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 これにより、禁裏内は様々な憶測が飛び交うようになった。

 桜はあえて黙して、一切触れようとせず、この件は棚上げされていた。

 しかし、彼女には、この何ともしがたい案件が、頭の中にいつまでも片隅に不気味に残っていた。


 水面下では、信じられない動きがあった。

 その一環として、紫辰殿の桜を訪ねて、兄皇子がやって来たのだった。


「陛下にはご尊顔を拝し奉り恐悦至極」


「・・・兄上」

 

 桜は溜息をついた。


「用件は何ですか」


 単刀直入に聞いた。


「これは、これは」


 兄皇子は驚いた表情を見せ、


「陛下の具合がよくないと聞きつけ、見舞いにやって来ただけでございます」


(なにを白々しい・・・)


「誰のおかげで具合が悪くなったと、お思いか」


「はて?」


 兄は涼しい顔をして、受け流している。


「もうよいです。お気持ちは受け取りました。下がって、結構ですよ」


 桜は兄に退出するように命じた。


(話す事などなにもない。何より兄がしっかりしていれば、弟が帝になって死ぬことも、自分がこういう立場に立たされることはなかったのだから)


「・・・はて?」


 二度、同じ言葉を言ったきり、兄はその場を動こうとしない。


「聞こえなかったのですか」


 多少、言葉にゆっくりと重みを加え、威厳のある口調で言ってみた。

 しかし、兄は意に返さない。


「・・・はて、こちらの用件が、まだ済んでおりませんが」


(いけしゃあしゃあと言うものだ・・・体の具合を心配して来たのではないのか・・・)


 桜は兄のずうずうしさに呆れると共に、感心もした。


「先の件ですが・・・」


 兄はそう切り出した。


「陛下はさぞかし、心を痛めていることと思いましてな」


「それはどうも」


 桜はそっけなく答えた。


「私も道香の奴に泣きつかれましてな」


「一条殿が?」


「左様」


(やはり用件はそれか・・・)


「私も皇家の血が流れる身。ここでひとつ粉骨砕身をと・・・」


(やはり、兄上は先が見えない。目先の判断で生きている。もはや憤りしかない)


「兄上も私に死ねと仰せか」


「いやいや、滅相もなく。我誓って、そのような事なくこの一大事に、純粋な心根からですな」


「兄上は照帝になりたいのですか」


 桜は確信をつく。


「・・・いっ、いえ・・・決して、そんな・・・」


「その覚悟はあるのでしょうな?」


「・・・・・・ああ」


「では、何故父上たちが、兄ではなく志半ばでいった弟や私に皇位を譲られたのか、お分かりでしょうか」


「・・・それは」


 兄は額に汗をかき、言葉を詰まらせている。

 桜は立ち上がった。


「その答えが万が一でも、お分かりになられたら、もう一度お話ししましょう・・・兄上が出ていかれないのなら、私が失礼しましょう」


 兄が呆然となっているのを、桜は一瞥しその場を後にした。



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