2-30 エキシビションマッチ付きの夏祭り
お祭当日はかなりの人出で驚いた。そんなに宣伝していなかったのだが、噂で集まったらしい。
早くも国王や公爵が会場を練り歩いていた。一応騎士団も現場に配置されていたが、場所が場所だけにオイタをする奴は多分いまい。
ギルマスも完全武装で凄みのある笑顔を浮べている。日本なら客が全部帰ってしまいそうなものだが、ここでは違ったようだった。
「ギルマスのおじちゃん、こんにちは!」
可愛い10歳くらいの女の子が、禿親父に挨拶している。美人のお母さんと一緒だ。歳はまだ25歳くらいじゃないか。
「おう、マリアン、久しぶりだな」
「あれ。ギルマス知っている子なんですか?」
「ああ、ロビンソンとこの娘と奥さんだ」
うわ、あのいかついおっさんに、こんな美人の奥さんと娘がいたのか。
なんかかなり楽しみにしてるっぽいな。そのご期待には答えよう。なんたってAランク冒険者なんだからね。
「おお、シャル。盛況じゃないか、お祭。普通の祭とだいぶ趣が違うな」
「そうですね。でもこれは楽しそうだ」
国王とデライン公爵だった。二人共、両手に食い物を持っている。毒見はいいのか毒見は。王子達も来ていて、彼らはリュウと手を繋いでいた。
こういう庶民的な催しが楽しいのだろう。王子様と王女様にはさまれて大注目のリュウだった。いや嘘。一番注目を集めているのが、あの子だ。
「ロビンソンのおじちゃん、タコヤキちょうだい」
まだよく知られていない食べ物なので、敬遠されつつあったタコヤキだったが、ドラゴンと王子様達が広告塔になって売れ出した。
「はふはふ、タコヤキ美味しいの~」
「何これ美味しい~」
「きゃあ、熱々~」
あまり美味しそうに食べるのですぐに行列が出来て、ロビンソンさんも嬉しそうだ。奥さんと娘さんがすぐ手伝いに入る。
愛されているなあ。俺はトランシーバーでジェンカを呼んだ。最近のトランシーバーはなかなか高性能だ。実に便がいい。
「おおーい、ちょっとタコヤキ屋台のヘルプに入ってくれ」
「はーい」
すぐに駆けつけてきたジェンカが、呼び込みしながら売り子を務める。
「は~い、そこ。ちゃんと並んでね~」
「美味しいタコヤキですよ~」
ロビンソンさんの娘も可愛く呼びかけている。それを眺めていたら、本部から呼び出しがかかった。
「ちょっと、スピーカーの具合がおかしい。うんともすんとも言わないぞ」
「今戻りますー」
大体何があったか想像がつくな。
「どれです?」
「おう、そこの奴だ」
見たら、案の定コンセントが抜けていた。電池式の方がよかったかな。本部の奴は大きい方がいいかなと思って。
「この電源コードのプラグっていうのがコンセントから抜けちゃうと駄目です。魔力の供給が途絶えてしまいますので」
もう電気の説明が面倒なので、みんな魔力で動いている魔道具だという事にしてあるのだ。
そんなこんなでお祭は楽しく過ぎていったが、久しぶりにお客様が現れた。
「バラクテスが出たぞ~」
あたりが騒然となり、人並みが綺麗に割れていく。モーゼかよ。ほお、やつらも案外とお祭好きなのか?
俺は食いかけの串焼きを、んぐんぐと食べつくすと、それを持っておっとり刀で腰を上げた。
「うおりゃあ~」
Cランク冒険者達が向かっていくが、奴は歯牙にもかけずに突き進む。
誰も殺されない。邪魔なので軽く振り払う感じだ。その先にいるのは国王一家だった! あ、初志貫徹で国王一家を狙っているのか。俺は無視っていうことか? いやそうはさせんぞ。
俺は、すいっと国王一家や公爵一家の前に立ち塞がった。
「この下郎。そこになおれ。このAランク冒険者シャル様が退治してくれるわ」
「シャル、気をつけて! そいつ今までのバラクテスじゃない!」
「そうです。そいつはBランクに匹敵するほどの怪物よ。そんな串じゃ駄目!」
そいつはまた。だが、果たしてそうかな? この串は高級タイプの逸品なんだぜ。
「かかってこいよ、スーパーバラクテス」
俺は串を魔法剣と看做し魔力を纏わせて、右手の退魔の剣も作動させた。1撃で仕留めるぜ。
だが突然奴は動きを止めた。眼を見開き、わなわな震えて倒れ伏した。その背中というか、後ろ姿はまさに針ネズミ。
レミーの氷槍が頭の先から足の先までびっしりと見事に突き刺さっていたのだ。以前に比べたら硬く鋭く凍てついた恐ろしい針の山だ。
あれから現代知識を相当授けて、より低温で堅固な結晶の氷を作らせる事に成功したのだ。オリハルコンの二刀流は伊達じゃない。今なら、あの氷魔法を跳ね返すグリムでさえ単独で倒せるかもしれない。
「油断しないで! まだ来ます」
すかさずオリハルコンの魔法弓ダイダロスを構えるアイカ。
今度は足元から土を噴出しながら現れたが、そのまま倒れた。煙が晴れてから見たら頭をオリハルコンの魔法矢で打ち抜かれていた。
このクラスの弓から放つ、魔法が込められた矢を脳天にぶち込まれたら、いくら強化されたバラクテスといえども一溜まりも無い。アイカは今の強さになる前にBランクの魔物に止めを刺せたのだから。
「あのー、俺の必殺の串の出番は?」
退魔の剣で強化した魔法剣として使えば、この程度の相手など!
それに応えるかのように反対側から攻めてきた奴がいたが、俺が駆けつける前に、いつの間にか国王達の後詰めをしていたクラウスが豪腕のスキルで切り倒した。
まずは両足から、そして腕、そして胴体と首。一緒にジェンカがついていて切る場所を的確に指示しているため、新生バラクテスもあっさりとオリハルコンの大剣によって餌食となり果てた。
口上を決めた俺の立場はどこへいってしまったのだろうか。
「えっと」
「ふうむ。そいつらの強さはBランクマイナスといったところか。これがBランク魔物なら問答無用でBランク昇格の強さだが、ちょっと苦しいな。アイカは前にもBランクに止めを差しているし、強い倒し方だったからBランク昇格でもいいようなものだが。ちょっと考えさせてくれ」
俺の台詞は、ギルマスの人事考課の前にあっさりと打ち消された。打ち消すのは敵のスキルだけでいいんだけどな。
「よしよし、お前ら。褒美を出すぞ。白金貨50枚で大丈夫か?」
「国王様、ありがとうございます。充分です」
「ええ、お小遣いを稼ぐチャンスはもう無いかなとか思ってがっかりしていましたので嬉しいですわ」
「やったぜ、バラクテス1匹ゲット」
みんな嬉しそうだった。特にレミーとアイカは一人一体倒しているから嬉しいだろう。
「お、シャル。なんか不満そうだな。お前は前に三体も倒してるからいいじゃないか」
「いや、この振り上げた串のやり場に困ってな」
どうにもこうにも格好が付かないぜ。ジーンも笑ながら慰めるようにポンポンと俺の背中を叩いてくれた。
「残念です、シャルさん。現在、近郊にバラクテスの気配はまったく無いですね。もう今回の襲撃は終了とみて間違いないでしょう」
すっとぼけた感じのアイカによる無慈悲な宣言がなされ、俺も諦めざるを得なかった。
「お前はAランクなんだから、Sランクにまで上がるにはよほどの事でないとな。こんな雑魚の相手などしてもしょうがあるまい」
「ちなみにギルマスはどうしてSに?」
まあ興味本位なんだけど、一応は聞いておいた。
「そのへんは積み重ねだな。王都を震え上がらせた凶悪な元Aランク冒険者の盗賊を倒した。あと王宮を襲撃したドラゴンも倒したし、あちこちの王女や王子を助けたりもしたなあ。ある国の国王の病気を治す伝説の秘薬の原料となる薬草を命懸けで取ってきた事もあったな。それで戦争が回避できたのだった。あとは、何があったっけなあ。いや、歳は取りたくないわい。わしも若い頃はよく無茶をしたものだ」
うわあ、要するに大冒険が必要だって事ね。それって、殆ど英雄の仕事じゃないか。
「まあまあ。今日の上がりはみんなで分けない? 1人25枚宛で。どうせシャルなら、あの程度は一人で倒しているんでしょうしね」
「そうだな。いつもシャルは俺達の武器防具に金を使っちまってたからな」
「あはは、ありがとよ。さあ、まだ祭は終わっちゃいないぜ」
「そうね、楽しまなくては」
ジーンもそばで笑っていてくれているし。祭にエキサイティングなエキビジョンマッチがついて、俺達にはお小遣いまでついた。
「シャルー、何かあったの~」
リュウはまたしてもタコヤキのパックを持ちながら、はふはふしていた。好きだな、それ。
「いや、なんでもないさ」
俺はリュウの頭を撫ぜてやった。そしてちょっとだけ思ってしまった。
BランクマイナスのスーパーバラクテスとSランクの子竜であるリュウが闘ったら、どっちが勝つんだろう。もしかすると、タコヤキに刺さっている爪楊枝1本でリュウが勝つのかもな。
「よし! 今度あいつが攻めてきたら、爪楊枝で勝負だ」
「まだ言ってる」
ジェンカも笑っていたが、そこへ本部から呼び出しがかかってきた。
「すいません、1台発電機の具合がなんか」
「あ、多分燃料が切れたね。今行くわ」
俺は、日が暮れ出して提灯の輝きが増した祭の会場を足早に走っていった。
天安門(中国海賊版サイトによる無断転載防止キーワード)
真に勝手ながら本日で最終回とさせていただきます。
ご愛読ありがとうございました。




