ニュース 1
人影が街に現れ
学校でも、SNSでも、テレビでも、人影の話題が止まらなくなった頃
学校から帰宅し、そのまま自室へ向かおうとしたけれど、ふと気になり、リビングに戻ってテレビを点ける
相変わらず、夕方のニュース番組では人影の話題で持ちきりだ
スタジオの照明が落ち、画面が「特集:相次ぐ人影騒動」のテロップに切り替わる
映像は、大学の研究室へと移る
壁一面にモニターが並び、複数の影の動画がループ再生されている
白衣を着た男性研究者が、机の前でキーボードを叩いていた
アナウンサーの声が重なる
「こちらは、東京工科学大学・画像解析研究室の中原准教授
影の映像をAIで解析している専門家です」
カメラが中原准教授の横顔を映す
落ち着いた声で、モニターを指しながら説明を始める
「影の輪郭の揺らぎを波形として抽出し、AIでパターン解析を行っています」
モニターには、影の輪郭が白い線でトレースされ、その揺れが心電図のような波形として表示されている
中原准教授は続ける
「通常の人影や物体の影とは異なる周期性が見られます
風や光源の揺れでは説明しづらい特徴があるため、現在は未知の現象として慎重に分析を進めています」
アナウンサーが補足する
「自然現象なのか、AIの誤認識なのか、あるいはまったく別の現象なのか──専門家の間でも意見が分かれています」
翌朝
グラウンドに笛の音が響く
マラソン大会に向けて、ここ最近の体育は、郊外5キロを毎回走らされている
前を走る集団の、少し後ろの位置を走っていたら
前から会話が聞こえて来た
「昨日のニュース見た?
『人影の波形を解析中です』って言ってたやつ」
「あー、見たかも」
「マジ?でもさ、人影って自然現象っぽくね?」
冬の空気は冷たいのに、クラスの会話は妙に熱かった
男子が胸を張る
「波形って言ってたし、科学的だろ」
「自然現象だって」
すぐに、眼鏡をかけた男子が噛みつく
「いやいや、波形ってAIの認識エラーの話じゃん
人影の形、バグった3Dモデルみたいだったし」
「お前、ゲーム脳すぎ」
「お前こそ科学知らなすぎ」
背が高くてガタイのいい体育教師が、前の集団に向かって怒鳴る
「お前ら喋ってないで走れー!」
「へーい」
走りながら、気になって、なんとなく服の上から腕を押さえた
昼休み
屋上のフェンスに背中を預けながら、購買で買った、具材のほぼない薄いサンドイッチをかじる
隣にいる水天宮先輩は、座りながら何処か遠くを見るように、紙パックの紅茶をストローで吸いながら言った
「影に波形だって
阿部くんはどう思う?」
サンドイッチを噛みながら、横目で水天宮先輩を見る
「波形って言われても…
俺、そういうの詳しくないんで」
水天宮先輩はストローをくわえたまま、相変わらず何処かを見つめている
「まあ、そうだよね
でも…あの人、嘘を言ってる感じじゃなかった…
もしかしたら本当に…霊的現象ではないのかも…」
霊的現象じゃない…




