初めての宿屋
アタシはアランさんと別れて宿屋に居る。
ちなみにアランさん達も常用しているので、別室であるが、同じ宿である。
ベッドと机と椅子しかない簡素な部屋なのに、元の世界のビジネスホテルの三倍くらいの広さがある。
鎧とか武器とかのメンテをするには、最低限これくらいのスペースが必要なんだって。
アタシの装備品は少ないので、どんなに散らかしてもまだ余る。
広さをもて余しながら、久し振りのって言うか、この世界で初めてのベッドを堪能しつつ冒険者ギルドでの事を思い出していた。
三階の応接室のようなところに案内されて、しばらくアランさんと座って待っていると。
髭を蓄えて少し小太りだが身なりの良い人が現れ。アランさんに片手を上げて挨拶してから、冒険者ギルド ブラン支店長のモーリス・オットだとアタシに言ってきた。
アタシが草原の奥の森から一人で旅してきた事はすでに知っていて、十二歳なのに凄いね頑張ったねと一通り労ったあと、本題のオークの話を促してきたので、アランさんに話したことを同じ様にもう一度話した。
その時に、何度もオークの見た目と去っていった方向を確認してきた。
なぜなら、最近オークの中に強い個体が居ると報告されることが増えてきていたからだと。
初めは冒険者達の質が落ちてきているから、依頼失敗の言い訳に相手が強すぎると報告してきていると考えていたのだが、赤い閃光が、ほとんど何も出来ずに全滅したと言うのは、強い個体が確実にいると判断するに足りる情報であるとアランさんが考えアタシを連れてきたらしい。
支店長も同じ判断をしたらしく、本店に連絡を入れて対応を検討することしたとのこと。
その時に、赤い閃光の四枚のギルドカードと、回収できた背負い袋を提出したが、支店長は、ギルドカードだけを受け取り、背負い袋と中身は返却された。
魔物と戦い、力及ばず亡くなってしまった場合は拾った人の物になり、ギルドカードは一枚につき謝礼として銀貨二枚を渡すことになっている。
今回のように、死亡が確定出来るのはまれで殆どが行方不明扱い。でも行方不明でカードだけ見つかる=死亡と判断されて、登録から抹消することにより、ギルドの管理が出来るので、これからも見つけたら提出、無理ならば報告だけでもしてほしいとのことであった。
そこで、親から貰ったから入手先は分からないと言って、アントニオ・バーンさんのギルドカードを見せることにした。
合わせて、アタシの旅の目的地であるセントラル王国のことも聞いた。
バーンさんのカードは、旅の目的でもある遺族に渡したいと伝えたら、再使用不可処理してから渡すと聞いて預けてきた。
セントラル王国は、ここブラクソン王国の更に西にある歴史ある魔法大国。
馬車で行っても国境まで一ヶ月、それから王都のあるセントラルシティまで更に一ヶ月の最低でも2ヶ月掛かるらしい。
季節や天候によって延びることはあっても縮まる要素はないらしい。
急ぐ旅では無いので、アタシは元気にありがとうございますと答えたら、少し引いていたような気がする。
その後、赤い閃光のギルドカード分銀貨四枚貰って退席して、門兵から一時滞在入門許可書の引き換えをして、宿を紹介してもらいすでに戻ってきていた青い閃光のみんなと夕飯を一緒に食べた。
この世界で初めての料理にえらく感動して涙を流しながら、「美味しいです」と言いながら食べてたら、みんなに引かれたけど、宿屋の親父兼料理人さんが喜んでくれてデザートのフルーツをサービスしてくれた。
お腹一杯になり眠くなってきたので、もう少し飲むと言うアランさん達と宿屋の親父に礼を言って、先に部屋に引き上げて今に至る。
ベットの心地好さに、そのまま眠り落ちかけたが、振動感知能力が沢山の人間の振動を拾ってきて、気になって眠れない。
人間サイズの振動は、大型生物程の大きさの振動なので、無視することは難しい。
森の中で、一人生きる為の生命線となっていた振動感知であったが集団生活には適さない事がわかってしまった。
泣く泣く、ベッドを諦めて蜘蛛糸警報器を部屋の中に張り、その上で寝ることにした。
寝心地が悪いわけでは無いが、ベッドがあるのにベッドを使えないことに真紀は悶々としつつも、すぐに眠りに落ちた。




