5話
辛い、辛い過去の記憶。
どれだけ懇願しても、ごめんなさいと謝っても、消すことを許されなかった記憶たち。
僕は、孤児院で育った。生まれた直後に、まだ開いていない孤児院の入り口に捨てられていたらしい。
だから、誕生日はわからない。名前は院長の名字が「朝陽」で院長のおじいさんの名前が「斗真」だったから付けられたらしい。
今となっては、どうでもいいことだ。
僕は、今までに3回捨てられて、拾われた。
良い子がほしかったのに・・・。そう言ってみんな僕のことを捨てていった。
僕は良い子じゃなかった、のかな。
認めてもらいたくて、なりたくもない学級委員長に立候補してみたり。
そんな努力は全部、泡沫のように消えていって。
今の人は僕の面倒を見てくれてはいるけど、別に暮らしている。
きっと、僕を捨てるのには罪悪感があるんだろう。
仕事は医者だって言ってたから、お金はいくらでもあるんだろう。
本当は、本当は。僕も誰かと一緒に住んで、人のぬくもりに包まれて、笑って一日を過ごしたかった。
でも、そんなことは叶うはずない。ううん、叶っちゃいけないんだ。
だって、僕は汚いから。
一人暮らしが羨ましいって言うけど、僕はみんなのほうが羨ましいよ。帰りを待ってくれている人がいる、「ただいま」って言ったら「おかえり」って言ってくれる人がいる、自分の存在を認めてくれて、愛してくれる人がいる、そんなみんなにとっての当たり前が、僕にとっては「羨ましい」。
こうやって人のこと、羨んでばかりいるから、「汚い」んだよね。
もう、仕方ないんだよ。どうしようもないんだよ。
爽やかで、それでいて何処となく甘い。
そんな匂いが、僕の鼻腔をくすぐった。