1-12 ダンジョン・アタック
翌朝、俺達はいつものように俺の家に集合した。
「昨日、あれから何もなかったか?」
「ああ、特にないぜ。お前、ちょっと心配し過ぎなんじゃないか? あんな奴らたいした事はないって」
ジーンとジェシカが眉を顰める。若者が粋がるのはいいが、そういうのは碌な結果を齎さないものだ。
備えておくのにこした事はない。また俺は例によって買い物を始めた。地球の防犯グッズを色々だ。あのバラクテスを倒したせいだろうか。魔力は随分上がっている。大量の注文にスキルはあっさりと応えてくれた。
「そうならいいんだけどな。あいつらって、ある意味であのCランクプラスよりも性質が悪いからな。ジェンカ、お前が警戒しててくれな」
「わかってるよ。そこの能天気の分までね」
「ひでえなあ」
女のジェンカの方が警戒してくれているので安心だ。これが逆だと困った事になるかもしれないが。ジーンは性格的に警戒を怠らないだろう。今はシャルにソウイチローの人格が入っているからそうではないが、以前はジーンが一番大人だった。
「さて、ダンジョンに行こうぜ。本日は階層別の魔力測定と、お待ちかねの魔石採集だ。他の冒険者が絡んでくるかもしれない。なるべく穏便に行こう。トラブルは商売に差し障る」
「ははは。お前こそ、魔物に突進していくなよ」
「ちぇっ」
それを言いますか~。まあシャル君は前科者ですけどね。
「こいつを渡しておくわ」
「なんだい、これは」
電気警棒と催涙ガススプレーガンだ。
「相手を殺さずに無力化するための武器だ。取り扱い要注意の代物だ。そっちのスプレーガンは取り扱いに気をつけろよ。自分で食らうと酷い目に遭うぞ。えーと、カートリッジの交換のやり方はな」
簡単に現物で説明するが、こういう物の交換は扱った事がないよな。
「これも、日本とやらの国の物?」
「ああ、基本は女の子が持つ物だな。痴漢対策だ」
「あはははは。いいわね」
「こっちの警棒は電気という物を流すんだ。初めて食らうとビックリするぜ。間違っても自分で電流部分は触るなよ。こいつは囚人鎮圧用に使う本式の奴だからな」
レクチャーを終えてから、俺達はダンジョンに向かった。家からダンジョンまで歩いて5分くらいだが、その間ジェンカにしっかりと警戒してもらった。
「とりあえず、おかしな奴らはいないようよ」
「そうか。まだ安心できないな。襲撃するならダンジョンの中だろうし」
「あいつら、またちょっかいをかけてくるかな」
やや姿勢を落とし、周りを見渡すようにしてクラウスが聞いてくる。
「わからないけど、用心するにこした事はないさ。そんなに露骨に見回すなよ。奴らが見てるかもしれん」
「わかったよ」
壁の外にあるダンジョン入り口で中へ入る手続きを済ませた俺達は3度目となるダンジョンにチャレンジする事にした。
あらためて、このダンジョンの佇まいを観察してみた。ダンジョンを封鎖している壁の周りには冒険者用の店が軒を連ねている。
簡易店舗というのだろうか。間口1mから2mくらいの店が連なっていて、呼び込みをしているため、大変賑やかだ。
二重になった防壁の通路を越えると直径100mほどの面積になる。その中心に直径50mほどの平たいドーム状のゴツゴツとした岩の傘がかかっている。周りにいくつもの入り口が開いているが、当然の事ながら普通は入り口側からしか入らない。
俺達はその正面からダンジョンに乗り込んでいく。かなりの数の冒険者が歩いているのが見える。何しろ自分の足で行って帰るんだからな。朝一番に行くのが吉と相場が決まっている。
1階はまだ狭い。奥行きが300mも進めば、次の2階へと下るスロープへと進む。ここは階段に加工しろという意見もあったが、中には大物を延々と地上に引き摺ってくるパーティなんかもあって、今のところその話は出ては消えるのを繰り返しているそうだ。
それをしなくてもいいようにするためには、金貨50枚以上の収納袋を用意しないといけないが、冒険者というのはみんな浪費家が多いからな。明日生きている保障もないのだから、まあ仕方が無い。
もうこのあたりは、ただの通路と化している。たまに魔物が現れても殆ど通りすがりに瞬殺されてしまう。高ランクのパーティに至っては、初心者に譲るために無視していってしまう。そりゃあ労力が勿体無いものなあ。
「なあ、こんなところを歩くのは時間が勿体無いなあ。穴ぶち抜いて、さっと降りられるようにしてくれないもんかな」
「無茶を言うなよ。それに穴が空いたとしてもダンジョンでは穴なんてすぐ修復しちまうよ」
2階も同じようなものだった。特に朝は混んでいる。ここは奥行き400mほどか。1~2階は高さ5mくらいの洞窟状になっていて、大物なんてまずいない。この間の騒ぎがいかに異常な事であったのか。ここを抜けるなんて、爺さんのお散歩レベルのお話だ。
3階になって奥行きは500mほどになって、ようやく冒険者密度が下がってくる。このあたりが最初に冒険者になった者が頑張るところだろう。
俺は狩りが主目的ではないので、1階ごとに商品を作成しては魔力を半分にして次の階へ行く。この先に確認したいのは、俺の魔力が厖大な物になったら(なってほしいという希望的観測)浅い階ではすぐに魔力を充足させられなくなるのではという事だ。
今のところは確認などできないが。今の段階の魔力が目一杯くらいなら、1階の例の小部屋が主な事場になるだろう。外から原料を持ち込んで、あそこで商品作成に励んで、また外で商品を売るのだ。まあ、それはそれで安全に商売できるというものだ。
商会が集まって運営している商業ギルドがあり、輸出なんかも行なってくれるし税金の計算も向こうがやってくれる。商会を作るよりもギルドへの卸業者になったほうがいいとか真剣に考えている。
商業ギルドと取引する高ランク冒険者、ある意味それが俺の理想だったりする。この前のチンピラどもの件もある。冒険者のランクは上げたい。
スキルからみても俺には可能なはず。それには実績だな。この前の一戦がまぐれでないと証明できればギルマスも検討してくれるだろう。
冒険者の中にはギルドに所属しながらも、その中で自分達の集団を作る者もいる。クランというらしい。パーティと呼ぶには巨大で、いくつものパーティが所属している感じだ。
気の合ったパーティで組んでやっている合同パーティのようなものもあるし、リーダーを統率された組織のようになっている物もあるらしい。
ギルドの制度としてあるものではなく、自然に形成されていったものだ。高ランク冒険者が後輩育成のためにやっている場合などもあり、初心者にはありがたいものだ。
本来なら一緒に行動してもらえないような冒険者から指導を受けられるが、その分上がりは少ない。だが命の危険は少ないし、得がたい経験も多くできるため喜んで参加する者も多い。
中には性質の悪いところもあって、そこに引っ掛かった初心者はとんでもない事になる。俺達も変な集まりに目をつけられたら敵わないな。
無理矢理加入させようとする連中もいるのだ。メンバーの女の子に無理に御奉仕させるなんて話も聞く。冗談じゃないぜ。
そういうところの冒険者は、気が荒い者もいて武闘派が多いといわれている。この間のチンピラなんかとは訳が違う。俺達は悪目立ちしてしまったので気をつけないといけない。
このあたりはまだ1・2階と同じような感じのダンジョンだ。だが歩いていると、いきなりジェンカが立ち止まり警告してくる。
「来るわ。通路の両側からポップしてくる」
彼女のスキルは探知。魔物や、ダンジョン自体に設けられたトラップなんかを探知してくれる。
ジェンカの探知はかなり万能で優秀だ。明らかにランク以上の能力がある。シーフ抜きでダンジョンを攻略するのは無謀だ。
さあ、戦闘の始まりだ。




