿になり、皇后の部屋に向かった。
彼女は激しく後悔する。
ーーあの中級騎士は「人間」ではなく、「モモイロノトリ」を監視してたんだ! アンナを私と勘違いして、アンナが犠牲になったんだ!
皇后の部屋に向かう途中、メイド達が口々に先程の事件を噂する。
「リエル殿下が大切にされている鳥が狙われたんですって」
「別の鳥だったんでしょ? 良かったわねーー」
「でも、殿下はやっぱりショックを受けられたみたいよ」
ネズミに化けているリリィは、複雑な心境になるが皇后の部屋を目指して走る。
部屋の扉前の護衛騎士の足元をすり抜け、扉の下の隙間をくぐり侵入。
すると、あの監視をしていた騎士が⋯⋯いた!
アリシア皇后が一方的にその騎士を非難している。
「あなたはターゲットの小鳥一羽さえ処分できないの?」
「申し訳ございません……モモイロノトリはあまり区別する特徴がなく……」
「いいわけは聞きたくないわ ! もう下がりなさい ! 顔も見たくないっっ!」
バシンッーー!!
皇后は持っていた扇子を床に叩きつけた。
「はい! 失礼いたします!」
中級騎士は皇后の激昂に慌てて退出した。
ネズミのリリィも彼の後を追うように、部屋の扉の下から廊下に出る。 その後、リリィは自室でネズミから小鳥に戻った。
※
一時間後。
リリィの姿でリエルを窓の外の小枝から観察。
彼は塞ぎ込み考えを巡らせてるようだ。
『リリィ また皇子様見てるの?』
背後から、仲間の声がする。ハンナだ!
『ハ、ハンナ⋯⋯』
『どうしたの、何かあった?』
『アンナが⋯⋯死んじゃって⋯⋯』
『ああ、聞いたわよ。 人間に殺されちゃったんでしょ?』
リリィは、あまりにも淡々と応えるハンナに驚く。
『私と間違えられて、殺されちゃって……私のせいでっっ!』
リリィは興奮気味にピィピィと鳴く。
ハンナはきょとんとしていた。
『殺したのはリリィなの?』
『な、何故私が? 違うわよっ! 私と間違えられて殺されたのよっ! 皇子様の心を傷つけるために⋯⋯』
『ちょっと待って!』
リリィが捲し立てると、ハンナが鳴き声でリリィの訴えを遮った。
『アンナはあくまでも人間に襲われて命を絶った 。それだけよ。 あなたのせいではないわ』
『ハンナ⋯⋯』
『私たちは常に死と隣り合わせで生きている野生動物よ 。生きるか死ぬか』
『で、でも⋯⋯』
『感情にこんなに振り回されている時点で、あなたは人間になったのよ、内面も』
リリィは息をのむ。
ハンナの言う通りだ。「怒り」で頭が真っ白になるなんて。アンナの亡骸を見た瞬間、全身の血が沸騰しているようだった。
『カンナのこと覚えてる? あの子もフクロウに襲われて死んだじゃない? そのときはあんたも淡々としてた。それが今はどう? 確かに原因はあんたかもしれないけど、そこまで取り乱すことはないわ 。生きるも死ぬも私たちにとっては日常なのよ』
ナユタは返す言葉がなかった。自分はもう心も人間になってしまっている。
『それに、あんたのせいでアンナが死んだとか失礼よ 。アンナはあんたのために生きたわけでもないわ 。アンナの一生はアンナのものよ』
リリィは鳴き声もあげることができない。
鳥の姿だが涙が出そうになる。
『私はあんたが鳥でも人間でも気に入ってるのよ。 もし自分が死んで、誰かがここまで傷ついてくれるのは幸せかもね 』
『……ハンナ』
『またご飯もらいに来るわ』
『しばらく皇居は危ないから、シュバルツ家でお喋りしよう』
リリィが提案した。
『了解 ! じゃあ、お互い敵には気を付けましょうね』
『ありがとう、ハンナ』
ハンナはリリィをおいて飛び立っていった。
その後、リリィは皇后と話してた中級騎士を空から偵察し、情報を集め始めた。
同僚の騎士との会話を、ひっそりと背後の木陰から聞き耳を立てる。
今夜、彼は町に飲みに行くようだ。
リリィは集めた情報をまとめて、一人つぶやいた。
『パトシュナ子爵27歳。 既婚者。一歳の息子の父親か⋯⋯今夜は忙しくなるわね』
リリィは空を見上げ、ナユタになるために自室へと飛び立った。
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