科学部へようこそ! 5
翌日の放課後
俺は真っ先に科学部の部室へ向かった
発芽してるだろうか…
何か変化は…
扉を開けると、霞が関先輩が紙コップを覗き込みながら言った
「阿部くん、来たか
ちょっと…これは興味深いぞ」
胸が跳ねた
「何か、あったんですか」
霞が関先輩は紙コップを指差した
「呪い群の“サンプルA”だけ
土が…少し、沈んでいる」
「沈んでる…?」
「普通は、こんな沈み方はしない
水分量も同じだし、土の量も同じ
なのに、Aだけ…」
部室の空気が静まり返る
水天宮さんがぼそっと言う
「これ、マジで何か起きてるんじゃね?」
俺の背筋に、冷たいものが走った
まさか…
本当に…?
それからも、科学部での実験は三日ほど続いた
種の発芽率、土壌の変化、温度、湿度、光量
霞が関先輩は徹底的に条件を揃え、記録を取り続ける
そして…数日後
「発芽率、呪いあり:92%
呪いなし:91%
誤差の範囲だな」
霞が関先輩が記録用紙を見ながら、眼鏡の奥で目を細める
「つまり…何も起きなかった…と?」
「そうだね」
俺は思わず小さく息を吐いた
呪い群と対照群の発芽率はほぼ同じ
土の沈みも、翌日には自然に戻っていた
「まあ、科学的には“呪いの効果は確認できず”って結論だね
阿部くん、これは偶然だよ」
その言葉に、胸の奥がふっと軽くなる
そうだ…偶然だ
俺のせいじゃない
呪いなんて、あるわけない
よかった…
やっぱり偶然だったんだ
青砥の弟の死は、呪いなんかじゃない
俺のせいじゃない…
「うーん、残念だなあ
もっと面白いデータが取れると思ったんだけど」
霞が関先輩は顎をさすりながら、本気で残念そうに肩を落とす
「いや、残念じゃなくて…良かったんじゃ…」
安堵と呆れた気持ちで力なく突っ込んだ
「ありがとうございました
本当に…助かりました」
「気にするな
また何かあったら相談してくれ」
胸を撫で下ろしながら、俺は化学室を後にする
青砥の弟が死んでいる事実は変わらないけど…
呪いなんかじゃなく、偶然と言う結果で…よかった
昇降口へ向かう廊下は、夕方の光が差し込んで薄暗かった
部活帰りの声も遠く、ほとんど人影はない
階段を降りようとしたその時、階段の踊り場に、紙が一枚落ちているのが目に入った
「なんだ…?」
何気なく拾い上げた瞬間、背筋に冷たいものが走る
それは、縁切寺を調べていた時に出て来たサイトで、見た覚えのある…
「お…札…?」
墨で達筆に書かれた字
紙は古びているのに、墨だけが妙に新しい
触れた指先がじんわりと熱を帯びる
なんで…こんなものが、ここに…
不気味さに思わず手を離そうとした瞬間、空気が震えた
「っな…」
耳鳴りのような低い音が響き、視界の色がすうっと薄れていく
なんだ…これ…
周囲の時間が止まったように感じた
風も、音も、光も、すべてが静止する
そして
階段の下に、男が立っていた




