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ブクマ400件突破記念感謝SS『〝せかうる〟の原作世界に紛れ込んでしまったようです/後編』

 


 どうやら『世界で一番麗しい人』、略称『せかうる』の原作の世界の夢を見ているらしい。原因は、なんとなく想像はつく。

 しかし、私も知らない原作の世界をいっそなら楽しもうと事の行く末を客観的に見ていると、スティは結構典型的なお嬢様キャラで、悪役令嬢をしていたようで、クルエラとグラムとの接点をどうにか邪魔をしたいようだった。


 ――でも、朝からそのグラムに叱られて拗ねて教室に逃げ込んできてからずっと機嫌が悪い……。


 あのスティからは、まったく想像もつかないくらいの貧乏ゆすりである。ペンを机にカンカンと鳴らしながら膝は上下に小刻みに揺れている。全く余裕のない姿が新鮮で、笑わないように我慢するだけで精一杯なのだ。


「す、スティ……?」

「なにかしら!?」

「ご、ごめんなさい……」


 なだめようと声をかけたがこの調子で、なかなか意思疎通も難しい。でも、実際悪役令嬢はこんな感じだよねとまた面白くなってしまった。


「何を笑っているの!?」

「ううん、スティ可愛いなって」

「な……!」


 さらりと褒めると、かぁっと顔を真っ赤にして目を見開いている姿にまたにんまりと笑みを向ければ、押し黙ってしまった。ほら、この世界でもうちの幼馴染は可愛い。





 その日一日中、スティについて回ったのだが、ほぼ全てがグラム関連だった。ゲームの悪役令嬢の取り巻きは大変だなぁなんて客観的に考えてしまいがち。


「スティ、今日の放課後の予定は?」

「そうね、生徒会には入れないから今日は寮へ戻るわよ……」


 一日中グラムに付きまとってはクルエラに突っかかり、そして怒られる邪魔者扱いをされるという可哀想な結果となっていた。かなり交換度が高いのだろうか、クリス様も、スティに強くは言わないが、なかなか妹相手にするにしてはぞんざいな扱いをしていた。

 流石に好きな人が、親友をこんなふうに扱っているのはいい気分がしないが、あくまでモブのため黙って見守ってきた。


 ――結構きついなぁ。


 学生寮へ戻ると、廊下でスティの取り巻きの女子たちが誰かを囲って言葉を投げかけているところだった。


「ちょっと何か言いなさいよ!」

「そうよ! 貴女、エストアール様の婚約者のグランツ様をかどわかしてどういうつもりなの!?」

「そんなつもりはありません! お優しくして下さりますが、決してそんな……!」


 泣きべそで、強めに反論するクルエラの姿を見て確信する。

 なるほど、グランツルートでは婚約者の取り巻きに絡まれて嫌がらせを受けるシーンがあるのか、とのんきに見守っていると、私の隣を歩いていたスティがすかさずスタスタと歩みを進めて取り巻きの女子の一人の肩を掴んだ。

 急に肩を掴まれて驚き肩を震わせた女子は、おそるおそる振り返るとスティの顔を確認するなり小さな声で「エストアールさま……」と呟いた。


「誰が、こんなことをしていいと言ったの?」

「それは……、ですがエストアール様も不快に思われていたではありませんか!」

「……」


 私は一歩下がってそれを見守る。

 仮に、ここで口出しをしても今の私では発言力はないだろう。反論されて黙り込んだスティは、じっと睨むようにクルエラを見下ろしていたが、ゆっくりと近寄ってクルエラの腕を掴んでニコリと笑った。


「私たち、お友達よね?」

「……え?」

「へ?」


 突拍子もない言葉に、その場にいた女子生徒たち全員は唖然とした。もちろん、私もだ。


「クルエラ様? 私達は、仲のいいお友達よね?」

「え、でも……」


 困惑気味に、返答に困っているクルエラに私も近寄り、耳打ちをする。


「ここは合わせてください」

「で、ですが……」

「お願いします」


 そう言うと、渋々ながらも頷いて無理矢理笑みを作って肯定した。


「そうなんです。本当は、身分の都合で皆さんには黙っていましたが、仲のいいお友達なんです」

「なので、私のお友達をいじめたら承知しないわよ」

「で、ですが……!」

「お黙りなさい!!」


 まだ納得がいかないのか、言葉を続ける前に阻止されて肩を震わせた、意気消沈ぎみに肩を落として部屋へと戻っていった。

 可哀想な気もするが、こんなところで問題を起こしてしまえば退学や家名に傷が付くこともあるだろう。それを考慮したに違いない。

 腕を絡ませていた状態から離れると、そのままそっけなくスティは私の手を握って部屋へと入った。


「スティ、クルエラ……さまをあんなふうに放置したらせっかく弁解したのに」

「いいのよ、あれ以上一緒にいたらグランツ様に誤解されてしまうわ」

「そうだけど……」


 気難しい人だ。

 スティは、そそくさとシャワールームへと入ってしまったため、私は気分転換に一度寮の前にある噴水に行くことにした。当然、置き手紙も残しておいて。






「はぁ……」


 噴水周りのベンチに腰をかけて一息をつくと、人の気配で立ち上がった。


「……クリス様ですか?」

「どうして分かったんだ?」


 よく知ってる空気感なんて言える訳もなく、「たまたまです」と適当に返すと、不思議そうに首をかしげて私の座っていたところの隣に腰をかけた。座れということだろうかと察して、再び腰掛けた。


「スティはどうしてる?」

「少しトラブルがありまして、それを沈められてからお風呂へ行かれましたよ」

「――どうして、そんな言葉遣いなんだ?」


 ――ん?


 しばらく、沈黙が続いた。


「クリス様、それは一体どういう……?」

「シャル、この世界の事を分かっていそうだと思って呼び出してもらおうと思ったんだが、そんな必要もなくなって良かった」


 ――あれー?


 首を傾げて、クリス様の言動を色々考えた末に一つの結論に行き着いた。


「なるほど、クリス様も紛れ込んでしまったんですね」

「さすが、把握力が良くて助かる。僕も、朝に起きたらグラムの様子が少しおかしかったんだ」



 あんまり違いがわからなかったが、一番付き合いの長いクリス様がそう言うならきっとそうなのだろう。

 それから、クリス様の話を聞いて照らし合わせた結果、私とクリス様だけがこのへんな夢の中にいたようだ。


「あの、あんまり私に話しかけなかったのは一体……?」

「……それは」


 歯切れの悪い返答に、聞くべきじゃなかったかもしれないと後から後悔が降って湧いて出てくる。しかし、聞いてしまったら最後だ。黙って返事を待っていると、少し顔を赤らめて目を逸らされた。


「前のシャルみたいに避けられたら、と……思ったら……その」


 口元を手で覆って顔を隠しながら、こちらを見てくれない彼にどこかメンタルの弱さが垣間見えて可愛いなと思ってしまったが、あえて口には出さずに、体を傾けて寄り添うと、そっと腰に手を回してくれた。

 肩に手を回ると目立ってしまうからだろう、配慮がうれしくてくすっと笑った。


「大丈夫です。私は、どこにいても変わりません」

「そう信じてる」


 そして、もし次の日になってもこの不思議な世界に留まっていたらなにか考えようという結論になり。この日は、大人しく部屋へ戻って心配していたスティのお小言を聞きながら眠りに就いた。





「あっれー?」


 次の日、目を覚ますととてつもない寒さに布団にくるまったまま、おそるおそる窓の外を覗き込むと雪が積もっていた。


「シャル、はしたないわよ」

「スティ、少し聞きたいんだけど、今は何月?」

「……? 変な子ね、十二月よ? 今夜は、聖夜祭があるんだから、早く準備しなさいね」


 これは、流石に予想外過ぎた。

 まさか日数を飛ばされるとは思わなかった私は、自分の身なりを確認して冬服をまとっている事実に若干の混乱が止まず、一度落ち着くためにくるまった布団に顔をうずめた。


 ――クリス様と、話をしないといけないかもしれない。


 慌てて布団をベッドに戻して、制服を着用して小走りで男子寮へと向かった。





 男子寮の前に偶然いた、この世界では交流のほとんどないマルシェにクリス様を呼んでもらい、私が呼んでいると聞いて慌てて降りてきてくれた彼の顔を見て少しだけ安堵する。


「驚いたな、まさか次の日に冬が来るとは思わなかった……」

「私もです。今夜は、聖夜祭らしいです。おそらくですが、グラムとクルエラが良好な関係を続けているのであれば、今夜……」

「スティは、婚約破棄される……?」


 ゲームの内容を教えた覚えはないが、どうやら話の脈略を察したのだろう。その瞳には、実の妹ではありながらこの世界では彼女の兄であって兄ではないという割り切りの気持ちが見えた。

 もし夢の中であれば、これも夢なのだから彼女を救わなくても私たちの現実世界で幸せなんだと言い聞かせるしかない。


「……私は、少し複雑です」

「そりゃあ、僕だってそうだ。でも、この世界のグラムがクルエラと結ばれるのであれば……それも仕方ないことだ」


 親友の幸せも尊重したいのだとさとると、小さく頷いた。




 聖夜祭、講堂で行われるパーティーが始まり、私はクリス様のエスコートで参加すると、案の定ほかの生徒たちからの冷たい視線を感じたが無視した。

 そして、スティはどういうわけか生徒会のあのホースにエスコートされて現れて、後から入ってきたグラムのエスコートで現れるクルエラの光景を黙って見ていると、スティはその二人の前に立ちはだかった。


 ――始まる、本当の断罪が。


 私は一日の感覚だが、ひそひそと囁かれていたスティの噂をまとめた。


 一つは、クルエラの私物を破壊した。二つ目は、クルエラに嫌味を毎日聞こえるように言い放っていた。三つ目は、グラムにクルエラの事をありもしない噂を告げ口する等……なかなか、悪役令嬢っぽいことをしていたようだ。

 私が、目を覚ました日はなんともなかったのに何かがきっかけになったのだろう。


 ――でも、乙女ゲームって実際そんな感じだよね。


 うんうんと一人で頷いて納得していると、隣でクリス様が首を傾げたためなんでもないと首を振ってスティの行動を見守った。


「グランツ様、どうしてクルエラ様をエスコートなさるのですか!? 本来ならば、婚約者である私ではありませんの!?」


 お嬢様口調のスティが珍しすぎて、私とクリス様が小さく『おぉっ』と声が同時に漏れる。


「スティ、大丈夫かな……」

「こればかりは……」


 胸が痛い気持ちだが、やってしまったからには仕方がない。スティの悲痛な叫びは、グラムにはあまり効果がなかったようで、クルエラの腰に手を回してくれた引き寄せると声を上げた。


「この場を借りて報告する! この日をもって、フリューゲルス王国王太子、グランツ・フリューゲルスと、エストアール・シュトアール伯爵令嬢との婚約を破棄することが決定した!」


 宣言するように言い放った言葉に、一気にその場がざわついた。


「でも仕方ないわよね、エストアール様のあの行動はすこし目に余りましたもの……」

「そうだな、あれはまずかっただろう」


 口々に言う生徒たちの、エストアールへの批難の言葉をあまり耳にしたくないが自然と入ってくる。その言葉が本人にも聞こえているようで、俯いて肩を震わせていた。


「スティ……」

「シャル」

「でも……!」


 耐えられず、駆け寄ろうとすると手を掴まれてしまった。今あそこで手を貸しても、彼女の名誉は悪くなるばかりだと言う事だろうか。

 婚約破棄を正式にされてしまったスティは、今やただの伯爵令嬢だ。だれも取り巻くことはないだろう。

 繰り広げられる光景を黙って見ているクルエラは、心配そうにスティを見つめていたが、グラムの手から逃れてスティの前に立つと手を差し出した。

 目に涙を貯めたスティは、ゆっくりと顔を上げるとクルエラの顔を見つめる。


「エストアール様……、私たち、お友達……ですよね?」

「……え?」


 クルエラを助けた時に、スティがクルエラにかけた言葉だった。

 断罪のあとは、ヒロインと和解をする内容だったのかと心のどこかでスッキリした気持ちで見守り、そのあとは私達のところへ来てスティはこちらで談笑をしたが、やっぱりショックは大きかったようで、話をしている間も上の空だった。




 聖夜祭も終えて、クリス様に送り届けてもらい、スティと部屋へ入ってシャワーも済ませてすぐにベッドに入った。

 一日いろいろありすぎて、すんなりと眠りについてしまったが、胸の中からこみ上げる、この夢のような状態はいつまで続くのだろうという不安感で一気に覚醒して勢いよく起き上がった。


「そうだよ! これいつまで続くの!? ――って、あれ?」


 一人で声を上げて言うが、なにか違和感に気づき、部屋を見回した。


「……戻って、る?」


 外から聴こえてくる小鳥のさえずりに、窓から覗き込むと、雪も降っておらず、部屋も私だけの部屋になっていた。


「クリス様も、起きたかな……?」


 私は、制服に着替えて学生寮を出ると、いつものようにクリス様が待っていてくれていた。


「おはようございます。クリス様」

「おはよう、シャル」

「夢、見ましたか?」

「それはもう、悪夢みたいな夢を見た」


 その返事に、『同感です』と返して笑いながら通学路についた。




 End

気づいたら本当にブクマ数450件こえておりまして……めっちゃビビり倒しました笑


本当にたくさんの方に読んでいただき、恐れ多いばかりです!

次回は500件……と言いたいのですが、イラストのお仕事やらが忙しくなってきて執筆の余裕があまりなくて、次回は600件記念と盛って宣言させていただきます。


これならしばらく大丈夫……ですよね?(困惑


それでは、ここまでお付き合いくださりありがとうございます!

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