2-13 驚きの出来事
朝起きると、何かが俺を引っ張っている。
「ううん」
「プイー」
「あ?」
寝ぼけた顔で見ればリュウだった。
「おー、お早うリュウ」
そして、やや臭うので見てみれば、トイレが凄い事になっていた。昨日はよく食ったものな。慌てて一番小さい収納袋に入れた。
代わりに空のトイレを出しておく。床には零れていないようだった。奴が俺を起こした理由は、それの片付けと朝御飯のおねだりだ。うん、まさにペットそのものだな。
元々この収納袋はトイレ用に回しておいたものだ。他に掃除機を改造して床掃除専用にした収納袋も持っているが今日は出番がなかった。
ずっと、このサイズなのだったら専用トイレを作ってやってもいいし、今なら人間用も使えるはずだ。大きい犬なんか外国で洋式便器の上に二本足で立って用を足している奴もいる。ドラゴンのお尻も拭かなくてよさそうだ。
「待ってろ~。今御飯にするからな~」
そう言って出してみたのは高級ワンコ缶だ。これがなかなか馬鹿にならないのだ。この前みんなで試食してみたら、結構いけたので全員で大爆笑した。
缶の開け方をリュウがジッと見ている。この子は手がなかなか器用だから自分でも開けられるかもしれない。可愛いお皿に盛ってやると、くんくんと匂いを嗅いで一口。それから物凄い勢いでパクついていた。まだ小さいのに、本当によく食う。
「私達も御飯にしましょう」
そう言ってジーンがサラダの仕度をしていた。レタスと水菜、コーンと大根・人参・南瓜なんかが入ったカット野菜だ。他の連中も降りてきている。
俺はパンを切る。今日はバゲットだ。みんなネットスーパーのサイトから買ったものだ。バターを用意する。明日はトーストにしようかな。
リュウがテーブルに捕まって顎を載せてもたれながら見ている。
「それ、美味しい?」
俺は口をポカンと開けた。ジーンも目を真ん丸にして見ている。
「あれ? 今リュウが、しゃ、喋った?」
「うん。喋ったよ。何か可笑しい?」
「い、いや別に。喋ると思わなかったんで驚いただけだ」
人間の子だと生まれてすぐ喋らないから、そんな事はまったく思っていなかったのだ。これがSランクのドラゴンかー。知能がすごく高いんだな。
「それ、美味しそう~」
「リュウはお野菜の方が好きなの?」
「肉も食べるけど、お野菜の方が好き」
草食系雑食龍だったのか。
俺の場合は、総一郎は健康志向で野菜多めの生活をしていたし、農村育ちのシャルは肉が大好きだからバランスは取れているかな。
もっともシャルも圧倒的に野菜食が多かったのだが。狩りの獲物があっても、売ったりするのでなかなか思い通りには肉は食べられなかった。俺だって肉は嫌いじゃない。まだ腹の肉を気にするような歳じゃなかったのだしな。
「でも、そのハムは美味しそう」
「そう。じゃあ、リュウのには、ちょっと多めに入れようか」
「わーい、ジーンママ大好きー」
リュウはジーンにキュッと抱きついた。ジーンも楽しそうだ。故郷では、いつもこんな感じでやっていた。リュウは、ご飯は食べてもお野菜別腹なのかな?
俺達が出発する日に、教会の子供達は泣いていた。商会クランを作ったら、一度村に行ってみるかな。あいつらも仕事口に困ったらうちに来てもいい。ジーンの兄弟だ。
ジーンは椅子を引いてやり、リュウは上手によじ登った。ちょっと高さが合わないかな。子供用の高さのある椅子を買おうか。
「いただきまーす」
リュウは食前のご挨拶も覚えてしまったようだった。俺達の間でも、もうすっかりそれが習慣になっている。
「今日はどうするの?」
「冒険者ギルドに行くよ。昨日はサボってて、報告に行っていないからな」
「そうだったね」
「それと、この家の買い取り交渉だ」
「あ、買うんだ」
「台所に、御風呂に、リュウの子供部屋が欲しい。それで丁度埋まる勘定だ。ベリーヌはそのまま下宿人だな。家賃代わりに簡単な掃除とかしてもらうのもいいし。まだ給料は安いはずだから、あの子もそれでいいかもしれない」
「いいわね、それ」
リュウのパンにバターを塗ってやりながらジーンも頷く。リュウは牛乳とオレンジジュースを飲み較べたりしていた。食後はヨーグルトだ。リュウは目を見開いてかきこんだ。
「御代わりっ!」
リュウは2個御代わりを平らげた。それから、みんなと合流してお茶にした。
「そういえばさ。リュウと出会った時に、何か光ったじゃないか。リュウ、あれは何だか知っている?」
「あれは加護。シャルと契約したから、スペクタードラゴンの加護がついたの。どういう物なのかリュウも知らないけれど。お母さんなら知っているかなー」
契約? ハンコ押した覚えはないけどな。まあ、いいや。特に不都合はないだろう。
「わあ、シャル凄いですよ。ドラゴンの加護!」
アイカが思いっきりはしゃいでいるが、どうせ意味はわかっていないんだろう。この子は聖女とか加護とか、そういう神話的な物に憧れがあるようだ。多分ソースは絵本だな?
「うーん、よくわからないけど。まあ加護があっても別に実害ないし、いいんじゃない?」
色々と魔物についても勉強しているジェンカにもよくわからないようだ。
「うーん、私の知識にもありませんね。ギルドで聞けば何かわかるのでは。あるいは城で」
敏腕魔法使い(自称)の知識にも無いのか。まあ俺達は新人で、知識面では他の冒険者よりも大幅に劣るのだからな。確かにレミーの言う通りかもしれない。
「じゃ、ギルドに行くかあ」
俺はリュウと手を繋いで家を出た。こいつは足が短いのに歩くのが案外と早くて俺達と一緒のスピードで歩ける。なんていうんだろう。まだ初毛がボワボワの子猫が『ちててててー』という感じで足を素早く動かして歩く感じだろうか。見ていると実に可愛い。
通りを歩いていると注目度が凄い。母親と歩いている子供など止まって見つめているので、親に手を引っ張られている。その親の方も見ているんだけどな。
特に若い女性からの注目度が高い。もしナンパなんてものをするのであれば、こいつを連れてあるくだけで女が落ちる。そこまでの注目度だ。気を付けないと人攫い、いや龍攫いが出そうな勢いだ。
「これはまた、凄いな」
ジェンカが目を見張る。
「通りを歩いている人のうち、半数以上がこの子に注目しています」
アイカから報告が上がる。マジかよ。それ遠くにいる人も含んだ数字だよな。
「おい、騒ぎになるから早くギルドに行こう」
俺はリュウを抱き上げると走った。みんなもついてくる。車を出した方がよかったかな。手を振ってくれる子供に、リュウが可愛いお手手を振り返していた。




