2-20 お台所
「じゃあ、竈にしておくか。異世界では竈の飯なんて酔狂な大金持ちでないと食えなかったよ。またそういう人は自分で飯を作りたがるんだよな」
「そうなの!?」
二人共、目を見張っていた。暖炉や薪ストーブだって庶民には縁がなかった。だが、今この家には暖炉があるし、竈も作ろうとしている。考えようによっては豪勢なものだ。
「ただ、そいつは業者に頼まないと出来ないし、時間もかかる。どの道家は修理しようと思うんだ。少なくとも俺の部屋に天井は欲しい」
「あははは。そう言えば無かったよねー」
「だから、とりあえず料理したかったらガスだな。ジーンは便利なガス器具がお気に入りなんだ。ただ換気はよくしないといけないんだよな」
排水がまた問題だ。普段はそう問題になる事はない。風呂の排水がないため、一般家庭ではさほど深刻な排水はない。
残飯なんかも、この街ではダンジョン行きになるので動物のいない家では、回収業者の御世話になる。この国は法律でゴミのむやみな廃棄を禁じている。道路も清掃業者がいるので綺麗だ。収納袋がこの国の衛生を根本から支えている。
中世ヨーロッパのような非衛生的な環境ではないのだが、一般庶民は体を拭いたり水浴びで済ませたりの生活だ。
川などが身近にある分、反って農村の人間の方が綺麗好きかもしれない。少なくとも俺やジーンは臭い体臭であった事はない。
幸いな事に、4人のメンバーの中には腋臭の奴もいなかたし。いたらパーティは組まなかったかも。他の町ではこうはいかないらしいが、それでも他の国のような事はないらしい。
「じゃあ、一応この大型馬車用の収納袋は台所の排水やゴミ用にするから」
あれからギルドで入荷した収納袋を次々買い込んでおいたのだ。
俺は素敵なキッチンセットを購入した。ステンレスシンクの流し台だったが、水道は使えないので泣く泣くはずして、ワゴンに載せたウォータージャグを隣に置いた。
無くなったら、付属の収納袋から水を補充するのだ。なんかキャンプ場臭さが抜けない台所になってしまった。
ガスレンジとプロパンガスを置いてみたが、知らない奴がいじると危ないかな。こいつは最新のガスレンジだから、火が消えてしまっても簡単にはガスは漏れないはずだが。
「このシステムキッチンは、この向こう側に本来はカウンターを付けるんだよな。業者さんに作ってもらえたら、そこにウォータージャグを置こう」
「へえ、そうなの?」
「ああ、対面式のキッチンは作った料理をそこに置いたり、そこに素敵なストール、背の高い椅子を置いて御洒落に御飯を食べたりするのさ」
「いいですね」
アイカがうっとりとして言った。
「それから、こいつだ!」
俺は氷式の冷蔵庫を買い物して設置した。
「こいつの管理は氷魔法の専門家に任せるぜ。氷で食い物や飲み物を冷やしておく道具さ」
「シャルだって氷の魔法剣を使うじゃないの」
「俺は色々見ないといけないんだよ」
「まあ仕方がないかしらね」
不承不承、レミーが承知してくれた。
「あら、ちょっと素敵な台所ね」
ジーンがリュウを連れて見に来た。やはり台所が気になるらしい。
「ああ、キッチンの裏側が丸見えだけどね。ここも板張りにしてもらう予定だよ」
「そうかあ。どれどれ」
ジーンがチェックし始めたので、リュウもちょろちょろしている。俺は子供が登るような台を出してやり、リュウを乗せてやる。
「本当なら、これに水道をつけて水を出すようにするんだけどな」
俺はそういって取っ払った水道の蛇口を見せた。
「ねえ、シャル。これは鉄の流し? 錆びたりはしないの?」
大体、この王都では石で作った物が多い。村だと木製の物も多かった。
「これはステンレスといって、錆びないからこうして流し台に使われている。もっとも手入れが悪いと錆びていくけど。鉄みたいに真っ赤な錆びは出ないよ。なんていうのかな、あちこち黒錆びみたいな感じになるのさ」
クラウスも錆びない鉄と聞いて寄ってくる。
「剣なんかも錆びないのか?」
「どうだろうな。傷ついたりすれば錆びるんじゃないか? ある程度は再生するんだが。普通の鉄みたいにすぐ錆びてボロボロになったりしないけど。性格には、これは鉄じゃなくて鉄を主体とした合金だからね。ここで作るのは無理じゃないかな。あと他の金属と触れていると錆びるぜ」
リュウがあれこれいじっていたが、包丁のある場所を触っていたので抱き上げた。
「リュウ、包丁は危ないからいじっちゃ駄目」
「えー、これで御飯作るんでしょう? リュウもお手伝いする~」
「まだリュウに包丁は無理だよ。他のお手伝いをしてちょうだい」
ドラゴンの子供が台所のお手伝いかあ。この世界でも滅多にない事なんだろうな。
「みんな、このガスコンロなんだが、ガスが漏れるとハリウネが腐ったような匂いがするから覚えておいてくれ」
ハリウネっていうのは、要はタマネギの事だ。
「なんでだよ」
「漏れたら、すぐわかるように異臭がするようになっているのさ」
「そうなのか」
クラウスは、よくわからないような顔をして頭をポリポリかいている。一回ガス爆発を見せてやるとわかるんだろうがな。魔物相手に使ってみるか。
ここで使っているガスボンベは、ネットでレンタルしているサイトから仕入れたものだ。現物を召喚してしまうのでなければ、レンタルでも大丈夫だ。
レンタルでも今の俺なら現物を召喚できるかもしれないが、向こうには返せないからな。俺のスキルはネットを通じて現物がある場所を特定し、そこからデータをダウンロードするのがメインだ。逆に商品が表示されていても在庫が無い場合は手に入れられないのだが。
「お次は素敵なテーブルだ。どうだい? ジーン」
滑らかに加工された大きな一枚板。日本で買えば40~50万はするだろう。それに素敵な椅子のセットを。
8脚あれば、ここの人数には足りる。あとお客さん用に2脚買って、リュウのためにお店で使えるような背の高い子供椅子を買った。さっそくリュウがよじ登って座り心地を試している。
「いいわね。なかなか御洒落だわ」
「そうですねー。まるで、どこかの大金持ちが使う物みたいです」
うっとりしてテーブルを撫でているアイカ。いい線いっているな、このテーブルと椅子だけで金貨10枚以上するんだ。日本の大企業に勤めている中堅サラリーマンの年間ボーナスでなんとか買えるくらいだ。軽四が一台買えちまうぜ。




