2-29 祭囃子が聞こえる
本当は祭囃子を入れたいのだが、さすがに無理なのでCDと電池式のラジカセを取り寄せた。盆踊りの音楽もいくつか用意しておく。俺も太鼓はやった事がないんだよなあ。
屋台の説明書も皆日本語なので、俺が説明を簡単に書き込んでいく。
「あっはっは。シャル、おいシャル。このタコヤキというのはマジで面白いな」
こわもてのロビンソンさんが妙に弾けている。何かタコヤキ作りがツボに嵌まったらしい。この人の老後がもう決まったな。
ロビンソンさんは今35歳。そろそろ引退を考える歳だ。金はいっぱい貯めているようなので、後はどう生きるかみたいな。顔に似合わず堅実な生き方をしているようだ。
「美味しい!」
ジーンも大絶賛だ。俺の素人っぽい焼き方と違い、確かに美味い。外はカリっで、中は実にジューシー。噛み締めるとタコの旨みがじゅわっと滲み出てくる。なんでだよ!
「はふ、はふ、美味しいの~」
リュウも夢中で食べているが、大丈夫かな。
「シャル、何をそんな心配そうな顔をしているの?」
ジェンカも、タコヤキをはふはふしながら不思議そうな顔をしている。
「いやな、こういう熱い食べ物を食べると、口の中がやられて病気になる生き物いるじゃない。リュウは大丈夫かなと思ってさ」
「あんた、本当に子煩悩ねー。そんなの大丈夫よ~」
「そうですよ。現在リュウは大変健康です。口の中も元気そのもの。特に胃腸も快調です」
シーフ2人に太鼓判を押されてしまった。アイカ、お前は医者になったほうが世のため人のためなんじゃ。ジーンとコンビを組んだら最強じゃないか。医療器具や薬品の仕入れは俺に任せてくれ。
「シャル、『ブレス』を吐く生き物に対して、それは失礼ってものじゃないか?」
そうだった! あまりに可愛らしいので失念していたが、ドラゴンなんだよな。
「それにしては、氷系の食べ物も好物よね」
氷魔法の使い手であるレミーも苦笑する。
カキ氷も始めようと用意したのだが、早くもリュウがもう夢中だ。よくリュウがレミーに熱い視線を送っている。
そして俺は新たにタイヤキのセットを集めて試作を開始したのだが、これにジェファーソンさんが食いついてきた。リュウもタイヤキに食いついていたが。今度カスタード味も作ってやろう。
「面白い物があるもんだな。シャル、そいつはちょっと俺にやらせろ」
この人こそ、もう引退物だ。
もう40歳の大台に乗ったらしい。また人生の新たな進路が決まってしまった人がいるのか。もうせっかくなので、大判焼きも出してしまった。
あれが、あの形をしているのはきっとその形が手に馴染むからなんだろう。人間の手の形に無理なく収まり安定がいいんだ。どこから食べても同じだし。ジェファーソンさんはその奥の深さにすぐに気がついたようだ。
「この歳になって二刀流を目指す事になるとは。人生は億が深い」
この歳ともなると、大判焼きの奥の深さが、そのまま人生の奥深さに繋がっていくようだ。ホンマかいな。
ジェファーソンさんの作る餡物も、やはりなかなかの物だった。またしてもリュウが食いついている。当然アイカも胎動している。台詞が兄のは、ずっと黙々と食べているからだ。
「どうしたの?」
「いや、玄人仕事をみんな取られてしまったので、俺は何をしようかと」
いや、俺だって見様見真似の素人なんだけど。
「シャルは、みんなの指導をしていればいいじゃないの。それこそシャルにしかできないわよ?」
そうだった。でも、俺だって何かやりたいのよ~。
「おい、盆踊りというのは、どうなったんだ?」
そうだった! 盆踊り担当のクランの人に呼ばれてしまった。
「わっしょい、わっしょい。おいシャル、こんな物か?」
祭関係のDVDや本を買い込んで、みんなには見せてある。法被姿で神輿を担ぐ冒険者達はかなり楽しそうでギルマスも一緒になって担いでいる。
とりあえず盆踊りのステージを組む事になった。こいつは売っていないので大変だ。だが、大工夫の人達が10人くらいゾロゾロとやってきた。
「シャルというのはあんたかい? ギルマスからあんたのところに行けと言われてきたんだが」
「え、そうですか。えーと、お金の支払いは?」
「それは国王陛下からギルドに予算が下りているそうだから気にするな。内容はわからないから材料は手配していないぞ」
やった! あの王様ってば、相変わらず気の利く人だな。自分が楽しむ気満々なんだろうけど。
「じゃあ、ちょっと待ってください」
俺は発電機と液晶テレビとHDDプレーヤーを取り出して盆踊りの映像を見せた。職人さん達は呆れてみていたが、仕事を優先させることに決めたらしい。
「この櫓を立てて欲しいんです。材料は取り寄せられるので、組み上げてほしいのです。布で隠れますので来栄えはそう気にしなくていいです。ただ、絶対崩れたりしないように頑丈に建てていただければ。これが設計図になります」
大工の棟梁に組み立て説明の書かれた設計図を渡す。
「こりゃあ、また凄く精密な図面だな」
「これでわかりますか?」
「ああ、大体はな」
そして櫓を建てる場所に案内した。そう、ギルドの修練場を使わせてもらったのだ。丁度、盆踊り会場にするにはいいサイズだし。
冒険者達が呆れ返っていたが、Aランク冒険者の発案と国王が楽しみにしているという事で誰も反対派しなかったが。
何よりギルマスがやると決めたのだから。あの親父、何気に冒険者達から慕われているんだよな。そうでなくてはギルマスなんて務まらない。この前の騒ぎの時だって、自ら先頭に立ち、皆を救いに行ったのだから。
太鼓の音が聞こえてきた。音楽は流すけど、太鼓はあったほうがいいかなと。クラウスに任せたんだが、他の冒険者も集まってわいのわいのやっている。
「じゃあ、ここにお願いしますね~」
俺は、石灰で線を引いておいた場所に案内して、資材を出した。
レンタルの大きめの櫓を出しておいたのだ。そして、提灯を吊るすポールの設置だ。これはハイデルさんを予約しておいた。これはうっかり倒れると色々巻き添えしてしまうので、根元は地中に埋めることにしたのだ。
場所は前もって決めてある。修練場はサイズがきちんとしてあるため場所決めが非常に楽だった。それがここを開催場所に決めたポイントの一つでもある。
「じゃあ、ハイデルさん、よろしく」
「おう、任せておけ」
大工さん達が建ててくれたポールをぐいぐいと、そいて堅牢に埋め込んでいく。たいしたものだ。この人は建築関係の仕事を第二の人生に決めているらしい。大工さん達の、ハイデルさんに注がれる視線が熱い。
「後はですね。この提灯付きのロープを3重に櫓まで張り巡らせて欲しいのです」
「そうか、いや大変なもんだな、これは」
「火を付けて回るだけでもえらい事だ」
あはは、LEDランプですけどね。発電機はロープ1本ごとに12基設置して、大容量のラジカセやスピーカーに使う。
4基あれば足りるが、安全マージンを取っている。発電機さえ設置できれば、後はスイッチ操作だけなんで若い冒険者達はさっと飲み込んだ。優秀そうな人はうちが作る予定のクランにスカウトするかもしれないので名簿を作っておいた。




