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鳥囲まれた不吉第二皇子 【改稿版】  作者: 夢野少尉
第一章 モモイロノトリの雛から人間の幼女まで

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10.人間っていつ遊ぶの?

 早朝、リリィが木の上で休んでいると、近づいてきた仲間のモモイロノトリのケンタ達。


『リリィ、お前、人間の子供に化けて生活してるんだって?』


 ケンタが呆れ顔でリリィに話しかけてきた。


『そうよ。昼は「ナユタ」という名前で8歳の女の子になってる。もうすぐ家に帰って、ずっと寝てたふりしないとね。下僕(しもべ)(メイド)が起こしに来る前に。』


 ケンタ達は口々に不思議がった。


『人間になって、何か良いことあるの? 地面を歩くしかできない奴等なのに』

『でも、「手」も便利だよ。人間同士で手をつないだり、抱き合ったりできるよ』

『そんなの空を飛べることのメリットとの比較にもならないよ』


 ケンタがリリィに問いかける。


『お前……ある人間と親しくなりたいから、人間の姿になったとかいう噂は本当か?』

『正確にはその人を守るため。何か悪い?』


 あまりにもリリィが躊躇(ちゅうちょ)なく答えるので、ケンタ含めみんな驚いていた。


『まあ、すぐにほとぼり覚めるだろう』


 なぜかケンタは吐き捨てるようにつぶやいた。


 小鳥達の情報交換は続く。


「ねえ、カンナが(わし)に食べられちゃったらしいよ!」

「えーー! 気をつけないとね」

「それより、新しい水場見つけたの! 今度行こうよ!」


 リリィをはじめ、皆あっさりとしていて、すぐ別の話題に花を咲かせた。

 弱肉強食は世の常。

 自然界では、死は日常なのである。

 仲間の死もただの注意喚起に過ぎなかった。



 ※ ※ ※


  シュバルツ公爵の養女となったナユタは、貴族のマナーの教育を受け始めた。

 食事作法、言葉つかい、一日のルーティン等々。


 ーー人間って忙しくない? 採餌(さいじ)(食事)や水浴び(入浴)……全部にルールがあって……いつ遊ぶの? 


 そして、だんだんと「勉学」という時間も設けられていった。とにかくナユタは全てに必死に食らいつく。


 ーー頑張らなきゃっ! 皇子様と会話して手をつなぐんだから! ⋯⋯いや、皇子様を守るんだから!


 本を山のように積み上げ、一心不乱に勉強するナユタ。

 家庭教師やマナー講師達が圧倒される。


「ま、まあ……吸収速度が早いことは良いこと」

 と、半ば(あき)れていた。


 国の成り立ちみたいな授業で、人間は複雑だと痛感する。「歴史」という勉強らしい。

「国」というのは人間が決めた「縄張り」だ。

 1対1ではなく、集団で「戦争」という縄張り争いが存在することも知った。

 鳥も集団で縄張り争いする種別もいるし、人間もそうなのかな?

「紙」と「ペン」を使って作成する「文字」はとても便利。

 勉学の飲み込みは早く、先生達からも褒められた。


 ーー もしかして人間の頭脳はとてつもないのでは……しかし、翼がないのは致命的だわ。



 ※ ※ ※


 ある日の午後、ナユタはキリアンと木刀で対戦試合をしていた。

 キリアンがナユタの木刀を打ち、彼女の手からそれが離れた。ナユタの負けだ。

 ナユタの顔面に木刀を突きつけるキリアン。

 見下しながら得意気に口を開く。


「まだまだ僕の足元にも及ばないな」

「三歳も年下で、剣術経験が二か月の私に勝ち誇ってる時点で、騎士失格ですよ」

「お前は口だけは達者だな」


 二人は兄妹らしく憎まれ口をたたきあう。


「私も社交界とやらで、デビューするのでしょ? 舌戦も練習しないと」

「僕は無理だ。言葉の裏表とか読めない」

「その方がいいわよ。本来、生物は本能的なものだもの」

「お前……たまに哲学語るなーー」


 ナユタはキリアンの母ナーシャそっくりに成長し続けている。

 彼は美しく強い妹の横顔を眺めた。

 視線を感じ彼の方を振り返るナユタ。

 キリアンは、場の空気をごまかすため突然走り出した。


「ちょっと走り込みしてくるっ!」

「えぇ? 急に?」


 不思議そうな表情をしているナユタをおいて、キリアンは鍛錬場外周を走リ出す。

 その様子を父レオンは、陰ながら見守っていた。


 ーー順調にナユタは貴族の生活になじんできている。ただ、一つの問題点をのぞけば。


 レオンは、ナユタとの先日の会話を思い出していた。




 ※ ※ ※


 数日前、レオンは亡き妻ナーシャ夫人の肖像画の前に、ナユタを案内した。


「私……?」


「そっくりだろう? 私の妻だ。 亡くなってしまったけど君の母親だね 」

「どうして?」

「気になることがあるのか?」

「どうして、死んだ人の絵を飾ってるの?」

「……あぁ、それが疑問なんだ。そうだね、 この場所はシュバルツ家歴代の当主や伴侶、家族の肖像画が飾られているんだよ 。 後世に先祖の姿を残すことで、故人を偲んだり、功績を称えることもあるだろう」

「亡くなった人を偲ぶ? なぜ?」

「そ、それは……」

「なんのために?」


 レオンは愛された記憶がない子供には、理解できない感情なのかもしれないと憶測を立てた。


「ナユタは、突然会えなくなったら悲しくなる人はいないかな?」


 ナユタはリエル皇子を思い浮かべたが、追求されるのも面倒なので、曖昧に答える。


「……まだわかりません」

「そう……じゃあ、それが私にとっては妻のナーシャだったんだよ。 今ここにいなくても、彼女との思い出が私を生かしてくれている」


 切なそうにナーシャ夫人の肖像画を見つめるレオン。


「肖像画はそれを手助けしてくいるかな 。ここに来ると彼女と対話しているような気分になる」


 ナユタはレオンの手を強く握った。


「でも、もういません」


 そして、素直に自分が思うことを語るナユタ。


「人間はもう死んだ人に振り回され過ぎかもしれません」


 レオンはしゃがんで、ナユタの目線に合わせた。 


「でも人を強くするのも、また思い出だったり記憶だったりするんだよ」

「……」

「君も人の気持ちを思いやれる人間になってほしい 」

「その感情がわかれば、人間になれますか?」


 レオンはなんだか妙な会話のような気がした。

 しかし、ナユタがまだ幼いせいで、使う単語を間違えてるのだろうと結論づける。


「もちろん ! 素晴らしいレディになれるよ」




 ナユタとは、こんなやり取りがあった。

 彼女が現時点で問題があるのは、この死生観のズレだけだ。

 レオンは、父として、彼女がいろんな経験を通して、愛情深い人間になるよう願っていた。


 ※ ※ ※


 一方、そのレオンとの会話のやり取りで、ナユタは思う。


 ーー 死んだ人間、鳥⋯⋯全てに「想いを馳せる」という感情が本当にわからない。


 レオンが(つがい)だったナーシャ夫人を思って、悲しそうな顔をする度。

 自分は野生動物なのだ、と思い知らされる。


 ナユタは、仲間のモモイロノトリのカンナが食べ殺された話を聞いても、何も思わなかった。


 ーーでも、リエル皇子には幸せになってほしい。

  絶対に死なせない。守り抜く。

  この感情が人間の感情に近いのかな?





 

こまでお読みいただきありがとうございます!


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