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なのになんで私が何故、どうして?という思いが、頭の中を駆け巡る。
帝になった瞬間から今日に至るまで、彼女の葛藤は続いている。
何に生きる意味を見出すのか、照帝として?女性として?人として?ヒトカミとして?
とにかく自分らしく生きようという思いは忘れずにいること。
そんな想いすらも、帝という権威の前では、風前の灯となる。
帝という位はモチベーションを保つのが難しい、そう桜は思った。
今日も幕府のお偉方から、帝の認可を得るべくと山のような書状が届いている。
何も考えず、印可(ハンコを押す)するだけでいいのだが、律儀な桜はいちいち目を通しながら印可を下す。
なので、理不尽な書状を見る度に具合が悪くなったり、胃がチクチクと傷んだりするのだった。
今も、簾の中で読む書状の大半がそんな類の物ばかりだった。
壱、幕府の財政危機につき、農民の年貢をあげることを裁可せし旨、何卒よろしく。
(まだ、年貢上げるのかい・・・)
弐、武士は士農工商で最上位の階級である為、今以上に特権を得る事の由、云々。
(知るか・・・どこまで増長するねん。武士)
参、将軍様腹痛、ゆえに見舞いの書状をよこすべく候。
(どんだけ、上様、上から目線)
四、幕府財政難の為、禁裏(朝廷)への援助金減、及び節約する由。
(やってますよーだ。こちとら、カツカツじゃい)
五、禁裏領地を明け渡す由。
(土地まで搾取するの?)
「ふう」
思わず、桜は溜息をついてしまった。
納得出来なくても、判は押さなければならないというこの理不尽さ、歯がゆさとあいまって、帝とは一体という疑問ばかりが頭をもたげる。
さらに、六つ目の書状に、桜は我が目を疑った。
六、将軍家高様と後桜町照帝様、御婚儀の御伺い。老中松平右京大夫輝高。
「はあ」
どういう了見だろうか。
現照帝と将軍の縁組!
桜は全身から怒りが込み上げて来る。
幕府の増長は甚だしい。
桜は思わず、書状を破り捨てた。
「・・・陛下」
普段は温厚そのものの桜が、ここまで激昂するのを見て、臣下の者達はただただ平伏するばかりだった。