13 奇妙な関係
◇*◇*◇
あの一件から、優しかったジュリアス王子が更に優しくなった。ルーカスも以前は、無表情が多かったのに、時折表情を見せた。
アリディアに対する接し方が、暴露発言から歴然と変化したのである。
誰かに話せた事で、枷か憑き物でも取れたのか、2人の表情はもの凄く優しいモノと変わっていた。
それは、一部の者達からしたら、不思議で仕方がない。
ジュリアス王子は、もうすぐアリディアと結婚するから蜜月なのかと、微笑ましくもなる。だが、護衛のルーカスまで、時折優しい表情や物腰でアリディアに接している。
まさか、ルーカスはアリディア様に懸想を? と不審感を抱く者も少なからずいた。
だが、ジュリアス王子が「ルーカスが私とアリディアの仲をやっと認めてくれた様だ」と笑われれば、納得せざるを得なかったし、そう思えたのであった。
ーーところで、この2人。
どちらが、"タチ(男)" で "ネコ(女)" なのだろう。
ジュリアス王子とルーカスを見てアリディアはふと思った。
そしてすぐに、ジュリアス王子の自室で、何て事を考えているのだと頭を振っていた。一瞬でも想像した自分が許せない。
こんな事なら侍女マーサが、昨日置いて行った小説を読むのではなかった。
タイムリー過ぎて、ジュリアス王子の話が全く頭に入ってこない。
「ディア、疲れているのかい?」
そんな不埒な事を考えているとは思ってもいないジュリアス王子は、アリディアが疲れているのだと勘違いしてくれた様だ。
そのジュリアス王子のアリディアを呼ぶ熱量も、どこか上がっていた。
男色を含め、全てを受け入れてくれたアリディアを更に大切に思う様になったのだ。
知らない者が聞いたら、その声色は甘く感じたに違いない。
「あ、申し訳ございません。ジュリアス殿下」
不埒で不敬な私をお許し下さい。
「構わないよ。それより相変わらずよそよそしいな。ジュリーと呼んでも構わないのに」
なんだろうか。あの一件以来、変に懐かれた様な気がする。
「ルーカス様もそうお呼びで?」
近くにいたルーカスに投げ掛ければ、珍しく目を見開き大きく咽せていた。
「ディア」
アリディアがそんな事を訊いたので、ジュリアス王子が困った様に笑っていた。
「ルーカス様限定にした方が宜しいかと?」
だって、誰にでも愛称で呼ばせていたら、恋人のルーカスは嫉妬もするだろうし。可哀想だ。
「だって、ルー」
もはや、安心しきったジュリアス王子は、周りにアリディアしかいないと分かった時には、ルーカスの事を愛称で呼ぶ事もあった。
アリディアもこの2人といる時は、時折家族に言う様に一人称が自然と"わたくし" から "私" になったりしていた。
互いに気を許す仲になったと言う証だろう。
「お戯れを」
ルーカスはキリッと表情を引き締め直した。
何処から勘繰られるか、分かったものではない。それが、弱点と付け込まれる隙になる可能性もあるのだ。ヤメて貰いたいとジュリアス王子を軽く諫める。
「そうだわ、ジュリアス殿下」
「敬称はなしだよ。ディア」
「ジュリアス様」
「何?」
「私もルーカス様の事、ルーって呼んでも宜しいでしょうか?」
思い付いたアリディアは提案してみた。
だが、なんだか気に入らないジュリアス王子は、眉を寄せた。
ルーカスは承諾も拒否も出来ず、ジュリアス王子を見た。
「何故だ?」
不機嫌そうな声色を出したジュリアス王子。
それは、恋人を愛称で呼ぼうとする事に対してなのか、アリディアがルーカスに懸想でも抱いたのかという、嫉妬なのかは分からない。
「そんな不機嫌そうな声色を出さないで下さいませ。ジュリアス様はお気付きではありませんが、時折りルーカス様の事を今の様に愛称でお呼びになりそうな時がおありですわ。ですので、言い訳というか、逃げ道を用意しておいた方が宜しいかと思っただけです」
そんなジュリアス王子に笑いながら、アリディアは諭す様に優しく言った。
そうなのだ。ジュリアス王子はアリディアに話した事で、気が抜けたのか、最近はルーカスを愛称で呼んでしまいそうな時がある。
まさか、2人が出来てるとは思わないだろうが、立場上親し過ぎると宜しくはない。
だから、アリディアがそう呼んでいたからつい……移りましたという体裁があった方が良いと思ったのだ。
毎回、愛称では呼ばないが、たまにワザと言う事でジュリアス王子が呼んでしまった時、自分のせいに出来ると伝えたのである。
「……そうかな?」
「そうですわ」
アリディアがチラッとルーカスを見れば、ルーカスも小さく頷いていた。アリディアの勘違いではないと、これで分かってもらえただろう。
「はぁ、まいったな。注意はしていたんだが、キミはそこまで考えてくれるのか」
ジュリアス王子は嘆息していた。
タダでさえ、自分達の歪な関係を許容し認めてくれたのに、そんなフォローさえもしてくれる。ジュリアス王子はますます、婚約者に頭が下がっていた。
「3人で幸せにと言いましたでしょう? ルーカス様、お嫌ならハッキリおっしゃって頂いても宜しくてよ?」
恋人以外はイヤだというなら、それは仕方がない。
「敬称を外して頂けるのであれば、私は何と呼ばれても構いません」
そう言って、ジュリアス王子にお伺いを立てる。
ルーカス的には、自分より立場や身分の高いアリディアに、敬称で呼ばれている事自体が困惑なのだ。
愛称はアリディアになら嫌な気分にはならないし、全く構わない。好きにして貰って構わないのだ。
「ルーカスが良いと言うのなら、私は断る理由がない」
アリディア以外がルーカスをルーと呼ぶのは、もの凄く抵抗がある。
たが、アリディアになら構わなかった。
「では、ルー。たまに、そう呼ばせて頂きますわね?」
「宜しくお願いします」
アリディアがそう言えば、ルーカスは丁寧に頭まで下げてみせた。
実に真面目で誠実だなと、アリディアは思った。




