『そよ風』クランの出立
朝食を食べ終えたが、アランさん達は誰も降りてこない。宿屋の親父にも聞いたが、時間の約束もしないで『白い風の嬢ちゃん』は一人で先に部屋に戻ったぞって事だって。
意識がなくても部屋に自力で戻れるなんてアタシってえらいじゃないか。でも、だからと言って過信してはいけないと。だって蜘蛛糸警報装置無しで眠っていられたのだから。振動感知が効かなくなるなんて危険すぎるよね。
先にパーティ登録を済ませておこうと、アランさん逹を待たずにギルドに行くことにした。
受付さんに、話して申請書を貰い必要事項を書いて提出した時に「ネズミ苦女子は嫌だもんね」と、微妙にニュアンス違いの新二つ名を言われた。
知らない間に、二つ名が広まっている事を恐れつつ、新しいパーティ名で打ち消されることを祈った。
『白い風のマッキー』なんか小説のタイトルにでもなれそうだ。
真っ白な格好で風魔法を使う。印象付けられればネズミの印象は払拭出来るだろう。
風魔法は、周囲探索の時に上空からの監視に使うだろうし、そんな目立つ行動は秘密に出来ないだろうから、ネタバレさせておくに限るのである。
そんな、打算的な事を考えていたら。アランさんが一人で現れた。『白い風』の申請が認可されたことを伝えると、さっそくクラン申請をすることになった。
クラン名は『青く澄み渡る風』、『青い閃光』と『白い風』から一文字ずつ取り、これからの方向性である無理無茶をしない気持ちの良いゆったりしたクランを目指す為に、『そよ風』を意味する言葉にしたそうだ。
『青い閃光』内ではカップルが成立しているし、アタシはそのうち居なくなるし、無茶をしないのは冒険者としてどうかとは思ったが、確かに納得のクラン名だ。
クラン内のパーティリーダーにだけ、ギルドカードにクラン名が記載される。
『青く澄み渡る風』通称『そよ風』クランの誕生だ。メンバーは五人だけしか居ないけどね。
クランで明日の討伐に参加するべく依頼を受けたので、これでアタシも参加する事が可能となった。
アランさんと明日の役割を打ち合わせてから、それぞれ準備の為にとギルドで別れた。
アタシの役割は、通常時は探索誘導。戦闘時は周辺警戒。余裕があれば援護と言うことだったので、役に立つかもしれないので投げナイフを購入しておいた。
洞窟で投石訓練もしていたので、そこそこは当てられるだろうと考えていたが、砦外に出て森で投げてみたら当たらない。
落ちている石を拾って投げれば狙った場所に簡単に当たるのに。
ナイフは違うみたいだ。
野球の投げ方では駄目だと学習して手首のスナップだけで投げるとさまになった気がする。
何回も投げ続けて日が暮れる頃、十メートルの距離を誤差一メートルくらいの範囲で当てられるようになった。
牽制に使えれば良いやと考え、訓練を終了した。
門兵さんにギルドカードを見せて砦に戻ったら、大広場に数十人の兵隊さん逹が訓練をしていた。
きっと明日、同行してくれる兵隊さんなんだろうなと思い、ぼんやり観察していた。
模擬剣であっても切り結ぶ姿には迫力があり、安定感があったが、何かが引っ掛かった。
何だろうと考えたが、解らない。その場で悩んでいると兵隊さん逹も訓練終了のようで、偉そうな人の前に集合していた。
それを見てアタシは考えても意味がないと思い、ギルドに向かって歩き出した。
ギルドに行かないといけない用事は無いけど、明日の討伐に関する何かが発表されているかもしれないからだ。
ギルドに着き掲示板を見ると、明朝日の出前に大広場に集合せよと書かれていると共に、参加する冒険者パーティ名と人数、守護騎士と守備兵の構成と人数が書かれていた。
アタシの『白い風』はクラン『青く澄み渡る風』に『青い閃光』と並記されていた。人数一名表記は目立つかと思ったが、ソロパーティはそれなりに居たので、なんとなく安心した。
翌朝、大広間に集まった人数は百三名。
冒険者七十三名と守護騎士二名、守備兵二十八名である。
ややこしいのでまとめて砦兵達は、基本的に遠征し確保した陣地の守りに徹する。その代わり食料や消耗品の運搬を行い、伝令や野営の準備、不寝番をすることになっている。
主戦力は冒険者。基本パーティ単位で行動することになっているが、人数が五人に満たないパーティやソロパーティは、臨時パーティを組んで行動する。
アタシ達はクランで参加しているので、このままの五人である。
何やら偉そうな人が、訓辞をのべていて、砦兵達は聞いているようであったが、いきり立っている冒険者のざわめきに、ほとんど聞き取れなかった。
が、「出立!」の号令は聞き取ることが出来た。
砦の門から出ると、アランさんの指示で左翼、森に近いところに移動した。
全部で十二パーティが砦兵を護衛するように展開する。
アランさんが昨日の夕方の会議に参加して決まったらしい。
いつも面倒な事をしてもらって恐縮だ。
前方を六パーティ、左右に三パーティずつ、後方は砦兵が警戒を担当する。
オークは草原に多くいるので、森側にはオークがあまり居ないため、いつ見安全そうだが、
ゴブリンが多く潜んでいると考えられるので常に緊張を強いられる。
移動中は三パーティの内二パーティが警戒、一パーティが休むと言うローテーションを組むことになっている。
アタシ達は、左翼後方の位置で進行を開始した。
さて、どうなることやら。




