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どっちも頑張れ

今、アタシは応接室でオットー支店長と対面している。


支店長は開口一番、

「単刀直入に聞くがアントニオ・バーンは嬢ちゃんの父親なのか?」


何を聞かれるかと思えばそんなことかと思い。


「違います」とはっきり答えた。


支店長は、あからさまにホッとした表情をしながら、念のためにと前置きして父親の名前を聞いて来た。


アタシの元の世界での父の名前は、何の捻りもない『糸紡 太郎』(いとつむぎ たろう)だったので横文字っぽく「父の名はタローです」と答えておいた。



どうやら、バーンさんはセントラル王国でも屈指の魔術師で二十五歳にして、王国魔術団第五番隊 隊長に任命されるなど輝かしい経歴を誇っていたが、妻子を残し突如行方不明になった。王国はその頃、王位継承問題が起きていたので、秘密を知って逃げたとか、追放されたとか、殺されたとか噂されていた。バーン家では、アントニオがそう簡単に死ぬわけないと考え、当時ギルドに捜索依頼を出していた。


年々上がる依頼料にギルドでも大々的に調べたが、足取りさえ掴めなかった。


そして十年の節目で捜索依頼が下げられた。


それから五年、行方不明になってから十五年経って、十二歳の嬢ちゃんが父親は死んだとギルドカードを持って現れたら親子関係を疑わざるを得ないとのことで、成程と納得した。


アタシがバーンさんの娘だったとしたら、妻子を残して家出した=不倫相手の娘ってことになるよね。しかも支店長はアタシの旅の目的地がセントラル王国だと知っているから名乗り出るつもりかと気になったって所かな。


依頼は全て下げられているから、ギルドは関知しないと言っているけど、支店長がここまで説明すると言うことは、言いたいのはそんなことではないよね。


アタシから余計ないざこざが起きないように、言うべきかな。




「支店長。お願いがあるのですが」





支店長との話が終わりロビーでひと休みしていると、依頼完了したと思われる人達が受付に並んでいる。時間的には昼過ぎの夕方より前くらいだから元の世界なら三時のおやつ時間かな。このくらいの時間がピークなんだね。


受付さん達が忙しく働いている様子をのんびり見ていた。



依頼料を受け取った人達は、パーティー単位で机を囲んで何やら話をしている。


アタシの周りも人で埋まってきた、話す話題は今日の依頼の事とゴブリン、オーク。


聞き耳を立てていた訳ではないが聞こえてしまう。どうやらオークだけではなく、ゴブリンにも強い個体が現れているようだ。


強ぇと言っても俺より弱ぇからなーで締められてしまったので強さがまったくわからない。


他には、近距離調査任務に出ているのが今夜にも戻ってくるらしいから、明日は外の依頼を受けようとか、飲みに行くぞーとか飯食いに行くぞーとか、そろそろくじ引きしに行くかーとか、パーティーは何だか楽しそうだなと思ってしまった。


ギルドでは食を提供していないので、話が纏まれば長居は無用とばかりに離席していく。


アタシも宿に戻ろうと腰を浮かした時に、「表に出やがれ」と大声が響きわたった。


そちらに気をむけると、どうやら足を掛けた掛けていないの水掛け論の果てのようだ。


二パーティ、十人がゾロゾロ出ていく。


ギルド内で騒ぎを起こすと、昇級にペナルティがつくから、いざこざは外で済ますのが通例のようで、それを見ていた野次馬達が賭けを始めた。


砦内では、抜刀は禁止されているので、素手での殴りあいをするようだ。



ギルドの入口前で始まったので、喧嘩が終わるまで帰れないらしい。



喧嘩を売るも買うも、どちらにも理由があったのだね。

どうでも良いけど、どっちも頑張れ、でも早く終わってくれ。



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