科学部へようこそ! 4
霞が関先輩が静かに言う
「じゃあ阿部くん
昨日と同じように、対象の名前を書いてくれ」
「はい」
紙に書くのは
“サンプルA”
“サンプルB”
“サンプルC”
ただの記号
ただのラベル
人の名前じゃない
なのに、ペン先が紙に触れた瞬間、胸の奥がざわりと揺れた
あの日も…こんな感じだった
あの朝の湿った空気
朝方の静けさ
自分の呼吸音だけが響く部屋
そして…
”青砥がいなくなれば…”
そんな最低な願いを抱いた自分
手が少し震えた
「大丈夫か?」
男前男子が、少しだけ心配そうに声をかけてくる
「大丈夫です…」
震えを押し殺し、三枚の紙に名前を書き終えた
霞が関先輩が頷く
「よし
次は“儀式の行為”だ
当日と同じように、紙を折って、対象に“念”を向ける」
「念って…」
「科学的には“心理的集中”と言うべきかな」
水天宮さんがぼそっと言う
「呪いって言葉を科学用語に変換してるだけじゃん」
「うるさいぞ水天宮」
褐色女子が紙コップを並べながら言う
「まあまあ
阿部くん、気にしないで続けて」
俺は深呼吸をして、紙を折りたたんだ
あの日と同じように…
『おい、阿部
これ、やっといて』
『お前、暇だろ?
どうせ誰とも話さねえし』
胸の奥が重くなる
「よし、終了だ」
霞が関先輩が手を叩いた
「では、次の段階に移る
“呪いをかけた種”と“かけてない種”を同じ条件で育てて、発芽率や成長速度に差が出るかを観察する」
「本当に差が出たらどうするんすか」
水天宮さんがスマホを弄りながら言う
「その時は、科学的に説明できる要因を探すだけだよ
呪いの存在を証明するわけじゃない」
「でも、もし…」
褐色女子が言いかけて、俺の方を見る
「もし、本当に“何か”が起きたら?」
部室の空気が少しだけ重くなった
霞が関先輩は、眼鏡をクイッと上げて言う
「その時は、科学部として全力で分析する
未知の現象を前にして逃げる理由はない」
逃げる理由は…俺にはあるけど
紙コップに土を入れ、”呪いをかけた種”と“普通の種”をそれぞれ植える
霞が関先輩が黒板に書き込んだ
『呪い群:A・B・C』
『対照群:D・E・F』
「これで準備完了だ
あとは毎日観察して、記録を取る」
「地味だな…」
水天宮さんがため息をつく
「科学とは地味なものだよ」
霞が関先輩は眼鏡を上げた
「でも、もし本当に差が出たら…
それは“呪い”という概念に科学的アプローチが可能だということだ」
「ワクワクしてきた」
褐色女子が笑う
「俺は…怖いですけど」
正直に言う
霞が関先輩は、少しだけ優しい声で言った
「怖いのは当然だよ
でも、知りたいんだろう?
呪いが本当に存在するのかどうか」
「…まあ」
「じゃあ、一緒に確かめよう」
霞が関先輩は俺の肩を軽く叩く




