1-3 スキルの性能
そうとなれば、この俺のスキルを確認しないといけない。
もちろん、この俺自身である秋葉総一郎のスキルだ。
『ネットでお買い物』
一体どういう仕組みになっているのか知らないが、これが使えたら凄いぞ。
ここで高く売れるかもしれないし。
ただ、対価が必要なようなのでそこが不安だ。
食後の、夕焼けに照らされたジーンの後姿を見ながら、俺はそんな事を考えていた。
「見て、シャル。
お城が夕日に照らされて、あんなに綺麗よ」
お城とはいわなくても、この子にはもっといい家に住まわせてやりたいな。
こんな美少女にボロ家は似合わないぜ。
「そうだな。
ここだってそう悪かないよな」
「いきなり、どうしたの?」
そうこうするうちに、もう日が落ちた。
電気の無い街か。
さぞかし星は綺麗なのだろうな。
「シャル、もう寝ましょう」
「昼間寝ていたから、そんなに眠くないんだけど」
「駄目よ、横になっているだけでもいいわ」
「はいはい」
さっき確認してみたが、傷は昼中よりも凄く小さくなっていた。
これは何か特別な事が起きているようだ。
このシャルが同時に秋葉総一郎でもあるというのと何か関係があるんだろう。
俺達は暗い部屋の中で着替えた。
ジーンが俺の着替えを渡してくれる。
ただ、真っ暗なのが非常に残念だ!
ベッドに潜って、キスをしながらジーンが挨拶してくれる。
「おやすみ、シャル」
「おやすみ、ジーン」
シャルめ、なんて奴だろう。
まったくもって奴は腰抜けだぜ。
こんな超絶美少女と毎晩これで、手が出せない状況なのだと!?
俺は悶々としていたが、おかげで余計に眠れない。
仕方が無いのでスキルのテストをする事にした。
まず売り物になる物か。
あまり変な物を売ってもなあ。
どうせならリピートしてくれる物がいいな。
一番いい物は飲食物だろうか。
他も消費するものがいい。
化粧品や医薬品は高額で売れると思うが、出したらまずいだろうか。
俺はまずペットボトルの水を思い浮かべた。
こういうのをダンジョンの中で営業したらどうだろうか。
底の方の危険なゾーンは人を雇って支店を出してもいい。
商品の補充に行く時だけ降りるようにして。
このダンジョンは底無しのようだ。
最初にギルドで聞いたところによると、ここは地下迷宮で何層あるのかもわからないのだと。
行ったらまた歩いて帰ってこないといけないし。
ゲームの世界のような便利な帰還方法などない。
水はとても貴重なのだ。
パーティに水を出せる魔法使いがいればいいが、そうでなければ行ける範囲は非常に限られる。
水魔法使いは引っ張りだこなのだ。
収納袋はあるが、かなり高いし他にも色々入れたい物があるのだ。
水ビジネスでも充分にやっていける気がする。
ダンジョンの中で商売する権利は与えられるものなんだろうか。
後は食い物だな。
エネルギーバーみたいな物は冒険者にはピッタリだろう。
「冷たい!」
いきなりジーンが飛び起きた。
「いきなり、どうしたんだい?」
2人とも、寝小便をするような歳は、とっくに卒業したはずだが。
「シャルったら、ベッドの中に何を入れたの?」
「?」
何を言っているんだろうなあと訝しんでいたら、ジーンがそれを渡してくれた。
これは!
「あっはっはっは」
突然、俺が笑い出したのでジーンが戸惑った。
「ど、どうしたのシャル」
「ジーン、これは水さ。
い、いや良く冷えているな。
こいつは傑作だ」
それはペットボトル入りの水だった。
スキルを弄っていたので、間違って買ってしまったらしい。
という事は。
「ちょっとゴメンよ」
俺はベッドの中を弄っていたら、エネルギーバーが何種類か出てきた。
俺は立ち上がると明かりを探したがよくわからない。
少し考えて懐中電灯を思い浮かべて、そいつを買ってみた。
なんというか、頭の中で検索するというのか。
脳波操作のパソコンみたいな感じだろうか。
ポトンっと手の中に落ちたそれを受け止めた。
それはLEDのハンドライトだった。
映画なんかで使うような本式の逆手に持って照らすようなもので、こいつはアルカリ乾電池式で作動するタイプの物を買った。
電池は別売りなのでそれも仕入れた。
俺は手探りでパッケージを開けて、電池を装填した。
鮮やかな人工の光が闇を照らし出した。
「シャ、シャル。一体それは」
息を飲む感じのジーン。
そんな顔もたまらなく美少女だぜ。
「ジーン、驚かせちゃったかな。
どうやら俺には隠しスキルのような物があるみたいなんだ。
それ、これを見てごらん」
俺が照らした光の中には、日本人なら御馴染みのパッケージの500ccのペットボトルとバータイプの携行食糧があった。
ジーンはそれを不思議そうな顔で見ていたが、俺はちょっと難しい顔になる。
ジーンもそれらを見て戸惑っていた。
「うーん、こいつは売り物にするのは厳しいかもなあ」
ちょっと人工物過ぎる。
いや、この世界の物だって人工物なのだが、これは未知の物質だ。
出所は必ず探られるだろう。
トラブルは必至だな。
これで商売をするのなら、後ろ盾を得るのは必須だ。
もちろん、そんな物は俺達にはない。
あまり、やたらな物を手にするのは考えものだ。
後で証拠隠滅が大変だぜ。
一旦買った物はもう現実の物だ。
この場で消す事はできない。
「一体なんなの。
どうしちゃったの、シャル」
少し不安そうなジーンだったが、俺は笑ってキスをしてやる。
うん、やっぱり柔らかいな。
「大丈夫だよ。
ただ、使い方を間違えると昨日よりもピンチになっちまうって事さ。
うまく使えば、これで美味しい商売ができるかもしれない。
また、みんなで相談だな」
俺はそいつらをテーブルの上に置き、そしてある物を買ってみた。
買えてしまったが、そこで魔力が打ち止めになったらしい。
あれ、案外と少ししか買えないんだな。
これは方針を変えて高価な物にしないと駄目かもしれない。
俺はジーンの寝息を感じながらスキルについての考えを巡らせた。
俺は色々とスキルについてチェックしていった。
各項目について知りたいと思い、心を集中させていくと自然にわかるのだ。
俺のこの能力、魔力召喚というスキルはいくつかの形の物が一つに纏まっているようだ。
一つは世界を越えて物品を召喚する能力。
それはこの世界の物は召喚できない制約がある。
俺が元々は日本人で、異世界から来たせいだろうか。
その場合には世界を越えさせるための厖大なエネルギーが必要であり、今の俺では魔力不足のせいで不可能なようだ。
出来てしまったら、はっきり言って万引きだがな。
もう一つは、データのみの召喚だ。
娼館したい物体を構成する物質の構造を、世界を越えて魔法でスキャンして、それを再現するものだ。
ネットでの買い物というのは、その検索をするためのシステムなのだろうか。
通常は魔力というエネルギーを物質に還元させるため、莫大な魔力を消費する。
さっき魔力が枯渇してしまったのは、そのせいなんだろう。
だが、更にもう一つの方法があったのだ。
それは原料を別で用意するというものだ。
召喚しようとする物に必要な原料を、あらかじめ用意しておけば、それほど魔力は食わない。
物質とエネルギーは互いに還元する。
だがエネルギーを物質へと還元しようと思ったら、一体どれだけのパワーを食うものか。
ちょっとした元素を生成するために、全地球上の電力全てが必要かもしれない。
核エネルギーによる発電の逆だと考えれば、その膨大さがわかる。
地球では当然、そんな馬鹿な事はせずに原料を用意して、それを加工するエネルギーだけを投じるのだ。
人力、風力、水力、薪や石炭を燃やした蒸気機関や内燃機関、電気エネルギー、太陽エネルギーに原子力。
それが人類の発展の歴史だった。
うん、これだな。
この3つ目の案だ。
自分の魔力を上げる方法も探さないとな。
この世界に無いものは作らないといけないかもしれない。
通常流通していない元素なんかだと、どうしようもないし。
触媒とか添加物なんかだとありうる。
大量に作ろうと思ったら、それなりの魔力がいるだろう。
そんな思いに揺られながら、俺もジーンの後を追って夢路へと向かった。