風魔法と土魔法
戦場を暫く見つめていたが、冒険者逹が奮闘しているようで、まったく打ち漏らしはない。
手持ち無沙汰を感じ、魔法の練習をしていようかと考えて実践してしまった。
今回は、こっそり土魔法の練習をしてみる。
土の魔術は他と比べると明らかに違いがあった。
火は火が出る、水は水が出る、風は風が出る、だから土は土が出ると言うように単純ではないのである。
土の魔道具は石礫を飛ばすことが出来る。
しかしこれは、不人気魔道具の一つで、石を拾って投げた方が早いし威力も高いから、それはもうしかたが無いことである。
土の魔術=石礫だなんて始めは単純だなぁと思ったが、プロセスが複雑な事に気が付いてから、練習をすることにしたのである。
石礫が飛ぶと言うことは、まず周囲の土を『集めて』重力や引力を無視して空中に『浮かせて』土を『固め』重量のある石を打ち出す『推進力』が必要だからだ。
今まで何度も見てきた、火の玉魔術は質量がほとんど無いので当たった時のダメージは無し。
『空気中』の『可燃性のガスか何か』を『集めて』そのガスごと、風魔法で移動させ、当たった相手を燃やすことでダメージを与えていると考えられる。
水の魔術も同様に『空気中』の『水分』を『集めて』いるだけである。
そう考えると、火の魔術や水の魔術は、実は風の魔術の派生系であるような気がする。
その点、土の魔術は土を集めることは風魔法でも出来無いことはないけどちょっと無理があるような気もする。
それは置いといて、まず『集める』は、風魔法でも可能だが、『固める』には『圧縮』が必要である。
中空で『固める』まで『圧縮』するなんてどれだけの圧が必要になるか分からない。
それに伴い出力が必要になるので、とんでもない魔力が必要になるはずだから。
単純に風魔法では無さそうだ。
固めた土=石は質量があるので重量物である。
『浮かせる』も、同じく風の魔術で下から上に吹き上げれば可能だが、そんな勢いの風を吹かすなんて(:Re
更に対象物に向けて飛ばす『推進力』は(:Re
なので土の魔術は他とは根本的に違うと言う考えに至ったのである。
あくまでファンタジー特有の精霊さんが居ないことが条件であるが。
始めて土魔法を使った時は土がお尻に集まり、ポトりと音をたてた。
魔力を少ししか使っていないこともあってか、お尻から出た土魔法は柔らかい土くれであった。
相変わらず、土魔法もお尻からしか出ないようだ。
一瞬の納得の後に、恐ろしい事実に気が付いてしまった。
これって傍目から見たら、大きい方をしているように見えるのではないのか?
実際はマントの影になるので、お尻から塊が落ちていくところは見られることはないが、驚愕の事実に妄想が膨らんでしまい、
誰も居ないところに居るのにもかかわらず、意味無く土くれを踏み潰して証拠を隠滅したことがある。
それから土魔法は封印していたが、土の魔術の異常さに気が付いてから何が出来るか検証していた。
今日は、お尻を地面について居るので、目立たない固める魔法を使ってみている。
他の魔法と同じで一つの事しか出来ないのであるが、魔力を流す量を代えて何度か試してみた。
イメージしたのは一辺が一センチ位のサイコロである。
魔力が少ないと固体化出来ないのか、サイコロは触っただけで崩れた。
魔力を多目に流すと、お尻の下の土が無くなってしまい、二十センチ位凹んだ。
そんな事を予想もしていなかったアタシは、見事にお尻が凹みに嵌まってしまった。
慌てて嵌まったお尻を地面から抜こうとしていたら、注目を浴びてしまった。
みんなにはなんでも無いと言って手を振っておいた。
みんなの視線が再び戦場に戻ったことを確認して、ゆっくり立ち上がって穴の中を見た。
穴の中には小さな立方体、サイコロがあった。
えっと、縦横高さが二十センチだから、約八リットル分の土が
十ミリリットルに圧縮されたってことだよね。
水と土では、密度や質量が違うから、実際は違うと思うけど、質量保存の法則からすると、このサイコロは約八キログラムの重さがあるってことかしら?
穴と言うか凹みから拾ってみようとしたが、アタシには重たくて摘まめない。
単純に八キロの重さの小さいサイコロを指二本で摘まんで持とうとしているのだから、簡単には持てないだろう。
拾いあげたところで、何も出来ないし。結局捨てることになるのだから。あきらめて戦場を見る振りをしながら考える。
土魔法で圧縮が出来るなんて、本当にそうなら、とんでも無いことになるような気がする。
圧縮が出来るのなら、逆も出来るのかしら?
対義語はなんだっけ?
解凍だとコンピュータ言語だよね。
膨張だと膨らむだけだし。
伸張も伸びてしまうだけか。
元に戻すことは出来ないかもしれない。
ただ単に固まっただけなら、分解すれば良いと思うけど、多分材質が変化しているだろうから、やっぱり無理か。
思考の海に沈み込んでいたら、常に発動している振動感知に、戦場を抜けたオークの反応を感じた。
「オークが来るよ」
アタシは、みんなに方向を伝えながら静かに立ち上がった。




