世界の王とパンツ
どうしよう。
アタシはピィコの背中で悩んでいる。
実は無抵抗でピィコの背中に乗ったのは、気が回復していたからだ。
さすがに完全では無かったけど。逃げるだけなら問題ないくらい。
でもピィコもミーヤもアタシを拘束さえしないのである。
それは逃げられても捕まえられるという自信なのか、逃げることは無いと信用しているのか分からないけど。
信用してくれているなら逃げるのは悪手である。
どんな報復が待っているのか分かったものではないからだ。
アタシもミーヤを信用はしている。どう考えても悪い猫には見えないからだ。今も後ろで丸くなって目をつむっている。
ピィコはよく分からない。話すのが苦手なのかあまり喋らないから。でも悪い鳥には見えない。
そんな二人を率いる世界の王が悪いとも思えないが、未知の恐怖は拭えない。
本当にどうしよう。
取り合えず腹が減っては戦は出来ぬに従って背負い袋から燻製肉を取り出し噛むことにした。
暫く噛んでいると視線を感じる。振り向くとミーヤがこちらを見ていた。正確にはアタシが食べている燻製肉である。
背負い袋から取り出し差し出すと目を細めて嬉しそうに食べ始めた。
アグアグと擬音でも付きそうな食べ方を見ていると癒される気がする。
思わず微笑んでしまった。
逃げる方法は色々あるが、腹を据えて世界の王に会ってみよう。
アタシが、なぜこの世界に居るのか分かるかもしれないしね。
それにしても、これはアタシの直感だから本当にそうだか分からないけど、今ピィコが飛んでいる方向ってアタシが産まれた岩山なんじゃないかい?
真下は見えないけど、多分オークのいる草原の上空を飛んでいると思う。
そして飛んでいる先に見える山は見覚えがある。
ブラン砦に着くまで何度も振り向いていたから山の形は覚えているもの。
途中滞在して居たとはいえ、アタシが十ヶ月掛けて歩いて来た場所に戻ると言うことなのか。
それってスゴロクで最大最悪なマスである『振り出しに戻る』を踏んでしまったようなものか。
アタシは思わず溜め息をついてしまった。
空の旅も三日間であった。ピィコは夜あまり飛びたくないらしく、暗くなると地面に降りていた。
その間の食事は何故かアタシが食材を出した上、料理をしてもてなしていた。ミーヤもピィコも生肉丸かじりで問題ないからアタシは自分の分を料理していた。
アタシの食べ物の味を知っているミーヤが物欲しそうに見るから与えてしまったのが失敗、ピィコまで欲しがりるようになってしまった。
アタシの調理した物はデザートとかオヤツ感覚で少量で良いみたいだからまだいいけど。
他にはピィコが白い包帯の飾りが欲しいと騒いだり。
毛だと抜けやすいということで結局左足に結んだけど。ミーヤに対する罰だったはずなのに喜んでいた。
そして直感というか予想通り岩山に着いた。
初め南に行きそれから西に行く三角形の二辺を歩き、国境を越えたのに最短距離で戻ってきてしまった。
ここにアタシの家があると言うと二人は驚き疑っていた。なので案内する。はたして懐かしの我が家はまだそこにあった。
我が家と言っても洞窟の隅にあるハリボテだが。
特に変わった所もなく誰もここには来ていないようだ。
なんだか力が抜けてアタシはその場にしゃがみこんでしまう。自然と涙が零れ落ちていく。
変わらぬ我が家を見て今まで旅をしていたことが夢であったような錯覚にとらわれた。
だが背後にはミーヤとピィコが居る。
旅は夢ではないのだ。
アタシは涙を拭って立ち上がり二人を見てから「お待たせしてごめんなさい。ありかとう」と謝罪と感謝を伝えた。
その時、周囲が暗くなった。空を見上げると巨大なドラゴンが飛んでいる。
慌ててお尻から糸を出して身体を岩に固定して伏せた。
以前のように突風に吹き飛ばされないようにするためだ。
本心ではドラゴンから逃げたいけどミーヤとピィコが居るからそれは出来ない。
何を置いても逃げようと誓っていたのに行動が伴わないのはアタシの悪いところだ。
見える空がドラゴンだけになったと思ったら唐突にその姿を消した。
突風も吹かず、岩に伏せているアタシはバカっぽい。
気恥ずかしさを感じながら蜘蛛糸を解除して立ち上がると、知らない人が居た。
伸び放題の白い髪と髭。
皺枯れた細い身体はお爺さんと言って良いだろう。
身長はアタシより小さいから百ニ十センチくらい。
そしてお約束の裸である。なんでこの世界の変な人はみんな裸なのか。小さくとも女性の前なのだからTPOを守ってくれと一時間くらい説教をしてやりたくなったが。
ミーヤとピィコはひざまずいている。
と言うことは、この人が世界の王なのだろうか。
ここに来るまでの間、世界の王に体面すると言う未知の恐怖に怖れ緊張していた筈なのに。
パンツを作ったら着てくれるのであろうかと真剣に考え込むマッキーであった。




