5 平穏の影で
◇*◇*◇
最近になって気付いたのだが、ジュリアス王子の様子がオカシイ。
何がどうオカシイと言われても、上手く言えないのだが、オカシイと思う。
話があると呼ばれて行っても、大した話ではないとはぐらかし、違う話にすり替えた事数回。
ルーカスと目配せしつつ、話をする事数回。
気にし過ぎと云えばそれまでだが、どこかオカシイ気がしてならない。
まさかの浮気?
「ジュリアス殿下が浮気ですか? あり得ませんよ」
「ジュリアス殿下はアリディア様しか見ていません」
「むしろ、少しくらい私達を見て……あっ」
「「「失礼致しました!!」」」
王宮付きの侍女達に、それとなく探りを入れてはみたものの、返ってくるのはアリディア一筋的な話。
逆に恥ずかしくて、聞いてられないと話を聞くのをヤメてしまった。
話を聞く限り自惚れでなければ、ジュリアス王子は浮気心がないらしい。
あって欲しかった訳ではないが、浮気を疑っていたので拍子抜けである。
それからも、探りを入れてはみたものの、返ってくるのはアリディア一筋の誠実な王子だと云う話だけだった。
逆にマリッジブルーですか? と聞かれて恥ずかしくなり、以来訊かない事にした。
ジュリアス王子は相変わらず優しかったし、女性の影も最低限の関係を除けば希薄だ。
アリディアにとって些細な事だったのか、気付けば忙しい日常に忘れかけていた。
だが、そんな平穏な日々はある日突然崩れるモノ。
「ディア」
「ジュリアス殿下」
最近ではお妃教育も一通り終えたので、お茶会などと云う名目で、王妃や他家の夫人達とする様になっていた。
そのお茶会が中庭で開かれていたのだが、終盤に差し掛かった頃、ジュリアス王子が現れたのだ。
「なんですの? ジュリアス」
皆が頭を深く下げる中、王妃だけは少しだけ不機嫌そうな声を出した。
息子とて王妃の開くお茶会に、先触れもなく入って来ては不敬にあたる。
それを知らないジュリアス王子ではない筈だ。
「終わる頃かと、アリディアを迎えに来たのですが、まだでしたか。これは失礼しました」
予定通りに終わらないのが女性のお茶会だ。
閉会を狙って来たジュリアス王子も、遅れるのは百も承知で "長い" と少し揶揄して言っているに違いない。
「全く貴方は……アリディア、下がって良い」
「はい。では、皆様お先に失礼致します」
可愛い息子に寄越せと強請られば、王妃としては仕方がないと譲った。
まぁ、お茶会もほとんど雑談になっていたから、王妃もアリディアを解放したのだと思うけど。
アリディアはカーテシーをし、ジュリアス王子とその場を後にした。
「仲が本当に宜しくて」
「政略な話もありましたけど、アレは僻みも妬みも混じってましたのね」
「仲睦まじくて羨ましいわ」
アリディア達が去った後では、残った皆の羨む声が聞こえた。
結婚前の幸せな甘いひと時を見せられ、良くある不仲説を払拭させていたのであった。
◇*◇*◇
「今日は少し時間を取れるか?」
王妃様とのお茶会に迎えに来てくれたジュリアス王子が、どことなく強い口調で訊いてきた。
そんなジュリアス王子の面持ちに、アリディアは何かあるのだろうと察した。
「はい」
ちょっと、今日はなんて言えない、言わせない雰囲気さえもあったのだ。
「では、私の自室で構わないかい?」
「はい」
何かを決めた様なジュリアス王子の面持ちに、アリディアは少し緊張しつつも頷き従うのであった。
「母は厳しくないかい?」
中庭にある薔薇の庭園を横目に自室に向かうジュリアス王子が、王妃教育を頑張るアリディアを労ってくれた。
兄が言う様な懸念は、どこにも感じられない。いつも、通り優しい。
逆に、この優しさの奥に隠す何かがあるのだろうか?
兄セラフィーのせいで、1つ1つが疑わしくなってしまう。
「厳しくて当たり前ですわ」
正直、私生活まで口を挟み始めたらウンザリする処だけど、王妃はそこまでは余り口に出さない。
まだ、一緒に住んでいないおかげだろう。
王宮に住み始めたら、色々と挟みそうな雰囲気はあるけれど。
「そう言ってくれると助かるのだが、キミには無理をさせてる。いや、甘えっぱなしだ」
「そんな事はありませんよ」
ジュリアス王子がいつも以上に優しくて、アリディアはこの後の話とやらに警戒していた。
「ルーカス、お前はそこで控えていろ」
ジュリアス王子はそう護衛に言うと、自室の扉を開けてアリディアを中に促すのであった。
ルーカスや侍女は下げられ、自室にはジュリアス王子と2人きり。いつもなら、ルーカスが傍で控えているのに、それすらいない。
扉もキッチリと閉められ、余程の話があるといわんとしていた。
ソファに座れと言われた時に、チラリと見えた緊張した面持ちのジュリアス王子の表情に、アリディアは思わず目を逸らした。
何があるのだろうと、ひっそりと溜め息を吐いた。
アリディアはソファに座り、先程侍女が下がる前に淹れられた紅茶の湯気が、ユラユラと揺れているのを見ていた。
ソファが軋む音がした。
ジュリアス王子は上座ではなく、向かいに座った。それは、向き合ってちゃんと話したいという表れの様な気がして、アリディアの心臓がドクリと鳴った。
そんな緊張したアリディアの目を真っ直ぐ見て、ジュリアス王子は徐にこう言ったのだ。
「アリディア。キミとの婚約を白紙に戻して欲しい」
ーーと。




