逃げる時は新スキルで
茶色い何かは地面に降り立った。
それはまた謎の生物であった。
簡単に言えば、茶色い羽毛のコートを着た裸の女性である。
コートに見えるのは自前の羽毛だから裸と言うには語弊があるが。
今更逃げ出しても追い回されるだけのような気がするので、何とか話し合いに持っていきたい。
何はともあれまず。
「おはようございます。今朝も良い天気ですね。
本日の後用向きはミーヤ様ですよね。アタシの用事は終わりましたので御ゆっくりどうぞ。それではアタシは先を急ぎますので。ごきげんよう。」
さっさと逃げ出すことを選択した。
「アーラ。私ガ用ノ アルノハ アナタデスヨ」
だがしかし、そうは問屋は卸さないようだ。妙な口調の甲高い声で話し掛けられてしまった。
内心『この所、失敗続きだなあ』と思いつつも諦めて対応することにした。
予想通り、茶色い何かは大空の王であった。
大空の王は『ピィコ』と言い、やはり動物型にも人型にもなれると言う。
身長二メートル、出るとこは異様に出ていて引っ込んでいるところは、羽毛に埋もれているから良く分からないけどグラマーであることは間違いない。
でもやっぱりおかしい。
何故あんな十メートルサイズの巨大な鷹が二メートルの女性になるのか?
質量保存の法則はどうなったのだろう。
魔法が全てを解決しているのだろうか?
気にはなるけど、それは置いといてピィコへの対応を続ける。
ピィコはミーヤを見て馬鹿にしているようだった。
「何ダ 食ベラレテ イナイジャナイカ コンナ小サイ生キ物ニ捕マッタナンテ 大地ノ王モ弱クナッタモノダナ」
「うるさいにゃ。ウチはわざと捕まっただけにゃ。いざとなればどうとでも出来るにゃ」
「ソノ割リニハ 念話ガ切羽詰マッテイタゾ」
「そ それはだにゃ。あんにゃのいきなり受ければ誰でもびっくりするにゃ。世界の王の命は何事にも優先されるにゃ」
アタシに用事があると言いながら、なんだかアタシそっち抜けで、話しが進んでいるような気がする。
話しの中心にされていないなら、それはそれで良いのだけど。
一応、王達の会話なのだから、口を挟んだらだめだろう。
アタシは空気になるしかない、そしてそのまま溶け消えて忘れられてしまえば良い。
そう言えば、あのゲームにも、潜伏スキルがあったなぁ。
誰にも注目されていなかったり、モンスターにターゲットにされて追い掛けられたりされていても木を影にして視線を遮ったりすると、潜伏スキルを使えば相手から見えなくなると言うスキルだったなあ。
みんなで狩りに行ったとき、戦いの邪魔にならないように隠れていたものだ。
狩りに行ったのに戦闘に参加せずに隠れるのもおかしな話しだけど、プレイヤースキルが低いアタシはそれが普通だったなあ。
でもちゃんと役にはたったのだよ。殺られてもアタシの包帯巻きで復活することが出来たからね。
潜伏スキルは一人の時でも、大活躍。
ちょっと離席する時に便利なのだ。敵の巣窟に居ても、一度スキルが発動すればモンスターに襲われないで済むのである。
ただ困ったことに、襲われないのは確かなのだけど、ここに何か居るっていうのは分かるようで、目の前で立ち止まったり周囲をうろつかれたりするのだよね。
逃げられる敵なら、ダッシュで逃走だけど。逃げられないような強い敵だと根比べ。
モンスターが諦めてどっかに行くまで、ジュースを飲んでいたりしていたから、根比べは連戦連勝だったなあ。
リアルで鼻先にモンスターがいたら潜伏は耐えきれないような気がするけど。
潜伏スキルを使って忍び足でゆっくり移動すれば安心だね。
大地の王と大空の王と囲まれているこんな状況を打破するために、そんなスキルがあるといいな。
その時、足に砂が掛かった様な気がした。
何だろうと足元を見るとアタシの足が見えない。
感覚的に足が有ることは確かなのだけど見えない。
良く見ると足どころか、腕も身体も見えない。
久し振り過ぎて忘れていたが、黒い小石がスキルを与えてくれたらしい。
暫く言い合っていた二人の王は話しを中断してこちらを見だした。
「元々気配ノ薄イ生キ物ダト思ッテイタガ消エタヨ。思念体カ何カダッタノカ」
「確かに消えたにゃ。でも肉体は確かにあったにゃ。ウチの攻撃を徹底的に避けていたからにゃ。肉体がなければ避ける必要はないにゃ。それに、尻尾に白い紐を付けてもらったにゃ。」
と尻尾に付いた蝶結びを振って見せている。
「ホォ可愛イデハナイカ。マルデ蝶蝶ガ尻尾ニ留マッテイルヨウダ」
「そうにゃんにゃ。似合っているかにゃ」
「妾モソノ蝶蝶ガ欲シイゾ。」
「でもにゃ。これは罰にゃ。お仕置きだにゃ。ピィコも約束を破れば貰えるかもしれないにゃ」
なんか不味い話しをしているような気がするけど。
まぁ良いや。
潜伏スキルを使用しながら忍び足は大変であるが、少しずつ離れて今は百メートル程離れた森の中だ。
地の王ことミーヤの探知範囲を考えるとまだまだ油断出来ない。
身体はまだ透けて見えるからスキルは持続中だ、もう少し頑張らなければなるまい。
アタシは可能な限りゆっくりと先に進んだ。




