甘いものって幸せな気分になるよね
その後、日暮れまで待機していたが、草原は風が吹くだけで動物達の姿さえ見ることは無かった。
夜営地のあちらこちらから火が焚かれ、周囲を明るく照らす。
アタシ達は警戒を解き、所定のテントに戻る為に移動することにした。アランさんは、守護騎士のテントに寄ってくると言って別行動である。
空いた時間を使ってアタシはマントの点検をしていた。
ここ最近は、空中浮遊とかで無理をさせていたから心配になったのだ。
点検して始めて気が付いたのだけど、縫合の跡が目立たなくなっていた。
理由は分からないけど、長期間蜘蛛糸同士が接触し続けた場所に何か化学反応でも起こしたのかもしれない。
元の世界では良くやっていたので裁縫には自信があったが、ただ縫っただけでマントがパラシュート代わりになるとは考えていなかったので、今更ながら驚いた。
これなら問題なさそうだ。
次に、顎先をかするパンチにしか役にたっていない籠手の点検。
攻撃は全て避けているので、ただの飾りと化している。こちらも重ねた跡が目立たなくなっていて、まるで成形物のようだ。
それ以外に特に無し。
すね当ても同様で、特に問題は見受けられない。
主武器のホウキはすっかり手に馴染み、使っている割りには損傷も無い。
相手の攻撃をホウキで受け止めた事も無いので、芯に使っている竹っぽい植物の強度がどれくらいあるかによって、もしかしたらすぐに壊れるかもしれないけど。
腰にくくりつけているハタキの出番は、今後掃除以外にあるのだろうか?
外見的には、まったく問題無い。
みんなの武器防具の点検が終わる頃に、アランさんが戻ってきた。
結論から言うと、即時撤退は無しと言う事になった。
まだ三パーティが戻ってきていないが『血色の愚連隊』リーダーが「例え百頭襲ってきても一人一頭だろ?元々一日一人十頭のオークを相手にする予定だったのだから問題無いんじゃないか?」
と言うことで決まったとのこと。
明日からは、もともとの予定通り各冒険者パーティで判断して討伐に向かうことになる。
決まってしまった事なら、その通りに動くだけだ。
アタシは、出来るだけ討伐しやすい個体を見付けて誘導することに全力をつくそう。
方向が決まれば、飯を食べよう。
キャサリンさんとジェニファーさんがスープとパンを配膳してくれたのでさっそく食べ始めた。
スープは塩辛くて浸したパンと一緒に食べないときつい。
なんか逆の事は良く聞くような気がするのは何故だ?。
冒険者は身体を動かす分、塩分をとる必要があるとは分かっているが、これは限界以上の塩辛さだ。
塩漬け肉の塩を落とさないで、そのまま鍋で煮込み出汁を取った上で、更に味付けに塩を入れた感じだ。
塩辛さを和らげる方法としたら、ジャガイモが一番だけど、野菜を大量投入して煮直す。
どっちも無いし、煮直すことも出来ないからボツ。
牛乳とかでも調整できるけど同じく無い。
レモンとか酢とか酸っぱいものを入れると言いと聞いた事があるなぁ。
それならビタミン補給用に持っている、酸っぱいオレンジがあるから代用になるかも。
さっそく背負い袋からオレンジを取り出し皮をむいて少し搾ってみた。
オレンジの香りと酸味ののおかげか、何だか塩辛さが押さえられた気がする。
その代わりに何とも言えない味になった気がするが、不味いわけでは無いので、これなら何とか飲める。
そんなアタシをキャサリンさんとジェニファーさんが、物欲しそうに見てきた。
視線に耐えきれず、オレンジの残りの房から一つ残して二人に分けた。
一つ残したのは、スープを飲み終えた後の口直し用である。
オレンジを搾って混ぜたスープを飲んで、二人して「あら、美味しい」とか「こういう使い方もあるのね」とか言っている。
そう言えば、宿屋の親父はデザートだと言って果物をそのまま出していたような。
その事を聞いたら「そのままで美味しいのに、何で料理しないといけないの?」と、なに当たり前な事を聞いているの と素で返されてしまった。
えっと、アタシがおかしいのかしら?
そう言えば、この世界で御菓子って食べた事がないぞ。まさかと思って聞いてみたら「何それ?」だって。
御菓子が無いなんて。なんて恐ろしい事実に気が付いてしまったんだ。
御菓子は無くても甘味はあると願い。
すごく甘いものは何かと聞いたら、ハチミツだと言う、甘くてとても幸せな気分になれるけど、懐も、とても寂しくなると言う。
この世界のハチは、何もしない限り人間を襲うことは無い、だが巣に近付くとハチが集まり行く手を阻む。
そこで離れれば問題無いが、無視して近付くとたちまち何百と言うハチに襲われるらしい。
刺されると下手をすると死んでしまうくらいの毒を持っており、死ななくても何日も寝込むことになるので、完全防備の専門職が命を賭けてハチの巣を手に入れているから値段が高いみたいだ。
他には噛むと甘い草があるが、ただ単に強烈に甘いだけで、美味しくないらしい。
それって、サトウキビじゃないの?と疑問に思って、なんて言う名前か聞いたら名前は決められていなくて『甘草』とか『甜菜』とか言われている。
これも値段は高いが、ハチミツと比べれば、まだ良心的なレベルであった。
砦に戻ったら、御菓子を作って二人を驚かせてやろう。
約束すると、フラグが立つ恐れがあるから、心の中だけでとどめて。
実際、言葉に出したのは
「色々、教えてくれてありがとう」
と言うことに留めた。
明日に備えて、もう寝ることになり。
各自が寝支度を整えていると。
テントの外が慌ただしくなってきた。
「オークだ!オークが来るぞ!」
砦兵の危険を報せる声が通り抜けた。




