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 ただちに臣下の者達が集められて、喧々諤々の会議が行われた。

 摂政近衛内前は頭を抱えた。

 だが、苦渋の顔をして言った。


「今度の件、断るしかないでしょう」


「朕もそう思う」


 桜は頷き、断固たる姿勢をみせる。

 多くの臣下たちも同調し、次々に婚儀に反対する意見を出す。


 神である照帝が臣下である将軍家に嫁ぐなど、前代未聞もってのほかだった。

 それは、この世が将軍にあるとしてもだ。

 朝廷に仕えし者はならば、誰しもがそう思った。


 だが、


「それはなりませんぞ」


 老いた枯れ声だが、重たくその声は響く。

 声の主はかつて前摂政・関白を務めた一条道香であった。


「皆の者は、もう忘れたのか?宝暦の顛末を」


 宝暦事件・・・朝廷の者にとって、耳を塞ぎたくなる苦い事件だ。

 前天皇である桜の弟、桃園照皇の御世、竹内式部という神道者で尊帝派の元に照帝側近の公家20人が彼に弟子入りをする。

 教義の内容が過激なもので、唯一の覇者として照帝を認めるというものもであった。

その為、危険性を感じた幕府から、20人は処分され、竹内式部は重追放となる。

 朝廷の問題にはじめて幕府が関与した事であった。

 この件をきっかけに元々体の弱い桃園照帝は、気に病み若い命を散らした。

 最も、そのように導いたのは他ならぬ、当時関白であった一条道香であるとまことしやかに囁かれている。


「幕府をみくびってはなりませんぞ、陛下」


 老いたりとはいえ、朝廷にとっては揺るぎのない大黒柱、その意見を軽視する訳にはいか

ない。


「しかし、これはとうてい納得できぬ」


「道香様、陛下が降嫁なされたら照帝家は終わりですぞ」


「そうはならぬ」


 老人の瞳に怪しい光が宿る。


「陛下には我が朝廷と、幕府との揺るぎない楔となっていただき、その兄皇子様を新しき照帝になっていただく」


 近衛は怒りに震えて立ち上がる。


「馬鹿な、次の天子様は栄仁様と決まっておる!」


道香は近衛の言葉に大きく頷く。


「勿論、桜町上帝様のご意向は分かっておる。さればこそ、幼い英仁様が大きくなるまでの間、陛下に変わり兄皇子様を据え置くのではないか」


「・・・・・・」


 桜は唇をかんだ。

 数々の権勢を欲しいままにしてきた道香に対し、桜は決して快く思っていなかった。

 弟が早逝したのも、あの事件がきっかけである。

 その元凶である道香がまた謀略を練っている。

 彼女はそれを許すわけにはいかないと決意する。

 

 桜は、激しく床を叩いた。


「道香よ。そなたは朕に死ねというのだな」


 激昂する桜の勢いに驚く道香。

 

「決してそのような事は・・・陛下はその清廉なる思慮深いお心で、今一度、よくよく考えてくだされ」


「・・・・・・」


 桜は力が抜けるのを感じた。

 ここまで言っても、なお食らいつこうとするのかと。


「何卒」


 道香は額を床につけ、ひたすら平伏している。

 臣下達からは、その姿に動揺する声があがる。


(痴れ者が!)


「そなたの朝廷に対する思い、よく分かった」


 この一字一句、桜は重みを持たせゆっくりと言う。


「それでは・・・」


 面を上げる道香。


「そうだ・・・それでは朕は死ぬこととしよう」


 桜は立ち上がった。

 怒りの形相で御簾むこうの道香を睨む。


「陛下!」


「もうよい!」


 桜は逃げるように、その場から去った。


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