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漆黒の鉄槌とウサギ肉

今回の討伐メンバーは、多いのか少ないのかよく解らないが、百人を越える人員である。

期待されている討伐数は六百頭。


戦闘期間は全行程十日間の内、往復で四日使うので実質六日間である。


十二パーティが一日にそれぞれ十頭ずつ倒せば五日でノルマがクリア出来る計算だ。


話しを聞くだけなら簡単そうに見える。これは普通のオークだけなら余裕を持ってノルマクリア出来そうな数だが。強化個体が混ざることを考えるとノルマクリアは困難をきわめそうだ。



今回は、殲滅戦と言うわけではなく、個体数を減らす事が主旨であるので、見つけた全てを倒す必要はない。


強化個体を仮想敵として特訓していたアランさんやケニーさんには申し訳ないが、出来るだけ強い個体との戦いは避けるように誘導しようとアタシは内緒で決めている。



進行速度は考えていたより速い。百人分の食料などを運ぶ馬車が順調に進んでいるからだ。

過去に何度もゴブリン討伐を行っているので、でこぼこの少ないルートを知っているおかげでもある。




百人の集団で移動しているからなのか、動物はともかく、コボルトやゴブリンの姿も見えない。


結局初日は戦闘も無く、予定していた夜営地点に速い時間に到着した。


砦兵逹が夜営の準備をする、その間に冒険者達は周辺を探索して、安全の確保に努める。


アタシ達『そよ風』クランも、森側を探索した。


アタシもこっそり振動感知を行い。いくつかゴブリンの反応があったのでアランさんに報告したが。


距離も森の奥と離れているし今回の目的とは違うため、放置することになった。


でも、ウサギが沢山居るから数羽捕ってきて良いかとたずねたら。



キャサリンさんとジェニファーさんが、期待の眼差しでアタシとアランさんを見てきた。



アランさんに許可をとり、ウサギを三羽捕らえて森を出たところで解体してから、夜営地に戻ってきた。


砦兵逹が夕飯の食料とスープを配給してくれていたみたいで、キャサリンさんとジェニファーさんが配膳していた。


アタシもそこに交ざり、たき火でウサギ肉を焼いていた、鑑定を使い焼き加減を見ていたら。


「おぉ、ネズミ苦女子だけあって、ウサギ駆除も上手のようだな。そんなちっこい身体とホウキでオーク狩りなんて出来ると思ってんのか?」


と、太股だけでアタシの身体と同じくらいある、

頭つるつるで巨漢な三十代後半に見える冒険者が絡んできた。


あまりにストレートな絡み方に、唖然としてしまっていたら。


何も言い返さないアタシに気をよくしたのか

「なんでオーク狩りに参加しているんだと思ったら小生代わりか、それなら納得だ。参加するだけで金貨を貰えるんだからな。アランに泣きついたのか?」


確かにアタシの見た目を考えれば、そんな結論になっても仕方がない。

どう見ても戦闘ではお荷物以外の何者でもないから。

ネズミ駆除なんてアタシくらい大量に捕獲できなければ、生きていくことだけでやっとだ。

そこに参加するだけで金貨が貰える依頼だ。金欠と思われてもそれこそ仕方がない。


言い訳ひとつ言わないアタシに業を煮やしたのか、矛先をアランさんに向けた。


「アランもよう。いくら出費がかさんでいるからって。こんなちみっこい奴連れてきて何させてる?ちょっと目を離せばすぐ死ぬぞ。そんな奴をウサギ狩りだと?なに考えていやがる」


あれ?なんだか話しが違う方向に行ってないかい。

これは不味いアランさんに正論で話している。


正論なだけあって、アランさんもなにも言い返せないでいるよ。


ただ絡んできたのではなくて、本当の意味での良いおじさんっぽい。普通にアタシがごり押ししただなんて言ったら火に油を注ぐだけだ。



出来るだけ低い声で。

「よう。おっちゃん。さっきから黙って聞いていれば何様だぁ。」


アランさんも、巨漢のおっさんも、様相がいきなり変わったアタシに怪訝な表情を向ける。


「アタシはそもそも、ここよりずっと奥の森からホウキ一つで旅して砦にまで来たんだ。ウサギ狩っていたら油断して逆に狩られました、だなんてミスなんかしねぇよ。このホウキがオークに通用しねぇって知りもしねぇくせに決めつけるのは、あのリンゴ、青くて酸っぱそうだから食べたくないと騒ぐガキの考えだ。食べたら旨いかも知れねぇのにさ。

弱っちく見えるアタシが足を引っ張るかも知れないと心配するのも解るが。文句はアタシだけに言え。アランは関係ないだろ。

冒険者なんだから、見た目で判断せずに結果で判断しやがれ。」


と、おっさんから目を離さず言いきった。


唖然としているおっさんを、その後も睨み付けていたが。


「確かにそうだな。冒険者は見た目で判断してはいけないな」

「ちみっこいの、いやネズミ苦女子改め白い風のマッキーだったな。

なんで白い風なのか、なんでこの場にいる必要があるのか証明してみろ。

元々少数なのに、お前を守るために動く奴が一人でもいるなら、それだけオークに対応できる奴が減るんだ。

役に立たない奴は不必要だ。金目当てで参加しただけなら今ならまだ間に合う、さっさと砦に帰れ!」


最後の「砦に帰れ」は、凄い迫力だ。


これは一本取られたな。冒険者逹だけでなく、砦兵逹も、こちらを注目している。


ここで証明しないと、強制退場にされてしまう。



アタシの力の中で一番派手で役に立つと納得して貰えるのは唯一つ。


「わかった。アタシの力を見せてやる」


そう啖呵をきって身構えると。


つられておっさんも身構えた。


周りが「おぉ喧嘩かぁ」「ちと待て、ネズミが勝つと思う奴いるか?」

と、騒ぎ始める。


アタシはおっさんの目から離さずに。

「瞬きするなよ。アタシの動きが見切れるものなら見切ってみろ。」


と言いながら、両手をひらひらさせながらゆっくり反復横跳びをし、一気に踏み込んで両手を叩く猫だましをしてから真上にジャンプした。


アタシは風魔法を使い、地上三十メートルの高さで空中浮遊。


少し離れていた冒険者逹と砦兵は、あんぐりと口を大きく開いたまま上空のアタシを見ていたが、おっさんとおっさんの近くにいた冒険者逹は、アタシを探すように左右に首を動かしているだけであった。


そんなおっさんに上空から

「どこを見ている上だぞ」

と、声を掛けると慌ててこちらを見上げ、やっぱり口を大きく開けている。


そんなに浮いていても仕方がないので、一分くらいで風魔法を止めて、地上に着地した。


着地の際に、わざと風魔法を出して軟着陸っぽく演出した。


「白いはアタシの格好だけど、風はみてもらった通り風魔法が使えるから、これで『白い風』は納得してもらえたかしら?、そしてあの高さから見れば、かなり遠くまで見渡すことが出来る。間引きするのが主旨の今回の依頼ならば、どれだけ役に立つか説明する必要は無いわよね」



もしかしたらやり過ぎたかしら?

なんて不安に思っていたら、アタシのとんでもなさを何度も経験しているアランさんがいち早く復活してくれた。そして。


「それは秘密のはずでしょ。バラした駄目じゃないか。」


と、言うので。


「でも、だって、あのおじさんが。」



「保護責任者は青い閃光のリーダーである。俺なんだから、勝手な行動、約束はしないでくれ。」


「はい。保護責任者のアランさん。解りました。これからは気をつけます。」


と、頭を下げた。


これで少なくとも、星一つになるまでは下手な勧誘は受けないで済むだろう。


空中浮遊による上空からの監視は、狩りをする人達からすれば効率よく獲物を見つけられる為、垂涎の的になる。


アランさんの機転に感謝しつつ、巨漢のおっさんを見ると。


「いやぁ参った。俺の敗けだ。役立たずとか言って悪かった。この通りだ。」と言いながら頭を下げた。


謝罪は受け取った。アタシは気にしない。と言うと。


ニヤリと笑いながら。

「ありがとう。アラン達だけでは不安だから、これからは俺達、星四パーティ『漆黒の鉄槌』も『白い風』を守る。」


なんて、まだアタシを侮っているみたいだ。


言い返そうとしたら、アランさんに止められた。


どうやら『漆黒の鉄槌』は、ブラン砦では筆頭のパーティとのこと。

認めてもらったのだから、ここは素直に感謝しておいた方が、後の障害が少なくなると諭された。


アタシは全ての事を胃の麩に納めて少女チックに言った。

「『漆黒の鉄槌』のお兄さま。先程は汚い言葉使いをしてしまって、ごめんなさい。冒険者は侮られたらいけないと父親から教わっていました。アタシはお兄さまに認めていただいて、嬉しいです。どうかこれからもご指導の程、宜しくお願い致します」


と頭をぺこりと擬音が着きそうな感じで頭を下げた。


その時の心境は語るまでもないだろう。



再び言葉遣いが変わったアタシに『漆黒の鉄槌』リーダーのダンだと名乗りつつ、何だか照れているようであった。


その後、ダンさんは自分の陣地に戻っていったのでひと安心したが。


しかし、この後に悲劇が待っていた。


長時間たき火に炙られていたウサギ肉は、鑑定する必要が無いくらい真っ黒の墨になっていたのである。


それに気がついたキャサリンさんとジェニファーさんが涙を滝のように流していた。



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