4
ただちに臣下の者達が集められて、喧々諤々の会議が行われた。
摂政近衛内前は頭を抱えた。
だが、苦渋の顔をして言った。
「今度の件、断るしかないでしょう」
「朕もそう思う」
桜は頷き、断固たる姿勢をみせる。
多くの臣下たちも同調し、次々に婚儀に反対する意見を出す。
神である照帝が臣下である将軍家に嫁ぐなど、前代未聞もってのほかだった。
それは、この世が将軍にあるとしてもだ。
朝廷に仕えし者はならば、誰しもがそう思った。
だが、
「それはなりませんぞ」
老いた枯れ声だが、重たくその声は響く。
声の主はかつて前摂政・関白を務めた一条道香であった。
「皆の者は、もう忘れたのか?宝暦の顛末を」
宝暦事件・・・朝廷の者にとって、耳を塞ぎたくなる苦い事件だ。
前天皇である桜の弟、桃園照皇の御世、竹内式部という神道者で尊帝派の元に照帝側近の公家20人が彼に弟子入りをする。
教義の内容が過激なもので、唯一の覇者として照帝を認めるというものもであった。
その為、危険性を感じた幕府から、20人は処分され、竹内式部は重追放となる。
朝廷の問題にはじめて幕府が関与した事であった。
この件をきっかけに元々体の弱い桃園照帝は、気に病み若い命を散らした。
最も、そのように導いたのは他ならぬ、当時関白であった一条道香であるとまことしやかに囁かれている。
「幕府をみくびってはなりませんぞ、陛下」
老いたりとはいえ、朝廷にとっては揺るぎのない大黒柱、その意見を軽視する訳にはいか
ない。
「しかし、これはとうてい納得できぬ」
「道香様、陛下が降嫁なされたら照帝家は終わりですぞ」
「そうはならぬ」
老人の瞳に怪しい光が宿る。
「陛下には我が朝廷と、幕府との揺るぎない楔となっていただき、その兄皇子様を新しき照帝になっていただく」
近衛は怒りに震えて立ち上がる。
「馬鹿な、次の天子様は栄仁様と決まっておる!」
道香は近衛の言葉に大きく頷く。
「勿論、桜町上帝様のご意向は分かっておる。さればこそ、幼い英仁様が大きくなるまでの間、陛下に変わり兄皇子様を据え置くのではないか」
「・・・・・・」
桜は唇をかんだ。
数々の権勢を欲しいままにしてきた道香に対し、桜は決して快く思っていなかった。
弟が早逝したのも、あの事件がきっかけである。
その元凶である道香がまた謀略を練っている。
彼女はそれを許すわけにはいかないと決意する。
桜は、激しく床を叩いた。
「道香よ。そなたは朕に死ねというのだな」
激昂する桜の勢いに驚く道香。
「決してそのような事は・・・陛下はその清廉なる思慮深いお心で、今一度、よくよく考えてくだされ」
「・・・・・・」
桜は力が抜けるのを感じた。
ここまで言っても、なお食らいつこうとするのかと。
「何卒」
道香は額を床につけ、ひたすら平伏している。
臣下達からは、その姿に動揺する声があがる。
(痴れ者が!)
「そなたの朝廷に対する思い、よく分かった」
この一字一句、桜は重みを持たせゆっくりと言う。
「それでは・・・」
面を上げる道香。
「そうだ・・・それでは朕は死ぬこととしよう」
桜は立ち上がった。
怒りの形相で御簾むこうの道香を睨む。
「陛下!」
「もうよい!」
桜は逃げるように、その場から去った。




