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鳥囲まれた不吉第二皇子 【改稿版】  作者: 夢野少尉
第ニ章 騎士として

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31/33

30.嵐の前

 ここは、アリシア皇后の部屋。

 アリシアは、監視役の騎士から報告を受けていた。


「モモイロノトリ二羽が園庭でナユタ卿とたわむれていました」

「そう。それは、リエルが可愛がっているモモイロノトリなのかしら?」

「詳しくはわかりません。ただ、ナユタ卿になついてたので、たぶんどちらかが第二皇子のかわいがっている鳥でしょう」


 ーーあのモモイロノトリはすでに7年ラエルに可愛がられている。あの子の現在の最大の弱点だろう。


 アリシア皇后はそう考えた。


 幼い頃から給仕していた侍女アリサに裏切られても、リエルがあまりダメージを受けていないのは、あの忌々しい鳥の存在だと。




「皇后陛下、へヴァン殿下が来られました」


 部屋の扉越しに聞こえるメイドの声。


「通して。待っていたのよ」


 へヴァン皇子がお茶を配膳するメイドを引き連れて、部屋に入ってきた。


「母上 、誕生日パーティーの打ち合わせで参りました。お茶も用意しました」

「気が利くわね 。当日のスケジュールの草案なんだけど……」


 へヴァンは、アリシアの側に突っ立っている中流騎士に視線を向けた。

 先程、ナユタの様子を報告していた騎士だ。


「母上、彼と何か話をされてましたか?」

「退屈だったから、世間話に付き合ってもらっていただけよ」

「そうですか……」


 へヴァンは彼を疑惑の眼差しで凝視する。


「もういいわ、下がりなさい」


 皇后はバツが悪くなり、騎士に退出するよう命令した。


「⋯⋯羽が付いてますよ」


 下がろうとした騎士に声をかけるへヴァン。

 彼の背中に張り付いているピンクの羽が一つ。


「これは……モモイロノトリかな? 最近、よく皇居内でよく飛んでますね、愛らしい鳥です」


 へヴァン皇子は、騎士に怪しく微笑みかける。


「は、はい⋯⋯そうですね」

「僕の好きな鳥です」

「ほら、へヴァン、そちらに座って。お茶をいただきながら、パーティーの草案の話をしましょう」


 皇后が騎士に助け船を出し、会話を途切れさせた。


 ※


「これで、大体パーティー当日のスケジュールは把握できた? 細かい部分は執事やメイド長と協議を重ねるわ」

「ありがとうございます」

「ところで」


 皇后アリシアは間をおいて口を開く。


「シュバルツ家の令嬢のことはどう思っているの?」


 へヴァンは想定外の問いに顔をゆがめた。


「なんですか? 母上まで……根も葉もない噂話に振り回されてはいけませんよ」

「本当に……根も葉もないのね?」

「当たり前じゃないですか」

「それを聞いて安心したわ。私は彼女との婚姻は反対です」


 皇后はきっぱりと言いきった。


「なぜですか? 出自が孤児院だからですか?」

「まあ、そうね」


 へヴァンは、アリシア皇后自身の膝におかれた握りこぶしが震えていることに気づく。

 同時に、彼女の肩に黒い煙のような気流を確認。


「シュバルツ家の令嬢だから反対なさっているのではないのですか? 『エストリニア神の平定』(※1)を実現させないために」

「な、何を言って……っ! 何より彼女は養女だから、皇太子妃になっても神の平定は得られないわ!」

「母上は例外があるのをご存じですか? シュバルツ家以外(・・)の女性に神託が降りて、家門の証しである紋章がその体に現れるという逸話を」

「……へヴァンっっ!」


 皇后アリシアは肩で息をするほど呼吸が荒くなっていた。


「はぁ⋯⋯、そんな迷信は信じては⋯⋯なりません 。今まで建国以来、だ、誰一人⋯⋯はぁ、そのような者は出現しなかった⋯⋯はぁ」

「……そうですね 、失礼しました」


 へヴァンは、皇后の体調が明らかに変化したことに驚き、なだめるように返答した。


「あ、あなたがこうた⋯⋯皇太子になり⋯⋯五大貴族直系の令嬢と……こんい、婚姻する。それが母の、願いです⋯⋯はぁ、はぁ⋯⋯」

「はい、わかりました」


 そう答えると、アリシアの黒い影が薄くなり、彼女の息も整い始めた。

 彼女はそのままへヴァンに抱きかかえられ、深い眠りに落ちていった。



 ※ ※ ※


「皇帝陛下、へヴァン殿下がお見えになりました」

「通しなさい」


 へヴァンは皇后と話終えた後、その足でテオ皇帝の執務室を訪れる。


「皇帝陛下に御挨拶申し上げます」

「どうした? 皇后かリエルに何かあったのか?」

「ええ……母上のことでご報告が」

「わかった 聞こう」


 陛下は小さなため息をつき、二人はソファに座り密談に入った。



◆ ◆ ◆


※1 「エストリニア神の平定」

 シュバルツ侯爵家令嬢が皇后となれば、平安な時代が訪れるという逸話のこと。

最後までお読みいただきありがとうございます


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