27.ナユタがリリィと対面?
「リエル第二皇子殿下に御挨拶申し上げます」
「あ、ああ……帰ったか」
今日でナユタの休暇は終了。
皇子に帰城の報告のため、彼の執務室に立ちよった。
ふと、ナユタはリエルの頬が赤みを帯びていることに気づく。
「殿下……少し熱がありますか?」
「え? な、なんで?」
「ちょっと失礼しますね」
リエルの額に手を当てるナユタ。
とたんに、彼はナユタから離れた。
「な、何を……」
リエルはますます赤くなる。
「う~ん……熱はないみたいですね。 でも気を付けてくださいね。 寒くなってきましたし」
「……わ、わかった」
とにかくナユタの顔が近い。
リエルは思わず目線を外す。
彼は彼女にソファに座るよう手で合図した。
「⋯⋯兄上の誕生日パーティーに参席するそうだね」
「はい、お声がかかりましたので。 父と兄と一緒に臨席します 」
「……ダンスは? 練習してるの?」
「たぶん踊らないと思います。 デビュタント前ですし、 兄からも指示を受けました」
「キリアンが?」
「最近、妹への執着がすごいんですよ。 困った兄です」
「……気に入らないな」
「何がですか?」
リエルは無意識にその言葉が口から出てしまった。
なんでもない、と慌ててその場を切り抜ける。
「ところで、明日早目にお昼休み取ってよろしいですか? 30分ほどですが」
ナユタはリエルにたずねる。
「別にかまわないけど、理由を聞いてもいい?」
「へヴァン第一皇子に謁見をお願いしてきます」
リエルは紅茶のカップを落としそうになって、ガチャッと音を立てた。
「大丈夫ですか?」
「何しに行くの?」
ナユタは、あんな根も葉もない噂自体をリエルに聞かせたくはなかった。婚約者候補に上がっている、なんてーー。
「解決したらお話ししますね。 大したことではありません。」
「僕には言えないの?」
切なそうな表情に変わるリエル。
ナユタは、そんなリエルを目にしては、理由を話さざるを得ない。
「へヴァン皇子と私が、おそれ多くも婚約するという噂があるらしいのです」
ナユタはリエルの愛らしさに負けて、白状してしまった。
リエル皇子は目を見開く。
「どこでそれを?」
今度は逆にナユタが驚いた。
「ご存知だったのですか?」
「あ、いや、少し耳にした程度だ」
(……殿下にだけは聞かせたくなかったのにな)
ナユタは内心悔しかった。リエルは続けて話す。
「ただ、へヴァン兄様は急な予定の変更は難しい人だ。 会えるかどうかわからないよ」
「その場合、いつ謁見可能か尋ねてきます」
ナユタは、へヴァン皇子にも強気な姿勢は崩さない。
「いや……ナユタはすごいね、 羨ましいよ」
「つまらない噂が広がるのが気に食わないだけです」
リエルは呆れながら笑った。
「わかった、わかった。 反対しても兄上の元に乗り込むだろうから、明日行ってきたらいいよ 。 キリアンも業務中だろうし」
「ありがとうございます。 ところで……へヴァン殿下はどのような方なのですか? あまり言葉を交わしたことがなくて」
リエルは少し言葉につまった。
「兄上とは、年に数回食事を取るぐらいで……というか皇帝陛下、皇后陛下、兄上はよく交流されてるみたいなんだけど……僕はあまり会えなくて」
リエルは自分自身の発言に驚き、そこで言葉を濁した。
「あ、ごめん。 僕以外の皇族は、国政や外交に忙しくされてるんだ。僕も早く両陛下や兄様の役に立てれるように精進しないとね」
(皇子殿下……)
ナユタは胸が苦しくなって、リエルの肩に手を伸ばして、抱き締める仕草をした。リエル皇子は彼女のその行動に驚いて身構えた。
「……も、申し訳ございません! 失礼しましたっ」
ナユタはあわてて両手を引っ込める。
「い、いや、大丈夫だ」
(バカバカバカ !! リリィの癖で皇子にベタベタ触ってるから、無意識に……人間の姿で気安く殿下に触るなんて! )
ナユタが反省しながら、紅茶を飲んでいる間、リエルは不思議な感覚に襲われた。
(なんだろう……リリィが羽で撫でてくれてるような……癒されている感覚に似ている)
「殿下?」
ナユタが呼び掛ける。
「あぁ、ナユタは鳥の種類で『モモイロノトリ』って知ってるだろ?」
「は、はいっ? も、もちろんです! 国鳥ですから!」
「夜にだけ僕を訪ねてくるモモイロノトリがいるんだよ 。リリィって名前なんだ 。毎日、僕の睡眠を守ってくれてるんだよ。 実際、命を救われたこともある」
「……そうなんですね……初耳です」
初めて、リエルの口から直接リリィの名前を聞いた。
ナユタの姿で。
心臓の鼓動が全身を貫く。
「僕の家族だと思っている。かわいい鳥なんだよ 。ナユタにも会わせてあげたいな」
「は、はい……ぜひ」
「今となっては夜しか訪ねてこないから、なかなか難しいんだけど……どうした?」
ナユタの顔色が青白い。
震えているのが一目瞭然だった。
「大丈夫か? 今日は隣の客室で休むといい 。連れていくよ 」
「いえ……一人で大丈夫です」
「ダメだ! 一人で帰すわけにはいかない 」
リエルはナユタを抱き上げた。
「で、殿下! 降ろして下さい!」
「ダメ ! 風邪のひき始めかもしれないだろ! 大人しくしてて!」
ナユタは心臓が破裂しそうになって、次は顔が赤くなってきた。
(殿下が私を「家族」だと……)
抱きかかえられたナユタは、皇子の服をつかむ。
そのまま客室に入り、ベッドに近づいた。
しかし、リエルはなかなか彼女をベッドに降ろせずにいた。
「殿下?」
不思議そうにナユタが問いかける。
「あぁ、悪い」
慌てて彼女をベッドにおろした。
侍女を呼び、部屋着の用意と世話を命じるリエル。
念のため、医者にも診てもらう手はずも整えた。
(殿下の発言や行動が全ての原因なのに⋯⋯ごめんね、皆の仕事を増やしちゃって⋯)
ナユタは布団の中で、使用人達に謝罪したーー。
※ ※ ※
一時間後。
「あれ、ナユタは宿舎に帰ったのか?」
リエルは、空室になった客室を整えているメイドにたずねる。
「はい。もう体調も戻った、と言われ慌てて宿舎に戻られました。」
「せっかく夜にリリィを紹介しようと思ったのに……」
リエルは残念そうにつぶやいた。
※ ※ ※
やっと部屋に着いて安堵したナユタ。
(危ない危ない……リリィと対面させようとするとか想定外過ぎる。でも、夜も皇子を守らないと気が気じゃないし⋯⋯用心しないと)
ナユタは、宿舎からリリィの姿になって皇子の元に飛び立つのだった。
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